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コールセンター業界では、チャネルを多様化させると共に、M&Aによる事業拡大や効率化が活発化しています。本記事では、コールセンター業界の定義や特色といった基本情報を押さえたうえで、M&Aの動向や事例を紹介します。
メリットや今後の課題と展望についても詳しく解説しますので、コールセンター業界でM&Aを成功させるためのポイントを知りたい方や、今後の経営戦略に活かしたい経営者様は、最後までご参照ください。
M&Aの前に押さえておきたいコールセンター業界の情報
コールセンターは企業と顧客をつなぐ重要な役割を担っており、近年ではM&Aによる事業拡大や効率化が進んでいます。M&Aを検討する前に、まずはコールセンター業界の基本情報を押さえておきましょう。
コールセンター業界の定義
コールセンターとは、顧客への電話対応業務を事業として請け負う企業を広く指す用語です。電話の内容は、以下のようにさまざまです。
- ・注文の受付
- ・問い合わせ
- ・クレーム対応
- ・営業
- ・テレマーケティング など
また、顧客から電話を受ける「インバウンド」と、顧客に電話をかける「アウトバウンド」の2種類があります。
近年のコールセンターは電話だけでなく、メールやチャットなど、多様な問い合わせ方法にも対応しているのが特徴です。このように、顧客とのコミュニケーションチャネルが多岐に渡ることから「コンタクトセンター」と呼ぶ動きも出ています。
コールセンター業界の特色
コールセンターは、インバウンドとアウトバウンドの両方を扱う会社もあれば、どちらか一方に特化している会社もあります。インバウンドは、問い合わせ対応や申込受付など顧客からの「受信業務」、アウトバウンドは営業や調査など、顧客への「発信業務」が主な内容です。
業界全体の動きとして、コスト削減のため、首都圏から地方へ拠点を移す企業が続々と現れています。企業誘致に力を入れている自治体もあり、札幌市や沖縄県では、補助金などの優遇措置によってコールセンターの集積が進みました。特に沖縄県は、通信インフラの整備などにいち早く取り組み、コールセンター産業の一大拠点となっています。
同様の理由で、電話以外の問い合わせ対応として、オペレーターと顧客の接続方法をテキストチャットやSNSとするケースも増えてきました。利用者の多いLINEを活用したサポートにも注目が集まっており、お客様との接点の多様化が進んでいます。
さらに近年では、生成AIを導入し、オペレーターの業務を支援させたり、顧客との接点を持たせたりする企業も出現しています。
コールセンター業界のM&A動向・市場規模
コールセンター業界は安定的な成長を続けており、M&Aによる事業拡大や業務効率化の動きが活発化しています。株式会社矢野経済研究所の調査によると、2022年度の国内コールセンターサービス市場は1兆1,547億円に達し、前年度比2.6%増と堅調に推移しました。
ただし、コロナ禍で増加していた官公庁等の大型案件が一服することで、今後は市場規模が縮小すると予想されています。2025年度には1兆1,275億円になると見込まれており、業界内の競争激化と、M&Aによる淘汰が進むことが予測されます。

参照:コールセンターサービス市場/コンタクトセンターソリューション市場の調査を実施(2023年)|矢野経済研究所
また、企業別の売上高(推定値)を見ると、2022年度のベスト3は以下のとおりです。
- 1.トランスコスモス株式会社:3,738億3,000万円
- 2.株式会社ベルシステム24ホールディングス:1,560億5,400万円
- 3.りらいあコミュニケーションズ株式会社:1,206億1,900万円
上位企業による寡占(かせん)化が進んでおり、中小企業の生き残りをかけたM&Aニーズは高まっている状況です。
コールセンター業界は、人材不足や働き方改革などの課題を抱える一方、テクノロジーの進化により、サービスの高度化が求められています。M&Aを通じた規模拡大や専門性の獲得によって、これらの課題に対応し、競争力を高めていくことが重要になるでしょう。
コールセンター業界のM&A事例
近年、コールセンター業界では、M&Aによる事業拡大や業務効率化の動きが活発化しています。ここからは、特徴的な事例をいくつか紹介しますので、順番に見ていきましょう。
インバウンドテックとシー・ワイ・サポート
コンタクトセンターとセールスアウトソーシング事業を中心に展開する、株式会社インバウンドテックは2021年4月、コールセンター事業を行う株式会社シー・ワイ・サポートを子会社化しました。
地方拠点の確保と人材強化が主な目的で、BCP対策の観点からも有効な選択といえます。シー・ワイ・サポートが保有する岩手県内の2拠点を獲得することで、首都圏に集中していた機能を分散することが可能になります。
デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーといわきテレワークセンター
M&Aアドバイザリーやクライシスマネジメントサービスを手がける、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社は、2021年5月に株式会社いわきテレワークセンターを完全子会社化しました。
いわきテレワークセンターは、日本初の民間テレワークセンターを標榜する会社です。コールセンター機能の強化だけでなく、地方創生に関する取り組みの加速も狙いとしています。
東日本大震災の被災地である福島県への支援という側面もあり、社会貢献と事業拡大の両立を目指した、意欲的なM&Aといえるでしょう。
日本PCサービスとミナソル
2021年8月、パソコンやスマートフォンのサポート事業を行う日本PCサービス株式会社は、アウトバウンドのコールセンター運営会社であるミナソル株式会社を子会社化しました。
ミナソルはアフターセールスの一翼を担っており、日本PCサービスの新規顧客獲得および家庭・オフィスの包括的サポート体制の強化につながることが期待されています。ITサポートとコールセンターの融合によって、ワンストップのサービス提供が可能になります。
ジェイフロンティアとAIGATEキャリア
ヘルスケア領域のテクノロジー企業であるジェイフロンティア株式会社は、2021年12月にAIGATEキャリア株式会社を子会社化しました。
AIGATEキャリアは医療人材紹介とコールセンター事業を展開しており、ジェイフロンティアは今回の提携で、医療人材紹介サービスを新たに開始します。また、コールセンター部門の内製化によって、収益基盤の強化も見込んでいます。
ヘルスケア分野での事業シナジーを追求した、戦略的なM&Aといえるでしょう。
アップセルテクノロジィーズとエアトリ
2020年6月、コールセンター事業を手がけるアップセルテクノロジィーズ株式会社は、旅行事業を手がける株式会社エアトリから、コールセンター業務を事業譲受しました。
これにより、アップセルテクノロジィーズは新たに旅行事業に参入しました。一方のエアトリにとっては、コールセンター部門を外部に切り出すことで、コスト削減と経営効率化が期待できます。それぞれの強みを活かした win-win の M&Aといえます。
コールセンター業界でM&Aを活用するメリット
コールセンター業界でM&Aを活用することにより、人材確保や設備・ノウハウの獲得、コスト削減など、さまざまなメリットが期待できます。M&Aを戦略的に行うことが、競争力強化につながるでしょう。
オペレーターを確保できる
コールセンターの品質を左右するのが、オペレーターの能力です。優秀な人材の確保は、顧客満足度の向上に直結しますが、離職率の高さから恒常的な人材不足に陥りがちです。
M&Aによって対象企業のオペレーターを引き継ぐことで、人員を即座に補充できます。採用コストをかけずに即戦力を獲得できるため、オペレーター不足の解消に有効な手段といえます。
設備やノウハウを手に入れられる
コールセンターの運営にはシステムや通信設備など、一定の投資が必要です。M&Aで事業を買収すれば、これらの設備をスムーズに引き継ぐことができます。一から導入するのに比べて、時間と費用を大幅に削減できるのは大きなメリットです。
また、対象企業の業務プロセスやノウハウを吸収することで、自社の生産性向上や新サービス開発にもつなげられるでしょう。
内製化でコスト削減と業務効率化が可能
コールセンター業務を外部委託から内製化に切り替えることで、コスト削減が可能です。外注費用を削減できるだけでなく、自社でコストコントロールできるようになるため、長期的視点に立った運営が望めます。
また、社内にオペレーションを取り込むことで、業務フローの最適化や問題への迅速な対応が実現します。サービス品質の向上と効率化の両立を目指せるでしょう。
コールセンター業界におけるM&A成功のポイント
コールセンター業界でM&Aを成功させるための鍵は、顧客情報の引継ぎと従業員の確保です。規模を拡大し、人材や見込み顧客リストを増やすことは重要ですが、単に数合わせに走るのは禁物です。
従業員の定着率を高め、サービスの安定提供を実現できる体制づくりを、中長期的な視点で進めることが成功への道筋といえるでしょう。
コールセンター業界における今後のM&Aの課題と展望
コールセンター業界では、人材不足や品質管理、問い合わせ対応の多様化など、さまざまな課題を抱えています。M&Aは、こうした課題解決の有力な選択肢の一つとなりますが、従業員の働きやすさにも配慮した取り組みが不可欠です。
人材の確保
コールセンター業界における人材不足は深刻化しており、抜本的な対策が急務となっています。M&Aによる人材の獲得は有効な手段ですが、単に数を増やすだけでは、離職率の高さからの改善は見込めません。
吸収合併先が有する優れた人材マネジメントのノウハウを取り入れることで、定着率の向上につなげることが重要です。処遇改善やキャリア形成支援など、働き続けたいと思えるような環境整備も欠かせません。
品質の確保
オペレーターの対応品質にばらつきが出るのは、コールセンター業界の宿命ともいえる課題です。教育を強化しても、離職率の高さからノウハウの定着は難しい状況にあります。
M&Aで規模を拡大し、優秀な人材を集められる環境を整えることが、品質向上への近道といえます。合わせて、対応品質の「見える化」を進め、PDCAサイクルを回す仕組みを構築することが求められるでしょう。
問い合わせの多様化
電話だけでなく、メールやチャット、SNSなど、問い合わせ手段は多岐にわたります。ユーザー側の利便性に合わせて対応チャネルを拡充していく必要がありますが、オペレーターの負担増加は避けられません。
デジタルシフトを進めるうえでは、業務の自動化・効率化も同時に求められます。M&Aで専門技術を獲得し、システム化を加速することが有効です。一方で、オペレーターへの教育や福利厚生の拡充にも投資し、離職防止とモチべーションアップを図ることが欠かせません。
事業規模の拡大と従業員の働きやすさの追求、この両立こそが、M&A成功の鍵を握っているといえます。
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