会計事務所業界のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

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会計事務所業界のM&A動向について

会計事務所業界では、市場規模は拡大しているものの、経営者の高齢化や後継者不足、競争激化などを背景に、M&Aによる事業承継や成長戦略が活発化しています。

本記事では、会計事務所業界における最新のM&A動向や、実際の事例、成功のポイントや注意点について詳しく解説します。

会計事務所業界の概要

会計事務所は税務や会計の専門家として、企業や個人事業主へ幅広いサービスを提供しています。税務申告や決算支援、経理代行など、高度な専門知識が求められる業務を担います。ここでは、会計事務所業界の定義や特色について見ていきましょう。

会計事務所業界の定義

会計事務所とは、税務や会計に関する幅広いサービスを提供している事務所のことです。一般的には「税理士事務所」とも呼ばれますが、両者に違いはありません。

「税理士事務所」という名称は税理士法に基づいて定められたもので、税理士がその資格に基づく業務を行う際の正式な名称です。一方、「会計事務所」という表現は、その俗称として広く使われています。

会計事務所が提供する主なサービスには、税務申告、決算支援、経理業務の代行、さらにはコンサルティング業務などが含まれます。

税務に関する三大業務である「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」は、税理士資格を有する者のみが行える独占業務です。このため、会計事務所では、税理士だけでなく、税理士資格を有する公認会計士などが独立して事務所を開業するケースが多く見られます。

そのため、企業や個人事業主に対して高度な専門知識とサービスを提供することが可能となっています。

会計事務所業界の特色

日本国内の約370万社の企業・事業所に対し、約3万の会計事務所が存在し、それぞれが市場シェアを分け合っています。

(参照:令和3年経済センサス‐活動調査|総務省・経済産業省)

ほとんどの企業がどこかの会計事務所に業務を委託しており、会計事務所のサービスは幅広く日本の隅々にまで普及しています。

また、決算や税務申告は毎年行われ、経理業務は常に連続していることから、企業が顧問税理士を頻繁に変更することは稀です。そのため、一度顧問先を獲得すると、安定的な収入源となり、事務所の売上は大幅に増加します。

それだけでなく、顧問先を獲得するための独自の戦略を持っている会計事務所であれば、毎年120%から130%の成長を実現するポテンシャルも望めます。

会計事務所業界のM&A動向・市場規模

税理士登録者数 年度別推移
参考:税理士制度|国税庁

日本税理士会連合会によると、日本全国の税理士登録者数は年々増加傾向にあります。2024年度の登録者数は81,696人でした。2023年度の登録者数は81,280人から、416人増加しています。

さらに、総務省が5年ごとに実施している「経済センサス活動調査」によれば、公認会計士事務所・税理士事務所の売上高は、2012年では約1兆1975億円、2016年には約1兆5328億円、そして2021年には約1兆9022億円と、過去15年を通じて市場は着実に拡大しています。これらの数値を見れば、会計事務所業界は堅調な成長を続けているといえるでしょう。

しかし、一方で、日本国内の中小企業の数は減少傾向にあります。2021年6月時点での中小企業の数は約336.5万社で、2016年6月時点と比較すると、毎年約4.3万社の減少が見られる状況です。これは、顧問先となる企業数が減少していることを意味し、税理士の数が増えているなかで、競争が一層激化していることが伺えます。

会計事務所でM&Aを活用するメリット

会計事務所業界でM&Aを活用する主なメリットとしては、以下の4点が挙げられます。

それぞれ見ていきましょう。

資格を持っている人材を確保できる

1つ目のメリットは、M&Aを実施することで税理士や公認会計士の資格を持った人材を確保できることです。税理士資格は難易度が高く、合格までに多大な努力と時間が必要とされるため、既に資格を保有している人材を確保できるのは大きなメリットです。

税理士法人の運営には、法律上2名以上の税理士が必要ですが、急な退職や引退が発生した場合、短期間での補充は簡単ではありません。そのため、M&Aによる資格者確保は事業継続の観点からも重要です。無限責任社員となる税理士の適性や経営参画意欲も問われるため、単なる採用よりもM&Aによる確実な人材獲得の意義が大きくなります。

事業規模を拡大する際にも、良質な人材が多いほど市場競争において有利となりやすく、経営の安定と成長を支える重要な要素となります。

優良な顧問先の獲得が期待できる

2つ目のメリットは、M&Aを実施することで優良な顧問先を増やせる可能性が高まることです。優良な顧問先が増えれば、多額の利益を継続的に得ることができ、事務所の安定した収益基盤を築けます。

会計事務所の主要収益源である顧問契約は、信頼関係や地域密着性が強く、新規開拓では獲得が難しいため、M&Aで獲得できれば他業界よりも事業価値への影響が大きいです。医療法人や資産家など、特定分野に強い会計事務所を買収すれば、専門性の高い顧客層やネットワークを一挙に獲得できます。

また、自身とは異なる地域で事業を展開している会計事務所とM&Aを実施することで、新たな地域で顧問先を増やすことも可能です。これにより、地理的な拡大と共に市場シェアを広げるチャンスが増え、事業全体の成長につながります。

税務以外の売上を増やせる

3つ目のメリットは、M&Aを通じて税務以外の売上を増やせることです。会計事務所は、通常の税理士業務に加えて、コンサルティングや経営分析などのサービスも提供しています。

自身が税務を中心に事業を展開している場合、こうしたサービスを提供している会計事務所を買収することで、会計業務以外の売上を増やすことが可能です。事業を多角化することで、将来的な収益の確保や事業規模の拡大につなげることができ、経営の安定性を高める効果も期待されます。

職員の雇用を維持できる

M&Aにより、買い手側は即戦力となる有資格者や経験豊富なスタッフを確保できます。これにより、人材不足の解消やサービス品質の向上、事業の拡大を図れるでしょう。

また、売り手側は、事務所が単独で存続できない状況になっても、M&Aを実施することで、事業や顧客、ノウハウ、そして職員の雇用が新たな体制のもとで継続されやすくなります。これまでの経験や資格を持つ職員が引き続き活躍できる環境が整い、専門性や顧客対応力の継承が可能です。資金力や経営基盤が強化されることで、職員の待遇やキャリアの幅も広がり、安定した雇用が実現できます。

会計事務所のM&A事例

会計事務所業界で成功したM&A事例を紹介します。各社の置かれていた状況や、狙いについても詳しく見ていきましょう。

みそら税理士法人とビジネスサポート林総合事務所

2022年7月、みそら税理士法人は、ビジネスサポート林総合事務所と経営統合を実施しました。

この統合の目的は、両社のリソースを結集することで、クライアントに対する各種会計・税務サービスを一層充実させ、より高品質なサービスを提供することにあります。

また、統合後の組織は「みそら税理士法人」として継続され、地域に根ざしたサービスの提供をさらに強化していく方針です。今後も、両社は地域経済の活性化を目指し、クライアントの成長を支えるための努力を続けていきます。

テイエムエス税理士法人と税理士法人蓑・高山会計

2023年9月、テイエムエス税理士法人と税理士法人蓑・高山会計は経営統合を実施し、新たに「れん税理士法人」と改称しました。

統合後、従業員数は60名に増加し、人員の充実が図られました。これにより、千葉・東京・石川エリアを中心に、会計および税務サービスのさらなる強化と充実を目指しています。

税理士法人Future Createと税理士法人マッチポイント

2023年10月、税理士法人Future Createと税理士法人マッチポイントは経営統合を実施しました。

両社共に北海道札幌市に本社を構える税理士法人です。この統合により、より広範囲でのサービス提供が可能となりました。

統合の目的は、業務プロセスの合理化や効率化を図り、クライアントへのサービス品質の向上を目指すことにあります。新たな組織体制の下で、両法人はさらなる成長と発展を目指して、地域経済への貢献を続けていく予定です。

MACミッドランド税理士法人と税理士法人ブレインパートナー

2020年12月、MACミッドランド税理士法人と税理士法人ブレインパートナーは、経営統合を実施し、新たに「MAC&BPミッドランド税理士法人」としてスタートを切りました。

この統合は、中部地方を代表する2大税理士法人の強みを結集し、規模拡大とサービスの強化を目的としています。

新法人は、両事務所の売上高が約12億円、グループ従業員数は約200名、顧客数は約2700件に達し、中部地方においてトップクラスの税理士法人となりました。この経営統合により、相続・事業承継や医療・介護分野での専門性を活かし、地域経済の活性化に貢献することを目指しています。

日本クレアスと三田会計

2021年8月、日本クレアス税理士法人と税理士法人三田会計は経営統合を実施しました。

三田会計は50年以上にわたり、千葉県内で地域に根ざした税務サービスを提供してきた、実績のある会計事務所です。

この経営統合により、三田会計は「日本クレアス税理士法人 千葉本部」として新たに業務を継続します。日本クレアスが持つ広範な顧問先ネットワークと、三田会計が蓄積してきた税務ノウハウを結集することで、さらに高品質なサービスの提供を目指しています。

税理士法人アーリークロスと税理士法人Beso

2024年11月、福岡に本社を置く税理士法人アーリークロスは、大阪・奈良を中心に顧客基盤を持つ税理士法人Besoと経営統合を実施しました。

Besoは、クラウド会計導入や経営支援に強みを持ち、開業1年でfreee認定アドバイザー5つ星を取得するなど、業界の新しいスタンダードを築いてきた実績ある会計事務所です。

アーリークロスが持つ九州エリアでのDX支援ノウハウと、Besoが培ってきたクラウド会計の導入力を結集することで、関西圏を含めたより広範な地域で、さらに高品質なサービスの提供を目指します。

グロース税理士法人と谷川会計事務所

2024年11月、谷川会計事務所は、グロースリンク税理士法人と経営統合を実施しました。

谷川会計事務所は、大阪府松原市の河内松原エリアを中心に、近畿地域で会計・税務業務を展開し、地域に根ざしたサービスで信頼を築いてきた実績ある会計事務所です。一方、愛知県名古屋市に拠点を置くグロースリンク税理士法人は、事業会社や医療・介護分野に対する税務、開業支援、相続・事業承継、保険・不動産など幅広いコンサルティングを強みとしています。

両社のノウハウと経営資源を結集することで、中堅・中小企業や個人事業主、医療・介護分野の顧客に対し、より付加価値と品質の高いサービスを、広範囲で提供することを目指します。

会計事務所におけるM&A成功のポイント・注意点

会計事務所のM&Aでは、顧客や職員との信頼関係を維持する丁寧な取り組みと、相手の専門領域の正確な把握がポイントです。

顧客・職員との信頼関係を維持する

会計事務所では「誰に相談するか」が顧客ロイヤルティに直結するため、M&Aによって担当者が変わると、顧客離脱の引き金となり得ます。こうした事態を避けるために、顧問先にはタイミングを見た対面説明や担当者の早期紹介を行い、信頼関係の継続を丁寧に図りましょう。

また、所長やキーパーソンの処遇や役割を事前に明確化し、職員への丁寧な説明を重ねることで、スタッフ側の不安や離職リスクの軽減にもつながります。雇用条件の統一も段階的に進め、現場の納得感を醸成することが大切です。

相手の専門領域をあらかじめ確認する

会計事務所ごとに、相続・資産税・医療法人など得意とする領域や顧客層が異なります。そのため、M&A前には、各事務所の主力業務や得意分野、担当者ごとの実務スキルを丁寧に棚卸しし、業務面でのデューデリジェンスを行うことが重要です。

統合後は、双方の業務手法や管理ノウハウを丁寧に共有し、定例の勉強会やナレッジミーティングを通じて、組織全体の底上げを図りましょう。また、経営方針やアクションプランを文書化し、短期と中長期の目標を可視化することで、PMIの指針となります。

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会計事務所における今後のM&Aの課題と展望

会計事務所業界は、経営者の高齢化と後継者不足が深刻で、事業承継が急務となっています。また、IT技術の進展により、記帳代行や税務申告などの定型業務の価値が低下し、付加価値の高いコンサルティングサービスへの転換が求められます。M&Aは、事業継続や付加価値の創出における有効な戦略です。

ただし、M&Aによる財務的負担は小さくありません。デューデリジェンスや契約関連費用、システム統合費用が中小事務所にとって重い負担となりえます。M&Aプロセスに時間がかかると、通常業務に支障をきたす可能性があります。また、従業員の離職リスクも大きく、特に有資格者の離職は顧客流出に直結しかねません。

上記のような課題を解決し、適切かつ円滑にM&Aプロセスを進めるには、専門家のサポートを受けることが重要です。

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よくある質問

  • 会計事務所業界でM&Aが活発化している背景は?
  • 高齢化による後継者不足と競争激化への対応として、資格者確保や顧客基盤拡大を一度に実現できるためです。
  • M&Aで優良な顧問先を維持するコツは?
  • 顧問先へのタイミングを見た対面説明と担当者の早期紹介で信頼関係を切らさないことが重要です。
  • 資格者確保を目的とするM&Aのメリットは?
  • 稀少な税理士資格者をまとめて迎え入れられ、事業継続と拡大を同時に図れる点です。
  • デューデリジェンスで重視すべき点は?
  • 得意分野や担当者スキルを棚卸しし、業務の相乗効果とリスクを具体的に把握することです。
  • PMIを円滑に進めるためのポイントは?
  • 業務ノウハウ共有の仕組みを整え、短期と中長期の目標を文書化して組織全体で共有することです。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

2007年、立教大学経済学部経営学科卒業後、国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。

一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者



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