更新日
- #業種別M&A動向
- #家電量販店業界 M&A
家電量販店業界は、縮小傾向にある市場環境の中で再編や戦略的なM&Aが進めながら、新たなビジネスモデルの構築を目指しています。
コロナ禍以降、生活様式や消費行動が急速に変わったことで、AV機器や生活家電、IT・オフィス機器市場にも影響が出ています。拡大・成長傾向にあるEC市場やリユース市場、EV市場への参入、家具業界との提携によるトータルコーディネートの提供など、特に大手家電量販店では経営多角化の動きが見られるのが現状です。
この記事では、家電量販店業界のM&A動向を具体例をあげて解説しつつ、業界の今後の展望や成功のためのポイント、注意点をまとめています。
目次
家電量販店業界の定義
家電量販店とは、電機メーカーと販売店の系列制度を廃止し、消費者が各メーカー製品を比較して購入できるようにした大型店舗の多店舗展開業種です。豊富な品揃えと商品知識を持つ販売員がいることも特徴となっています。
家電量販店は大きく3つのタイプに分けられます。1つ目は、主に郊外の幹線道路沿いに展開する大型チェーン化した「郊外電器店系」、2つ目は、カメラ専門店から家電販売へと発展し、駅前で大型化した「カメラ店系」です。3つ目は、電気街のパソコン専門店が大型化した「電気街・パソコン店系」です。
家電量販店業界の特色
家電量販店のビジネスモデルとして特徴的なのは、主にメーカーから一定数の商品を仕入れることで卸値を抑え、大量に販売する「薄利多売型の販売戦略」です。そのため、一度に多くの商品を仕入れることが求められ、大型店舗化や多店舗展開が進んでいます。いかに短期間で売り切るかが最も重要視されており、在庫リスクを回避するために店舗間で在庫の平準化を行う仕組みも導入されています。
家電量販店の始まりについて
家電量販店の始まりは、秋葉原などの電気街でラジオやAV機器の販売・修理を行っていた電機商会などが家電を取り扱い始めたことにあります。1980年代には、現在も大手として残るヨドバシカメラやビックカメラなどのカメラ専門店が、AV機器や生活家電の販売を本格化させ、東京の主要駅周辺を中心に店舗を展開しました。
1990年代に入ると、郊外に多数の駐車場を併設した大規模店舗が登場し、「郊外電器店系」と呼ばれる店舗チェーンが急速に広がりました。近年では、エコポイント制度の終了や、アマゾン・楽天などのインターネット通販の台頭により、従来の家電量販店は厳しい競争環境に直面しています。
新型コロナウイルスの蔓延初期である2020年には、巣ごもり需要や、テレワークに伴うオフィス用品ニーズもあり、業界は再伸長しました。しかし2021年以降、需要の反動減や物価高もあって再び減少傾向に転じています。
一方で、省エネ家電や高機能製品の需要は引き続き堅調であり、各社は非家電商品の取り扱いやリフォーム事業への参入、海外展開など、新たな取り組みを進めている傾向があります。
家電量販店業界の環境の変化
●2023年度までの家電量販店の市場規模推移(100万円)

※出典:経済産業省「確報|商業動態統計」
家電量販店各社は、コロナ禍後の対応に苦戦している状況です。2024年9月公表の商業動態統計月報によると、2023年度の家電大型専門店商品販売額は4兆6,294億1,600万円で、前年度と比較して1.1%減少しています。
一方で、業界再編は一旦落ち着いており、一部の総合電機メーカーが値引き防止目的で価格指定制度を導入したことで過剰な価格競争が抑制されている点は、経営者の安心材料です。
以下では、GfK/NIQ Japanの公表データをもとに、2024年上半期の家電カテゴリー別市場動向を紹介します。
AV市場
AV機器(テレビ、BDレコーダー、ヘッドホン・ヘッドセットなど)は、家電量販店の商品販売額中の1割以上を占める重要カテゴリーにあたります。
AV機器の2024年上半期における商品別市場規模は、以下の通りです。
市場規模 | 前年比 | |
---|---|---|
薄型テレビ | 約220万台 | −1% |
BDレコーダー | 約41万台 | −19% |
ヘッドホン・ヘッドセット | 約890万本 | −3% |
※出典:NIQ「2024年上半期家電・IT市場動向」
薄型テレビの製品別では液晶テレビが前年並み・有機ELテレビが10%減少と苦戦している一方、高画質モデルの販売台数は好調で、AV市場の下支えになっています。BDレコーダー市場全体としては大幅に縮小しているものの、高性能製品の売れ行きは比較的好調です。ヘッドホン・ヘッドセット市場では高価格帯商品の売れ行きが好調であった反面、ワイヤー付き商品の需要は落ち着き、総合的には前年比で3%減少しました。
テレコム市場
2024年上半期における携帯電話の市場規模は1,130万台であり、前年比で18%減少しています。スマートフォンに限って言うと原材料価格の高騰や円安によって端末価格が上昇した影響を受け、前年比で16%減少しています。2023年末に電気通信事業法の一部が改正され、端末代の大幅値引きが制限されたことも、スマートフォンの販売不調につながった理由の1つです。
ウェアラブル端末の市場規模は160万本で、前年比では4%成長しています。ウェアラブル端末の製品別では、スマートウォッチの販売本数が前年比で4%減少したのに対して、スポーツウォッチが前年比87%増と比較的好調です。
IT・オフィス市場
パソコン・タブレット端末市場は前年比で6%成長し、1,070万台を販売しました。パソコン・タブレット別の市場動向は、以下の通りです。
市場規模 | 前年比 | |
---|---|---|
パソコン | 約690万台 | +7% |
タブレット端末 | 約390万台 | +4% |
※出典:NIQ「2024年上半期家電・IT市場動向」
パソコン市場全体としては前年比で7%成長しているものの、個人向け市場に限って見ると、9%縮小しています。その一方で法人向けは前年比で13%拡大し、パソコン市場の底上げに貢献しました。タブレット端末市場ではWi-Fiモデルの人気が高く、販売を牽引しています。
イメージング市場
デジタルカメラ市場は2023年から継続的に回復している状況であり、2024年上半期は前年比で25%拡大し、販売数量68万台を達成しました。タイプ別で見ると、コンパクトカメラの販売数量が28%増加、レンズ交換式カメラの販売数量は21%増加しています。
交換レンズ市場は前年比で17%拡大し、販売本数では28万本を販売しました。交換レンズのタイプ別ではミラーレス一眼用レンズが好調で、前年比で24%増加しています。
生活家電市場
各生活家電の2024年上半期における市場規模は、以下の通りです。
市場規模 | 前年比 | |
---|---|---|
冷蔵庫 | 210万台 | 前年並み |
洗濯機 | 260万台 | 前年並み |
エアコン | 420万台 | +8% |
掃除機 | 360万台 | 前年並み |
※出典:NIQ「2024年上半期家電・IT市場動向」
洗濯機のタイプ別構成比は、ドラム式が20%・縦型が78%・二槽式が2%です。容量別で見ると、12kg以上の大容量洗濯機の販売が増加しています。
2024年上半期は2023年上半期と比較して暑い日が多かったことで、エアコンの市場規模は拡大しました。冷房能力別の構成比は、2023年上半期と大きく変化していません。掃除機のタイプ別構成比では、スティックタイプの販売数量が前年比で7%増加し、市場を下支えしています。
家電量販店業界のトレンド・変化
家電量販店業界をリードする大手企業は中長期的な市場縮小見込みに対抗するための経営戦略を立て、収益力アップを狙っています。家電量販店業界に見られる主なトレンド・変化は、以下の通りです。
オムニチャネル戦略の強化
オムニチャネルとは、実店舗・ECサイト・メール・アプリといった複数の販売チャネルを連携し、一貫した顧客体験を提供する戦略です。一部の大手企業ではEC市場の成長に目をつけ、オムニチャネル戦略をすでに強化しています。「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」によれば、2023年時点における生活家電、AV機器、PC・周辺機器などのEC市場規模は2兆6,838億円にものぼっており、一大マーケット化している状況です。
EC市場の成長を利用して顧客基盤を強化できれば、より一層の収益力アップや企業価値の向上も狙えます。
たとえば、ビックカメラが取り組んでいる実店舗の実演販売風景をインターネット上で生中継し、オンラインで購入させる活動は、オムニチャネル戦略の一環です。アプリを使用して実店舗の商品付属の値札からレビューを確認できる仕組みを整備することも、オムニチャネル戦略にあたります。
ドミナント戦略の推進
ドミナント戦略とは、特定エリアへ集中的な出店を行い、地域における家電販売市場シェアの拡大を目指す戦略です。大手の数社がドミナント戦略を推進してスケールメリットを獲得した場合、市場の寡占化がより進行する可能性もあります。
また、ドミナント戦略を成功させるには、競合他社と差別化を図る取り組みも欠かせません。大手企業各社は独自の差別化戦略を打ち出し、実行している状況です。
たとえば、ノジマは、専門知識豊富な販売員によるコンサルティングサービスを提供しています。ヤマダホールディングスやエディオンのように、プログラミング教室を実施する方法で実店舗への集客を狙う大手企業も存在するなど、差別化戦略の方向性はさまざまです。
顧客体験の改善
魅力ある店舗づくりやデジタル技術の活用で顧客体験を改善し、価格以外の要素で差別化を狙うことも、近年のトレンドです。たとえば、ノジマはスマホアプリを活用して以下のサービスを提供し、顧客体験の向上を図っています。
- 実店舗のQRコードをスキャンして商品を注文できるサービス
- 実店舗内の居場所をリアルタイムで確認できるサービス
ビックカメラが導入したECサイトのオンライン接客サービスも、顧客体験の向上を狙った施策の1つです。サービスを利用する顧客はECサイトを活用する際にも、専門性の高い販売員の機能説明や質問対応を受けられます。
EV市場への参入
2025年4月以降に新築する住宅には、省エネ基準適合が義務化される予定です。2030年にはより基準の厳しい「ZEH水準」へ、住宅省エネ性能の最低ラインが引き上げられます。政府としては新基準に適合した住宅で発電した電力を電気自動車へ充電して自家消費する使い方を推奨していることもあり、EV市場にとっての追い風です。
ヤマダホールディングスは将来的なEV市場の拡大を見込み、実店舗での法人向け販売をすでに開始しています。加えて、EVと太陽光パネル、V2Hをセット販売する「YAMADA スマートハウス」事業を手掛けるなど、新規市場への参入と、セット売りによる囲い込みを進めている状況です。
リユース市場の拡大
インフレの進行や環境意識の高まりの影響を受け、家電量販店業界においても、リユース市場が拡大しています。中古家電やアウトレット商品を多数扱う家電量販店では、洗濯機や冷蔵庫の販売が好調です。
ヤマダホールディングスはリユース市場の更なる拡大を見込み、中古家電の自社工場を建設しました。自社工場では実店舗で買取した家電を洗浄・修理・動作確認した上、再販売できる状態に整備します。整備された家電は、全国の実店舗で販売される仕組みです。
リユース市場の拡大によって近年では、中古家電を無人店舗で販売する「GO12」などの新たな業態も登場しました。無人店舗ではタッチパネル経由で、商品の注文や決済を行います。
家電量販店業界のM&A事例
家電量販店業界の大手企業は事業領域の拡大や市場競争力の強化を狙い、積極的にM&Aを行っています。以下では、近年実施された大規模なM&Aを5つ紹介します。今後M&Aを予定している方は、ぜひ参考にしてください。
エディオンとニトリHDの資本業務提携
2022年に株式会社エディオンは、株式会社ニトリホールディングスと資本業務提携しました。エディオンの狙いは、2社の経営資源を相互に利用し、事業拡大を図ることです。具体的な取り組みとして、以下の施策をすでに開始しています。
- エディオン店舗へニトリコラボブースの設置
- エディオン、ニトリ公式ECサイトでの相互送客
- プライベートブランド商品の共同開発
コラボブースには、エディオンの取り扱う家電製品と相性の良いニトリの家具・日用品・インテリアが設置されています。コラボブースを訪問した顧客は、住空間をトータルコーディネートしながら、2社の商品を検討できます。
ヤマダHDによる大塚家具の吸収合併
株式会社ヤマダホールディングスは、2021年に完全子会社化した株式会社大塚家具を2022年にヤマダデンキへ統合し、吸収合併を実施しました。ヤマダHDでは2018年から「暮らしまるごと」戦略として、住環境に関わる商品・サービスを総合的に提供できる体制づくりを推進しています。大塚家具の吸収合併も、事業拡大・多角化戦略の一環として実施された取り組みです。
大塚家具とヤマダデンキでは、吸収合併前から人材交流や販売ノウハウの相互習得などを通じた連携を行っていました。吸収合併によってより連携を強化し、企業価値を向上する効果が期待されています。
ビックカメラによるエーワンの子会社化
株式会社ビックカメラは連結子会社の株式会社ソフマップを通じて株式会社エーワンの全株式を取得し、子会社化しました。
株式会社エーワンは、OA機器や複合機などの買取・販売事業を手掛ける企業です。ビックカメラはエーワンの子会社化により、専門性が高いリユース商品の取り扱いノウハウ習得・仕入れルート拡充による経営効率化を目指しています。
ヨドバシHDによるICI石井スポーツの子会社化
株式会社ヨドバシホールディングスは2019年に株式会社ICI石井スポーツとその子会社「株式会社アート・スポーツ」の全株式を取得して、完全子会社化しました。ICI石井スポーツは、スキーや登山などのアウトドア用品を主に扱う専門小売企業です。アート・スポーツは、ランニング・フィットネス・キャンプ用品を主に扱う専門小売企業にあたります。
ヨドバシHDの狙いは、取り扱い商品の拡充です。2社の高度な専門性を評価し、完全子会社化した後も店舗運営の独立性を維持しつつ、サービスの向上や収益拡大を目指す方針を明示しています。
ノジマによるThunder Match Technologyの子会社化
株式会社ノジマでは2023年に海外子会社を通じて、Thunder Match Technology Sdn. Bhd.を完全子会社化しました。Thunder Match Technologyは、マレーシアの情報通信商品販売市場を牽引してきた企業です。
ノジマでは2019年にシンガポールの家電家具販売店を買収し、その子会社を通じてマレーシア市場に挑戦していました。Thunder Match Technologyの株式取得によってマレーシア市場における販売力を一層強化し、シェア拡大を図る狙いです。
家電量販店業界のM&Aの今後の展望
家電量販店業界には、少子高齢化や生活スタイルの変化によって家電のみの取り扱いでは売上高を伸ばしにくい課題があります。売上高を伸ばせなければ好条件による商品の仕入れを行いにくく、薄利多売のビジネスモデルの継続は困難です。
課題の解決策として、大手家電量販店を中心に多くの企業がM&Aを活用しています。家電量販店がM&Aを活用する狙いは主に、以下2点です。
- スケールメリットの獲得
- 事業の多角化
M&Aによってスケールメリットを獲得し、他社と共同で仕入れできる体制を整備すれば、商品の調達コスト削減が可能です。より安価に商品を仕入れできれば、他社に負けない価格で販売できます。
また、家電量販店がハウスメーカーやアウトドア用品などを扱う企業を買収した場合には家電以外の商品展開を拡充し、差別化が可能です。
家電量販店業界のM&Aを成功させるためのポイント
家電量販店業界のM&Aを成功させるためには、明確な戦略を策定し、計画的に進めることが重要です。専門知識が要求される場面も多いため、M&A仲介会社のサポートを受け、計画的に進めることがおすすめです。
実績豊富なM&A仲介会社は企業風土も意識して取引相手の候補を絞り込み、提案してくれます。M&A仲介会社は双方の交渉窓口も担当できることから、スムーズな情報伝達が可能です。
家電量販店業界では同業他社を買収する水平型M&Aだけでなく、自社の業務に関連する異業種を買収する垂直型M&Aも近年は多く実施されています。M&Aを実施すると社内体制が大きく変化するケースも多く、反発を受けた場合、優秀な人材が流出する可能性も否めません。人材流出を回避するためには従業員とも十分なコミュニケーションを取り、相互理解のもとで取り組みを進めましょう。
家電量販店業界がM&Aを行う際の注意点
M&Aは家電量販店の将来を左右する重要な交渉ごとにあたり、注意点が複数あります。売却・買収いずれの立場でM&Aを行う場合も、統合プロセスを適切に進められない場合、狙い通りのシナジー効果を得ることが困難です。M&Aの成立後は双方の企業文化の差異を意識し、相互理解のもとで組織の統合や関係調整に取り組みましょう。
売却側としてM&Aに参加する場合には、買収企業の見極めが必要です。「付き合いが長い」などの理由で、相手企業の詳細を把握せず買収を決断することは避けてください。
買収側としてM&Aに参加する場合、財務リスク・法務リスク・経営リスクを考慮し、自社に対する悪影響を回避するための対応策を取る必要があります。企業を買収した際には、相手が保持する権利義務・契約・ノウハウなどをすべて承継しなければなりません。自社のリスクを軽減しつつ十分なシナジー効果を狙うため、専門家のサポートを受けた上で取り組みを進めると安心でしょう。
まとめ
家電量販店業界は、少子高齢化や市場の飽和などによる成長鈍化が課題です。特に大手の家電量販店は、垂直M&Aや、関連業界との業務提携、海外進出などにより新たな市場の創出に取り組んでいます。
一方で、M&A成功には相手企業とのシナジー効果の最大化や統合プロセスの慎重な進行が不可欠です。企業文化の統合や人材流出の防止、法務・財務リスクの考慮も重要な要素となります。
縮小傾向にあるとはいえ、EC市場やリユース市場の拡大、国によるEVや省エネ家電の推進といった市場に追い風となる要素は多く存在します。今後も市場変化を見極めながら柔軟に戦略を立てることで、業界の持続的な成長が期待されるでしょう。
M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
着手金・月額報酬・企業評価レポート作成がすべて無料、秘密厳守にてご対応しております。
以下より、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
- 家電量販店業界の市場規模はどれくらいですか?
- 2023年度の家電大型専門店商品販売額は約4兆6,294億円です。
- 家電量販店業界の主要な課題は何ですか?
- 少子高齢化や市場の飽和、生活スタイルの変化などが課題です。
- 家電量販店業界の市場動向は?
- オムニチャネル戦略の強化、ドミナント戦略の推進、顧客体験の改善、EV市場への参入、リユース市場の拡大などが見られます。