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SES業界のM&A動向について
SES業界は、デジタル化の進展による需要の拡大から、毎年右肩上がりに市場規模の拡大を続けており、その傾向は今後も続くことが見込まれます。
一方、人材不足が課題になっており、その解決策として、M&Aが注目されています。
本記事では、SES業界の概要を紹介したうえで、M&Aの動向やメリット、事例、成功のポイント、今後の展望などについても解説します。
SES業界の概要
SES業界は、システム開発やITサービスの提供を通じて、企業のデジタル化を支援する業界です。技術者派遣を中心に、多様なITソリューションを提供しています。
ここでは、SES業界の定義と特色について解説します。
SES業界の定義
SES業界は、システムやソフトウェアの開発・運用などを行う、システムエンジニアリングサービス(SES)事業を中心に展開しているのが特徴です。
SES事業者の契約形態では、エンジニアが必要な企業に自社のエンジニアを派遣し、技術力を提供します。報酬は、提供した技術力に対して受け取ることが一般的です。作業スタイルは概ね、エンジニアがクライアント企業に常駐する形となります。
SES業界の特色
SES業界の最大の特徴は、多様なスキルを持つエンジニアやコンサルタントがそろっていることです。Web・アプリ開発、システムインフラ構築、ネットワーク構築、セキュリティ対策など、幅広い専門分野のエキスパートがクライアント企業の課題解決を支援します。近年では、AI・ビッグデータ・IoTといった、先端技術に関する知見を持つ人材も求められています。
SES業界では、短期集中型のプロジェクトが多いことが特徴です。顧客企業のニーズに合わせて、迅速にチームを編成し、プロジェクトを遂行することが求められます。高いマネジメント力、コミュニケーション能力、変化に対応する柔軟性も欠かせません。
昨今のデジタル化の進展により、SES業界の需要は急速に高まっています。一方で、優秀なエンジニアやコンサルタントの獲得競争は激化しており、人材が足りないことが課題です。SES企業は、魅力的なキャリアパスや働き方改革などを通じて、人材確保と育成に力を入れています。
SES業界のM&A動向・市場規模

株式会社矢野経済研究所の調査によると、2023年度の国内民間企業のIT市場における売上高は15兆500億円で、前年度比6.3%増と推計されました。デジタル化の推進により、今後も売り上げの増加が予測されます。
市場は拡大傾向にある一方で、ITに関する人材不足が懸念されているのが現状です。独立行政法人 情報処理推進機構の「DX動向2024」によると、DXを推進する人材は「大幅に不足している」企業が、2021年度、2022年度に比べて著しく増加しており、IT人材の不足が深刻化していることがわかります。
SES業界では、事業承継の手段としてだけでなく、IPOや人材確保など成長戦略の手段としても、M&Aを活用するケースが活発化することが予想されます。
SES業界でM&Aを活用するメリット
SES業界では、M&Aを活用することでさまざまなメリットを得られます。
例えば、即戦力となる人材を確保できることが挙げられます。売り手企業に在籍する優秀なエンジニアや営業人材を獲得することで、買い手企業は自社の技術力や営業力の強化が可能です。これは、人材不足が常態化する状況において、大きなメリットといえるでしょう。
また、両社の採用・営業ノウハウを共有することで、社内体制が底上げされ、組織全体の競争力向上につながるでしょう。
さらに、業務統合によるコスト最適化も図れます。重複する機能の統合や、規模の経済を活かしたコスト削減により、収益性の改善が期待できます。
加えて、顧客基盤・技術領域の拡大も可能です。受託先や取引先との関係も引継げるため、既存事業の安定運営がしやすい点も魅力となっています。
このように、M&Aは、組織の人材・技術・仕組み・顧客を一体で引き継ぐ手段として、成長戦略の中核を担う手法です。
SES業界のM&A事例
SES業界では、人材確保や事業拡大を目的としたM&Aが活発に行われています。ここでは、SES業界の代表的なM&A事例を紹介します。
株式会社カヤックと株式会社アドア
ゲーム開発事業を主に展開する株式会社カヤックは、2021年9月29日に、システム・ソフトウェアの受託開発やSESに取り組む株式会社アドアの株式を取得し、子会社化しました。
事業領域やサービスの拡充、シナジー効果のほか、クリエイターコミュニティの構築による秋葉原地域の活性化へ貢献することを目的に、子会社としてグループ傘下に迎えています。
株式会社エアトリグループと株式会社EAエージェント
株式会社エアトリは2023年10月 、グループ会社の株式会社エボラブルアジアエージェント(EAエージェント)を完全子会社化し、社名を「株式会社エアトリエージェント」に変更すると発表しました。
EAエージェントは2017年、EVOLABLE ASIA CO., LTD.(EVA社)に子会社化され、グループ会社となっていましたが、今回のEVA社の株式譲渡に伴い、エアトリの完全子会社となりました。
今後は、エアトリグループの知見や、ITオフショア開発事業部の開発力を活用し、さらなる事業拡大を目指しています。
テモナ株式会社と株式会社サックル
2022年4月、テモナ株式会社は、システム受託開発企業である株式会社サックルの全株式を取得し、子会社化しました。
取得価額は3億円です。このM&Aにより、テモナはグループ内の開発力を強化し、サブスクリプション領域の提案力を向上させることを目指しています。
株式会社プロジェクトカンパニーと株式会社クアトロテクノロジーズ
株式会社プロジェクトカンパニーは2022年9月、エンジニア人材を取引先に派遣するSES事業を行う、株式会社クアトロテクノロジーズの全株式を取得し、子会社化しました。
クアトロテクノロジーズは、親会社でWeb関連サービスを手がけるcuatro pistasのSES事業を会社分割して、設立しました。DX(デジタルトランスフォーメーション)領域に通じたエンジニア人材の獲得などが狙いです。
ATLIKE株式会社とレバテック株式会社
2024年4月、ATLIKE株式会社は、レバテック株式会社に全株式を譲渡しました。これにより、ATLIKEはレバテックの完全子会社となっています。
ATLIKEは、顧客企業のIT課題に対し、企画構想・提案から開発、テスト、運用保守まで、一貫した支援体制を構築するという、喫緊の課題を抱えていました。この課題解決とさらなる企業成長を目指し、ATLIKEはレバテックへの会社売却を選択します。
このM&Aでは、顧客に対しより強固なチーム体制での支援が実現されるというシナジー効果が期待されています。
SES業界におけるM&A成功のポイント・注意点
SES業界のM&Aでは、技術者の継続雇用が事業価値の維持に直結します。技術者の離職は、顧客との取引解消にもつながりかねないため、慎重に対応しなければなりません。
買収前のデューデリジェンスでは、稼働中の技術者の契約状況や定着率、クライアントとの信頼関係の有無を丁寧に確認しましょう。買収後も、待遇の維持やキャリアパスの提示に加え、企業文化や評価制度の差異に配慮したPMI設計が重要です。
また、顧客契約が属人的であるケースも多く、現場担当の変更が取引解消に直結するリスクもあるでしょう。そのため、キーパーソンの早期巻き込みや、引継ぎに関する計画の策定が成功のカギを握ります。
これらの点を考慮し、人材を中心とした統合戦略を立案することが、SES業界におけるM&A成功の重要なポイントです。
SES業界における今後のM&Aの課題と展望
SES業界におけるM&Aの、今後の課題と展望について見ていきましょう。
人材不足解消のためのM&Aのさらなる活発化
SES事業者が派遣するエンジニアについても、人材不足が懸念されています。特に、小・中規模の事業者においてはエンジニア不足が深刻化しており、案件の受注をセーブするなど、事業活動への障壁が見受けられます。
IT人材の不足を解消するため、技術者が在籍するSES事業会社を買収するケースが、さらに増加することも予測しなければなりません。また、DX化の高まりと共に、異業種M&Aも活発化すると考えられます。
構造上の問題
SES業界には、顧客から受注した企業がさらに別の会社に開発を依頼し、下請け会社が多層的に発生する「多重下請け構造」という問題があります。
多重下請け構造は、SES業界全体にとって解決が急がれる課題であり、労働環境の悪化や市場競争力の低下を招く恐れがあるため、懸念事項の一つです。
海外の大手企業が日本のSES事業会社を買収し、システム開発・管理・運用の効率化を図っているように、日本国内においても、多重下請け構造を解消するためのM&Aが活発化することが予測されるでしょう。
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よくある質問
- SES業界でM&Aが増えている主な理由は何ですか?
- DX需要の拡大で人材確保が急務となり、即戦力エンジニアや顧客基盤を短期で得られる手段としてM&Aへの関心が高まっているためです。
- 成功するために最も重視すべきポイントは何でしょうか?
- 技術者の離職防止策を盛り込んだPMI計画と、稼働状況や契約形態を詳細に確認するデューデリジェンスが鍵となります。
- 買収によって得られる代表的なメリットは?
- 即戦力となる人材の確保、顧客基盤・技術領域の拡大、重複業務統合によるコスト最適化などが挙げられます。