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人材業界のM&A動向は、リーマンショック以降、中小派遣会社を中心に売却希望の企業が増加し、活発化しています。人材派遣市場は、人材関連ビジネスのなかでも大きな割合を占めており、市場規模は8兆8,600億円に上る勢いです。
本記事では、その背景となる市場動向やM&A事例について詳しく解説します。人材業界でM&Aを成功させるためのポイントを知りたい方や、今後の経営戦略に活かしたい経営者様は、ぜひ参考にしてください。
M&Aの前に押さえておきたい人材業界(派遣・人材紹介会社)の情報
M&Aを成功させるためには、まず、人材業界の基本的な情報を理解することが重要です。人材業界の定義から特色まで、M&Aを考えるうえで必要な基本情報をわかりやすく解説します。
人材業界の定義
人材業界は、採用関連業務の代行や人材育成のための研修事業など、幅広い形で展開しています。代表的なものとしては、以下のように大別されます。
- ・求人広告事業
- ・職業紹介事業
- ・派遣事業
- ・請負事業
「求人広告事業」は、主に求人提供者と就業希望者のマッチングを行うのが一般的です。インターネットや雑誌などの媒体を利用することで、労働市場の下部構造として広く普及しています。
「職業紹介事業」は、能力や人物評価などに関与し、より高い専門技術を有する人材を確保したい企業をメインに、就業希望者とのマッチングを行います。
「派遣事業」「請負事業」では、雇用主として直接、就業者と雇用契約を結び、賃金や労働時間の管理を行うのが標準的です。
人材業界の特色
人材業界の特色の一つとして、派遣先企業の要望に応じて労働者の派遣を行う人材派遣会社では、派遣先企業の業績や業界を取り巻く環境などにより、自社の業績に大きく影響を受ける点が挙げられます。
また、競合企業との差別化が「派遣人材」であることから、派遣先企業の要求する水準に見合う人材をどれだけ多く、かつ安定的に確保できるかが重要となります。人材の見極めや教育、専門的なトレーニングなど、クオリティの維持が競争のポイントです。
加えて、法規制によって市場規模が著しく影響を受けることがあり、近年では2008年のリーマンショック後、規制強化で市場が随分と縮小しました。
人材業界のM&A動向・市場規模
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2022年度の人材関連ビジネス主要3業界(人材派遣業・人材紹介業・再就職支援業)の市場規模は、事業者売上高ベースで、前年度比7.8%増の9兆2,355億円でした。
なかでも、人材派遣市場は8兆8,600億円と大きな割合を占めています。人材需要は引き続き高まっており、需要は安定しています。
人材業界のM&Aでは、リーマンショック以降、中小派遣会社を中心に売却を希望する企業が増加し、M&Aが活発化しているのが特徴的です。
近年では、大手企業による海外企業の買収や、エンジニア領域などのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)など、さまざまな形で業界再編が加速しています。

参照:労働者派遣事業の事業報告の集計結果について|厚生労働省
人材業界のM&A事例
ここからは、人材業界におけるM&Aの事例を紹介します。7つの実例は、企業の成長戦略や市場環境の変化を反映していますので、順番に見ていきましょう。
UTグループとサポートシステム
2020年1月、UTグループ株式会社が、株式会社サポートシステムを子会社化しました。
UTグループは派遣事業を通じて、各人材のスキルアップやキャリア形成を目指している企業です。サポートシステムは関西地域を中心に、製造業などの人材派遣を行っています。
今回の子会社化は、より質の高いサービスを提供できるようになることを期待して、実施しました。
ウイルテックとパートナー
株式会社ウイルテックは2020年10月、取締役会において、株式会社パートナーの全株式を取得して完全子会社化することを決定し、2020年12月1日に株式譲受を実施しました。
ウイルテックは、技術者の人材派遣や電子部品の卸売などの事業を展開している会社です。一方のパートナーは、システムインテグレーションの分野で業績を伸ばしてきました。
子会社化で、新たな営業機会の創出と、両社のリソースの共有や人材交流によるシナジー効果を目指しています。
フルキャストホールディングスとヘイフィールド
2022年6月、株式会社フルキャストホールディングスが、株式会社ヘイフィールドを子会社化しました。
人材総合サービスのフルキャストホールディングスは、専門職へのステップアップや正社員化などを目指している企業です。ヘイフィールドが展開する、不動産業界に専門特化した人材紹介事業を譲り受け、さらなる事業成長の実現を目的としています。
ワールドホールディングスとディンプル
株式会社ワールドホールディングスは2022年2月、株式会社ディンプルを子会社化しました。
ワールドホールディングスは、ものづくり中心の人材ビジネスを行っており、近年はサービス分野に関しても力を入れています。
ディンプルは接客人材の派遣や紹介、インフォメーション業務の受託などを行ってきた企業です。より付加価値の高い人材サービスの提供を目的とした、子会社化です。
ジェイフロンティアとAIGATEキャリア
ジェイフロンティア株式会社は、AIGATE株式会社の連結子会社であるAIGATEキャリア株式会社を、2021年12月に子会社化しました。
ジェイフロンティアはヘルスケアカンパニーとして、医療・ヘルスケア領域の事業を展開しています。AIGATEキャリアは、医療機関や調剤薬局に対する医師や看護師など、医療人材の紹介事業を行う企業です。
今回の子会社化により、ジェイフロンティアは、医師・看護師・薬剤師等の人材紹介サービスを開始しています。
iDAとリンクスタッフィング
2022年1月、株式会社 iDAは株式会社リンクスタッフィングの国内派遣事業を譲受しました。iDAはファッションやビューティーに特化して、人材サービスを行ってきた企業です。リンクスタッフィングは、販売職以外の領域でも派遣事業を展開していました。
事業譲受の結果、iDAは幅広い年齢層へのサービスと、多くの場所への就業機会を提供できるようになっています。
クラウドワークスとコデアル
株式会社クラウドワークスは2021年10月、コデアル株式会社の株式を取得して、子会社化しました。
クラウドワークスは、企業と個人をつなぐオンラインでのマッチングプラットフォームを提供している会社です。コデアル社は、即戦力となるIT人材のマッチングプラットフォームを展開していました。
今回の子会社化によって、クラウドワークスはさらなる事業拡大を目指しています。
人材業界でM&Aを活用するメリット
人材業界でM&Aを活用すれば、既にノウハウを持つ優秀な人材を確保できます。
人材業界はどこも労働者不足のため、優秀な人材が増えれば、専門性の高い業務での派遣も可能です。また、事業所を増やすことで登録人数も増え、事業規模の拡大が期待できるでしょう。
人材業界におけるM&A成功のポイント
人材派遣や紹介事業のケースでは、優秀な人材は非常に大切な資産です。特に人材派遣の場合は、紹介人員だけでなく、派遣人員の在籍数や質の高さも重要なポイントといえます。
対象企業を選択する際は、その企業が得意とする派遣・紹介領域を調査すると共に、紹介人員・派遣人員の状況を確認することが大切です。また、M&Aの各プロセスでは、優秀な人材が離職しないように、配慮しながら進めることが重要です。
人材業界の今後の課題と展望
人材業界は利益率が低く、人材派遣業界では、マージンとして徴収した売上のなかから派遣スタッフの社会保険や福利厚生の費用を支払ったうえで、自社の給料も捻出する必要があります。
また、施設の管理費も不可欠です。人件費と販売管理コストが上昇するなかでも、収益性を向上しなければなりません。
さらに、AIやロボットを使う企業が増えて、それらが代替できる仕事に従事している人材は必要なくなる可能性があります。市場に対する需要は安定しているものの、人材派遣業として生き残るためには、人間にしかできない専門的なスキルを保有する人材や付加価値の高い人材を確保し、量ではなく質で勝負することが必要です。
そのため、同業種だけでなく、異業種も視野に入れたM&Aが活発化していくことが予想されます。
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