人材業界(派遣・人材紹介会社)のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

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人材業界のM&A動向について

人材サービス業界の事業買収・売却事情やM&A事例を紹介します。人材サービス業界におけるM&Aの動向や市場規模、成功のコツなどを知りたい経営者の方はぜひご覧ください。

人材サービス業界の概要

M&Aを成功させるためには、まず、人材業界の基本的な情報を理解することが重要です。人材業界の定義から特色まで、M&Aを考えるうえで必要な基本情報をわかりやすく解説します。

人材サービス業界の定義

人材サービス業界は、採用関連業務の代行や人材育成のための研修事業など、幅広い形で展開しています。代表的なものとしては、以下のように大別されます。

  • 求人広告事業
  • 職業紹介事業
  • 派遣事業
  • 請負事業

求人広告事業」は、主に求人提供者と就業希望者のマッチングを行うのが一般的です。インターネットや雑誌などの媒体を利用することで、労働市場の下部構造として広く普及しています。
職業紹介事業」は、能力や人物評価などに関与し、より高い専門技術を有する人材を確保したい企業をメインに、就業希望者とのマッチングを行います。
派遣事業」「請負事業」では、雇用主として直接、就業者と雇用契約を結び、賃金や労働時間の管理を行うのが標準的です。

人材サービス業界の特色

人材サービス業界の特色の一つとして、派遣先企業の要望に応じて労働者の派遣を行う人材派遣会社では、派遣先企業の業績や業界を取り巻く環境などにより、自社の業績に大きく影響を受ける点が挙げられます。
また、競合企業との差別化が「派遣人材」であることから、派遣先企業の要求する水準に見合う人材をどれだけ多く、かつ安定的に確保できるかが重要となります。人材の見極めや教育、専門的なトレーニングなど、クオリティの維持が競争のポイントです。

人材サービス業界のM&A動向・市場規模

人材関連ビジネス主要3業界市場規模推移
参考:人材ビジネス市場に関する調査を実施(2024年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

株式会社矢野経済研究所の調査によると、2023年度の人材関連ビジネス主要3業界(人材派遣業・人材紹介業・再就職支援業)の市場規模は、事業者売上高ベースで、前年度比6.3%増の9兆7,156億円でした。
なかでも、人材派遣市場は9兆2,800億円と大きな割合を占めています。

労働者派遣事業に係る売上高
画像出典:令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)

また、厚生労働省が実施した令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)においても、派遣事業所の一事業所あたりの売上高はここ5年間右肩上がりになっていると発表されました。このことから、人材需要は引き続き安定して高まっていることがわかります。
人材業界のM&Aでは、リーマンショック以降、中小派遣会社を中心に売却を希望する企業が増加し、M&Aが活発化しているのが特徴的です。
近年では、大手企業による海外企業の買収や、エンジニア領域のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)など、さまざまな形で業界再編が加速しています。

人材サービス業界でM&Aを活用するメリット

ここからは、人材サービス業界でM&Aを活用するメリットとして、以下の2つを紹介します。

それぞれ見ていきましょう。

派遣取引先を拡充できる

人材サービス業界におけるM&Aは、派遣取引先を効率的に拡充するための手段です。
人材派遣業界で取引先を開拓するためには、通常、継続的な営業と信頼構築が欠かせません。そのため、短期間での拡大は容易ではありません。
しかし、M&Aを実施すれば、買い手企業は、売り手企業が保有する派遣取引先をそのまま引き継ぐことが可能です。これにより、新規顧客獲得にかかる時間と労力を大幅に削減しつつ、派遣取引先をスピーディに拡大できます。

マッチング力を強化できる

M&Aによって登録求職者数と派遣先企業数が増加することで、マッチングの母数が拡大します。求職者と企業の組み合わせの選択肢が多様化するため、双方の条件に合致する相手を見つけやすくなり、マッチングの精度向上が期待できます。
さらに、買収先が保有していた優秀なスタッフを取り込めれば、求職者へのヒアリングの質が向上するため、マッチング力のさらなる強化が可能です。これにより、求職者・企業双方にとって最適な紹介ができ、満足度向上につながります。その結果、企業の売上拡大にも大きな効果をもたらすでしょう。

人材サービス業界のM&A事例

人材サービス業界では、事業拡大やシェア拡大に向けて、活発なM&Aが行われています。ここでは、主要な8つの事例を紹介します。

UTグループとサポートシステム

2020年1月、UTグループ株式会社が、株式会社サポートシステムを子会社化しました。
UTグループは派遣事業を通じて、各人材のスキルアップやキャリア形成を目指している企業です。サポートシステムは関西地域を中心に、製造業などの人材派遣を行っています。
今回の子会社化は、より質の高いサービスを提供できるようになることを期待して、実施しました。

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ウイルテックとパートナー

2020年10月、株式会社ウイルテックは取締役会において、株式会社パートナーの全株式を取得して完全子会社化することを決定し、2020年12月1日に株式譲受を実施しました。
ウイルテックは、技術者の人材派遣や電子部品の卸売などの事業を展開している会社です。一方のパートナーは、システムインテグレーションの分野で業績を伸ばしてきました。
子会社化で、新たな営業機会の創出と、両社のリソースの共有や人材交流によるシナジー効果を目指しています。

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フルキャストホールディングスとヘイフィールド

2022年6月、株式会社フルキャストホールディングスが、株式会社ヘイフィールドを子会社化しました。
人材総合サービスのフルキャストホールディングスは、専門職へのステップアップや正社員化などを目指している企業です。ヘイフィールドが展開する、不動産業界に専門特化した人材紹介事業を譲り受け、さらなる事業成長の実現を目的としています。

ワールドホールディングスとディンプル

2022年2月、株式会社ワールドホールディングスは、株式会社ディンプルを子会社化しました。
ワールドホールディングスは、ものづくり中心の人材ビジネスを行っており、近年はサービス分野に関しても力を入れています。
ディンプルは接客人材の派遣や紹介、インフォメーション業務の受託などを行ってきた企業です。より付加価値の高い人材サービスの提供を目的とした、子会社化です。

ジェイフロンティアとAIGATEキャリア

2021年12月、ジェイフロンティア株式会社は、AIGATE株式会社の連結子会社であるAIGATEキャリア株式会社を子会社化しました。
ジェイフロンティアはヘルスケアカンパニーとして、医療・ヘルスケア領域の事業を展開しています。AIGATEキャリアは、医療機関や調剤薬局に対する医師や看護師など、医療人材の紹介事業を行う企業です。
今回の子会社化により、ジェイフロンティアは、医師・看護師・薬剤師等の人材紹介サービスを開始しています。

iDAとリンクスタッフィング

2022年1月、株式会社 iDAは株式会社リンクスタッフィングの国内派遣事業を譲受しました。iDAはファッションやビューティーに特化して、人材サービスを行ってきた企業です。リンクスタッフィングは、販売職以外の領域でも派遣事業を展開していました。
事業譲受の結果、iDAは幅広い年齢層へのサービスと、多くの場所への就業機会を提供できるようになっています。

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クラウドワークスとコデアル

2021年10月、株式会社クラウドワークスは、コデアル株式会社の株式を取得して、子会社化しました。
クラウドワークスは、企業と個人をつなぐオンラインでのマッチングプラットフォームを提供している会社です。コデアル社は、即戦力となるIT人材のマッチングプラットフォームを展開していました。
このM&Aの後、クラウドワークスはコデアルのサービスを「Tech Direct(以下、テックダイレクト)」としてリニューアルしました。ITフリーランスとのエージェントマッチングサービスである「クラウドテック」とのさらなる連携を図り、IT人材の幅広い働き方の支援を目指しています。

パーソルテンプスタッフ株式会社と株式会社ヒューテック

2024年6月、株式会社ヒューテックは、パーソルグループに参画しました。
パーソルグループは、戦略的に重要視する九州エリア(特に佐賀・福岡・長崎・熊本)における事業基盤を強化する必要がありました。また、労働需要の増加が見込まれる製造・軽作業分野において、事業規模の拡大を目指していたことも背景にあります。
このM&Aでは、ヒューテックが佐賀県内トップシェアを誇る地域基盤に加え、製造・軽作業および事務職分野で培ってきた専門的なノウハウ、顧客基盤が高く評価されました。
今後は、パーソルグループの全国規模のネットワークやリソースと、ヒューテックの地域密着型の強みを組み合わせることでシナジーを図る方針です。

人材サービス業界におけるM&A成功のポイント・注意点

人材サービス業界でM&Aを行う際の成功ポイントと注意点を紹介します。業界特有の課題をクリアし、M&Aの成功確率を高めましょう。

それぞれ見ていきましょう。

登録者の個人情報流出に注意する

M&Aの過程では、派遣登録者の情報の引継ぎが求められます。その際、住所やマイナンバーなどの機微な情報が外部に漏れるリスクは否定できません。
そのため、個人情報保護法をはじめとする関連法令の遵守はもちろん、情報開示の範囲や方法にも細心の注意が必要です。秘密保持契約(NDA)の締結や、情報の段階的な開示といった工夫も行いましょう。
また、PMIの過程でも、登録者情報の統合や管理体制の変更時に新たなリスクが生じる可能性があります。M&A後の信頼低下や法的リスクを未然に防ぐためにも、適切なセキュリティ対策をとることが大切です。

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許認可の引継ぎを踏まえて実行計画をたてる

人材紹介・派遣事業は、法的な許認可を要する事業です。M&Aの手法によっては、その許認可を引き継げない場合があります。
株式譲渡の場合は、法人格が維持されるため、既存の許可(有料職業紹介・労働者派遣など)をそのまま継続利用できますが、一方で、事業譲渡・合併・会社分割などでは、原則として許可の再取得が必要です。
特に事業譲渡では、買い手が事前に許可を取得することが困難な場合があり、譲渡後に申請を行わなければなりません。そのため、許可が下りるまでの「空白期間」に事業が停止するリスクが生じます。
M&Aの手法選定時には、許認可の取扱いを踏まえた入念な計画が不可欠です。あわせて、デューデリジェンスの段階で、現在の許認可のステータスや有効期限、行政指導履歴などを確認しましょう。

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これからの人材業界:課題とM&A活用の展望

人材業界は利益率が低く、人材派遣業界では、マージンとして徴収した売上のなかから派遣スタッフの社会保険や福利厚生の費用を支払ったうえで、自社の給料も捻出する必要があります。また、施設の管理費も不可欠です。人件費と販売管理コストが上昇するなかでも、収益性を向上しなければなりません。

さらに、AIやロボットを使う企業が増えて、それらが代替できる仕事に従事している人材は必要なくなる可能性があります。市場に対する需要は安定しているものの、人材派遣業として生き残るためには、人間にしかできない専門的なスキルを保有する人材や付加価値の高い人材を確保し、量ではなく質で勝負することが必要です。
そのため、同業種だけでなく、異業種も視野に入れたM&Aが活発化していくことが予想されます。

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よくある質問

  • 人材業界でM&Aが増えている理由は何ですか?
  • 市場の拡大と派遣先拡充、マッチング力の強化を目的に、事業買収を通じた競争力強化が進んでいます。
  • M&Aによる派遣先拡充の仕組みとは?
  • 売却側企業の既存取引先を引き継ぐことで、新規営業を行わずとも派遣先を拡大できます。
  • 個人情報の引継ぎにはどのようなリスクがありますか?
  • 登録者の機微情報が漏洩するリスクがあり、秘密保持契約や段階的開示などが重要です。
  • 許認可の取扱いはどうすればよいですか?
  • 株式譲渡なら許認可の継続が可能ですが、事業譲渡や会社分割では再取得が必要となります。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

2007年、立教大学経済学部経営学科卒業後、国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。
一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者



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