ソフトウェア開発業界のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

ソフトウェア開発昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介のメインビジュアルイメージ

更新日

  • #業種別M&A動向
  • #ソフトウェア開発業界 M&A

ソフトウェア開発業界のM&A動向について

ソフトウェア開発業界のM&Aは、急速な技術革新や人材不足、経営者の高齢化といった課題を背景に、事業成長や競争力強化の手段として注目されています。特にAIやクラウド、SaaS分野での買収が活発化し、大手企業や異業種からの参入も増加傾向です。
そういった状況のなか、今後は優秀なエンジニアの確保や新技術の獲得、事業領域の拡大を目的としたM&Aが、さらに増加すると見込まれます。

本記事では、ソフトウェア開発業界のM&A動向や、代表的な事例を解説します。

ソフトウェア開発業界の概要

ソフトウェア開発業界は、M&Aの対象として注目を集めています。まずは、業界の定義と特色について、把握しましょう。

ソフトウェア開発業界の定義

ソフトウェア開発業界とは、コンピューターソフトウェアの設計・作成・テスト・保守を行う業界です。参入には特別な認可は必要無く、プログラミングスキルと創造力があれば、誰でも仲間入りを果たせます。そのため、参入障壁は比較的低く、個人や小規模なチームでも、自宅や小さなオフィスで事業を開始することが可能です。

大規模なソフトウェア開発企業は、主に大都市やITのハブとなる地域に集中しています。一方、小規模な開発企業やフリーランスの開発者は、地方や人口密度の低い地域でも活動しているケースが一般的です。物理的な場所に縛られず、インターネット環境があれば、どこでも作業が可能なことを示しています。

また、従業員数が4人以下の小規模な開発企業や個人開発者が、全体の大部分を占めているのが特徴です。これらの小規模な開発者が、新しいアイデアや革新的なソフトウェアを生み出し、業界全体の発展に貢献しています。

ソフトウェア開発業界の特色

ソフトウェア開発業界の経営は、個別開発をモデルとするか、チーム開発を中心とするかで、それぞれのマネジメントシステムは大きく異なります。技術の進歩に伴い、クライアントのニーズが個々のプロジェクトに合わせた開発を求めるようになり、大手ソフトウェア開発企業も、個別開発を積極的に導入するようになりました。

個別開発には、個別のプロジェクトとニーズに対応する開発者の数を増やす必要がありますが、固定費が大きくなり、損益分岐点を上昇させる結果につながります。固定費を変動費化するためには、開発者のアルバイト雇用やフリーランスとの外注契約、あるいは家賃が手頃な空中階 にオフィスを設置するなどの経営努力が欠かせません。

大手企業は、これらの経営圧迫要因を解消するため、またクライアントの案件やニーズにも対応するため、インターネットを使ったリモート開発に積極的に投資しています。

ソフトウェア開発業界のM&A動向・市場規模

情報サービス業(ソフトウェア開発、プログラム作成)市場規模推移
参考:長期データ|特定サービス産業動態統計調査(METI/経済産業省)

経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、ソフトウェア開発業界の市場規模は2024年に約12兆96億円となり、前年比105%で過去最高を記録しています。なお、IDCが実施した「国内IT市場 地域別 前年比成長率予測、2025年~2028年」によると2025年の国内IT市場規模は前年比8.2%増の26兆6,412億円と推計され、今後も成長が続く見通しです。

国内ソフトウェア市場の成長の背景には、デジタル庁が推進する政策(最新の施策・制作をピックアップ)があり、今後も市場拡大が見込まれています。ERP(基幹業務システム)市場も拡大傾向であり、電子帳簿保存法やインボイス制度対応、クラウドERPの普及が、市場成長を後押ししています。

一方で、人材不足や経営者高齢化、技術革新への対応を背景としたM&A活用は、中小企業全般で拡大傾向にあり、ソフトウェア開発業界も例外ではありません。

今後もソフトウェア需要への対応に向けた人材獲得および高度化するニーズへの対応として、M&Aの活用が進んでいくことが予想されます。

ソフトウェア開発業界でM&Aを活用するメリット

ソフトウェア開発業界でM&Aを活用する主なメリットとしては、以下が挙げられます。

それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。

最新技術やノウハウをスピーディに取り込める

ソフトウェア開発業界では、技術の進化や開発手法の多様化が日々進んでいます。M&Aを活用すれば、他社が有する高度な開発技術やアーキテクチャ、ナレッジを短期間で吸収できます。これにより、開発スピードや品質、新領域への対応力などの向上が期待できるでしょう。特に、即戦力となるエンジニアの確保は、自社で採用・育成するよりも効率的に実現可能です。

市場シェア・事業領域の拡大に直結する

特定業種向けや地域密着型のソフトウェア企業をM&Aすることで、自社では接点のなかった顧客層や販売チャネルを一気に取り込めます。自社製品との連携によるクロスセル、アップセルも狙いやすく、事業領域を広げながら売上の拡大が見込めるでしょう。また、クラウド・SaaS・業種特化型ソリューションなど多様なポートフォリオを組むことで、市場変化への柔軟な対応も可能になります。

経営視点での基盤強化・スケールアップを実現できる

経営環境の変化が激しいソフトウェア開発業界で持続的に成長するには、スピードと安定性の両立が必要です。M&Aを活用し、資本力や人材、運営ノウハウといった経営資源を一体化すれば、組織の安定性と成長性を同時に高められます。特に、後継者不在や競争力の低下といった課題を抱える企業にとっては、事業継続と価値向上の選択肢になるでしょう。また、技術力を土台にした新規事業創出や、マーケット拡大の加速にもつながる点が魅力です。

ソフトウェア開発業界のM&A事例

ソフトウェア開発業界では、多くのM&Aが行われています。以下に、その具体的な事例を紹介します。

株式会社TISと株式会社インテックホールディングス

株式会社TISと株式会社インテックホールディングスは、2008年4月1日付で株式移転により共同持株会社「ITホールディングス株式会社」を設立しました。売上高の合計は約3300億円規模となり、専業ではNTTデータに次ぐ2位グループに浮上しました。

TISはクレジットカード・製造・化学業界を、インテックHDは銀行・保険業界などを得意としています。顧客基盤の拡大と得意分野の拡充を図り、2010年度の売上高は4000億円、営業利益は400億円を目指しています。

コンピューターサイエンス株式会社とセイコーソリューションズ株式会社

2024年1月、セイコーソリューションズ株式会社は、システムソリューション事業の拡大と加速化を図るため、コンピューターサイエンス株式会社を子会社化しました。

買い手となったセイコーソリューションズは、企業のDX推進やビジネスモデル変革が進むなか、DXプラットフォームの安定稼働を支える性能管理や、セキュリティ管理の重要性が増していることを背景に、システムソリューション事業の拡大と加速化をめざしていました。一方、売り手となったコンピューターサイエンスは、ITインフラ構築・運用やシステム開発、セキュリティ分野で高い専門性を持つ会社です。

セイコーソリューションズの性能管理やセキュリティソリューションと、コンピューターサイエンスの総合的なシステム開発・運用力を融合させることで、顧客のDX推進をさらに強力に支援し、両社の成長と顧客満足度の向上を目指します。

富士ソフト株式会社とサイバネットシステム株式会社

富士ソフト株式会社は2023年11月、神戸製鋼所の全額出資子会社であるサイバネットシステム株式会社を買収しました。

サイバネットシステム社が得意とする、科学技術計算分野のノウハウを吸収すると共に、神戸製鋼所の取引先を開拓することが目的です。

株式会社PKSHA Technologyと株式会社エクストーン

2025年1月、株式会社PKSHA Technologyは、株式会社エクストーンを子会社化しました。売り手となったエクストーンは、WebサービスやアプリのUI/UXデザインから開発・運用まで一貫して手がけるクリエイティブスタジオであり、AI時代におけるユーザー体験の最適化や新たな価値創出が期待されています。

このM&Aの狙いは、両社の技術やノウハウを融合することで、AI技術とUI/UXデザインのシナジーを生み出し、顧客企業へのソリューション提供力を強化することです。今後はエクストーン社内でのAI活用による生産性向上や、両社の協業による新サービス開発など、さらなる事業拡大が期待されます。

ソフトバンクグループ株式会社とAmpere Computing社

2025年3月、ソフトバンクグループ株式会社は、米Ampere Computingを総額65億米ドル(約9,730億円)で買収すると発表しました。

売り手企業のAmpereは、エネルギー効率に優れたArmベースのサーバー向け半導体設計に強みを持ち、AIやクラウド分野の成長市場で重要な役割を果たすと評価されている企業です。買い手のソフトバンクグループは、グループが持つ広範なエコシステムと、Ampereの先端技術を統合することで、AI技術のイノベーションやデータセンター向けソリューションの強化を目指しています。

なお、Ampereの主要株主であるCarlyleとOracleも持分を売却し、Ampereは今後もカリフォルニア州サンタクララを本拠地として事業運営を継続する予定です。

ソフトウェア開発業界におけるM&A成功のポイント・注意点

ソフトウェア開発業界でM&A成功させるには、技術や人材など無形資産の継承確認と、柔軟かつ迅速な統合計画による人材流出防止やシステム統合が不可欠です。

無形遺産の引継ぎについて確認を行う

ソフトウェア企業の価値の多くは、技術力やエンジニアといった無形資産に依存しています。そのため、M&Aに先立つデューデリジェンスでは、保有技術や開発体制、人材構成に加え、ソフトウェアの著作権・ライセンス・OSSの利用実態など、知的財産の状況を丁寧に確認することが不可欠です。特にクラウドやSaaSを提供する企業では、顧客契約や外部ベンダーとの契約が承継可能かどうかも、実務上の大きなリスク要因となります。

関連記事
デューデリジェンス(Due Diligence)とは?
目的や具体的な手順と注意点を解説

柔軟かつスピーディなPMI設計を行う

M&A後の統合を成功させるには、事前に緻密なPMI計画を描いたうえで、スピーディかつ柔軟に進めることが不可欠です。

まずはエンジニアの処遇やキャリアパスを明確にし、人材の流出を防ぐ体制を整えましょう。さらに、開発プロセスや使用技術の違いを早期に洗い出し、現場間の対話を通じてスムーズな融合を図ります。企業文化や働き方の違いにも配慮しながら、組織体制や事業方針を段階的に調整することがポイントです。

システムやサービスの統合では、並行運用や段階的移行の選択肢も視野に入れ、顧客への影響を最小限に抑える設計が求められます。また、統合遅延やコスト増のリスクにも備え、事前に対応策を準備しておくと安心です。

関連記事
M&AにおけるPMIとは?
重要性や実施項目、プロセス、成功させるためのポイントを解説

ソフトウェア開発業界における今後のM&Aの課題と展望

ソフトウェア開発業界では、人材確保が今後も大きな課題であり、なかでも経営者の高齢化や事業承継問題が顕在化しています。そのため、優秀な人材獲得や、次世代経営者へのバトンタッチを目的としたM&Aが盛んに行われている状況です。

近年は生成AIやデータ活用の高度化により、AIスタートアップや特定分野に強みを持つ企業の買収が加速しています。サービスの差別化や価格競争の激化で、中小企業単独での成長維持が難しくなり、業界再編が一層進む見通しです。

また、日本企業の競争力強化や海外市場進出を目的としたM&Aも多く、今後もさらに増えていく見通しです。

成約実績一覧
当社がお手伝いしたIT・WEB業界のM&A事例

M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
着手金・月額報酬がすべて無料、簡易の企業価値算定(レポート)も無料で作成。秘密厳守にてご対応しております。
以下より、お気軽にお問い合わせください。



よくある質問

  • ソフトウェア業界でM&Aが増えている背景は何ですか?
  • 技術革新のスピードと人材不足への対応、そして事業領域拡大を狙う企業のニーズが重なっているためです。
  • 買収側が得られる主なメリットは何でしょうか?
  • 最新技術や優秀なエンジニアを短期間で確保でき、販売チャネルや顧客基盤を一挙に拡大できる点です。
  • デューデリジェンスで特に確認すべきポイントは?
  • 保有技術の知的財産権、ライセンス状況、開発体制、人材構成、顧客契約の承継可否などを詳細に確認します。
  • PMIを進めるうえで注意したいことは?
  • エンジニアの処遇を早期に明確化し、開発プロセスの違いを調整しながらスピーディに統合を進めることです。

ご納得いただくまで費用はいただきません。
まずはお気軽にご相談ください。

監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社企業情報部 部長山﨑 研
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長
山﨑 研

大手証券会社にて上場・未上場企業オーナーの資産運用およびIPO支援・M&A支援に従事。
2011年から当社に参画し、現在は社内トップクラスのM&A成約実績を重ねている。

詳細プロフィールはこちら


M&A関連記事

M&Aへの疑問

M&Aへの疑問のイメージ

M&Aに関する疑問に市場統計や弊社実績情報から、分かりやすくお答えします。

業種別M&A動向

業種別M&A動向のイメージ

日本国内におけるM&Aの件数は近年増加傾向にあります。その背景には、企業を取り巻く環境の変化があります。

M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由

創業以来、売り手・買い手双方のお客様から頂戴する手数料は同一で、
実際の株式の取引額をそのまま報酬基準とする「株価レーマン方式」を採用しております。
弊社の頂戴する成功報酬の報酬率(手数料率)は、
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」を誇っております。