更新日
- #業種別M&A動向
- #家事代行業界 M&A
家事代行業界は近年、急速に成長しています。少子高齢化と女性の社会進出などを背景に、需要が増大し、供給が追いつかない状態です。業界自体が成長過程にあるため、再編を意図した目立ったM&Aはそう多くありません。
一方で、事業規模の拡大や経営基盤の強化を図るために、M&Aが注目されています。本記事では、家事代行業界におけるM&Aの動向や市場規模、事例について解説します。今後の展望についても触れますので、成功のポイントを知りたい方は、最後までご参照ください。
M&Aの前に押さえておきたい家事代行業界の情報
M&Aを行う前に、家事代行業界の基本的な情報を理解することが重要です。
家事代行業界の定義
家事代行サービスとは、「家事を代わりに行う」サービスを指します。呼び方は、ハウスキーパー・家政婦(家政夫)・お手伝いさんなど、さまざまです。一般的な家事経験を持つスタッフが、利用者の代わりに、掃除・炊事・洗濯をはじめとした日常的な家事全般を代行するサービスです。
一方、家事代行と同様のサービスとして、ハウスクリーニングが認識されています。しかし、ハウスクリーニングは、専門的な知識や技術を有した業者が専用の洗剤や道具を持ち込んで徹底的に掃除をする業態のため、家事代行サービスとは別のサービスです。
家事代行業界の特色
家事代行業界の特色は、年々増大する需要に供給が追いつかない構造です。需要と供給のバランスがとれておらず、需要過多・供給不足に陥っています。
「DMM Okan」というアプリケーションで発注できる家事代行サービスは、2016年に市場参入して、1年10ヶ月で撤退しました。DMM.com によると「需要が圧倒的に高く、家事代行スタッフの供給維持ができなかった」と、撤退理由を述べています。また「スタッフ教育の体制が整わず、サービスの質を担保できなかった」ことも、要因に挙げています。
家事代行業界は、利用者側からすると「知らない人に自宅に入られることに抵抗感がある」という、発注障壁があるのが特徴です。
これに対して、Firstという家事代行サービス業者は、代行スタッフが持参したスマートフォンを使って作業中の様子を撮影し、利用者が遠隔地に居ても、自分のスマートフォンで様子をリアルタイムにチェックできるシステムを採用しています。
家事代行業界という労働集約型業態でも、 IT化を進めることによって、サービスの質の向上につながる事例といえるでしょう。 家事代行業界への参入障壁は低いため、今後も異業種からの市場参入が増加すると予想されます。生身の人間(家事代行スタッフ)と IT / AI / インターネットをどう融合していくかに、業界の成長はかかっています。
家事代行業界のM&A動向・市場規模
家事サービスは右肩上がりの成長を続けており、2021年度の市場規模(売上高合計)は、前年度比9.4%増の約807億円に到達しました。2012年度に比べると、約6.2倍の拡大と推計されます。
市場拡大の背景には、少子高齢化と女性の社会進出があり、家事労働に対する需要が高まっています。しかし、家事代行業界は歴史が浅く、業界が成長過程で、再編のための目立ったM&Aは見られません。

参照:令和4年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(各種サービス業に係る業界動向調査及び家事支援サービス業の実態把握・活用推進に係る調査)報告書|帝国データバンク
家事代行業界のM&A事例
家事代行サービスの市場規模が拡大するなかで、さまざまなM&Aが見られます。以下では、5つの事例を紹介します。
イオンリテールとアクティア
イオンリテールはアクティア株式会社の株を取得し、2023年9月1日に子会社化しました。
イオンリテールは、スーパーマーケットの事業において「くらし」に関する事業を展開しています。一方のアクティア株式会社は、家事代行だけでなく、ハウスクリーニングも事業として行っていました。
子会社化の目的は、双方のノウハウとリソースを活用した、家事支援事業のさらなる成長を図ることです。
フルキャストホールディングスとミニメイド・サービス
株式会社フルキャストホールディングスは、ミニメイド・サービスの全株式を取得し、2018年8月31日に子会社化しました。
フルキャストホールディングスは、人材派遣や人材紹介を行う会社です。ミニメイド・サービスは家事代行を手がける会社で、ワイワイズ・コーポレーションの100%子会社でした。
ミニメイド・サービスを展開する家事代行業は、フルキャストホールディングスの「軽作業の人材サービス領域」と親和性が高いため、シナジー効果を期待しています。
CVCキャピタルパートナーズと長谷川ホールディングス
英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズは2016年9月、長谷川ホールディングスを総額350億円程度で買収しました。
長谷川ホールディングスは、「おそうじ本舗」や「マイ暮らす」などの家事代行サービスを展開する企業です。CVCキャピタル・パートナーズは、買収の結果として企業価値を高め、将来のIPO(新規株式公開/株式上場)を目指しました。
その後、2019年3月には、ポラリス・キャピタル・グループ株式会社が、CVCキャピタル・パートナーズなどから100%の株式を取得しています。
ベアーズとFiNC
家事代行業界大手のベアーズは、モバイルヘルスケアのFiNCと2016年11月、業務提携を開始しました。
FiNCが手がける、法人向けのウェルネス経営サービス「FiNC for Business」で、ベアーズが提供する、家事代行サービスの利用が可能になりました。これにより、従業員の生活支援やワークライフバランスの実現に貢献しています。
センコーとイエノナカカンパニー
物流大手センコーは2017年1月、イエノナカカンパニーを子会社化しました。
イエノナカカンパニーは、家事代行・サービスアパートメントの管理などを行う企業です。センコーは、大規模な流通ネットワークと他分野に関する事業リソースを保有しています。
こうしたリソースと物流を組み合わせることで、より利便性の高い生活支援サービスを提供することが目的です。
家事代行業界でM&Aを活用するメリット
家事代行業界でM&Aを活用する主なメリットは、以下の2つです。
- ・事業規模の拡大・経営基盤の強化
- ・競争力を高められる
顧客が増えることで派遣先が増え、事業規模の拡大や経営基盤の強化を図ることが可能です。ニーズが高まるなか、家事代行業務が得意な人材を確保できるため、質の高いサービスを提供でき、競争力を高められるでしょう。
家事代行業界におけるM&A成功のポイント
家事代行業界においてM&Aの成果を最大化するためには、他社との差別化を図ることが大切です。
差別化できる要素の有無をチェックする
家事代行業は、個人でも開業できる業態であるため、競合が増えやすいといえます。エリアの需要と供給の状況を踏まえ、自社事業の継続のためにどのような要素が必要か洗い出したうえで、M&Aのスキームや相手企業の検討を行うことが必要です。
相手企業の選定を行う際には、近隣領域や同業種に限らず、まったく異なる業種を選択肢に入れることもポイントです。
今までのサービスとかけ合わせることでシナジー効果が発揮されれば、自社のサービスや商品の幅が広がり、事業拡大も期待できます。
備品の状況確認を行う
家事代行業界でM&Aを行う場合には、事前に対象企業の備品状況の確認が欠かせません。現在使っている備品をそのまま引き継ぐことができれば、コスト削減につながります。
備品が使えない場合は、新しく買い換える必要があり、買収したあとにコストがかかる可能性が生じます。必要な備品が対象会社に用意されているか、劣化していないかといった点を、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。
家事代行業界における今後のM&Aの課題と展望
家事代行業界は成長しているものの、生活スタイルの変化によってニーズも変化し、競争も激化しています。先述の報告書によると、家事代行サービスを利用していたが、利用を取りやめた理由(複数回答)として
- ・サービスの内容と料金が見合わないと思ったため
- ・サービスの内容や品質が、期待したものではなかったため
上記の合計が48.2%となっており、業界全体としてサービスの多様化と共に、質の向上が求められていることが推測されます。今後の家事代行市場で生き残るためには、M&Aを活用し、より利用者の生活やニーズに適したサービスの提供を行うことが有用となるでしょう。
M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
着手金・月額報酬・企業評価レポート作成がすべて無料、秘密厳守にてご対応しております。
以下より、お気軽にお問い合わせください。