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少子化の影響により出生数は減り続けており、その数は30年前と比べると約6割程度に減少しています。出生数の減少はさまざまな市場に影響を与えていますが、こうした少子化の影響を大きく受けている業界の一つが、婚礼・ブライダル業界です。
出生数の低下により結婚式の数そのものが減っているうえに、近年では結婚を選択しない人たちや、結婚しても挙式しないカップルが増えています。
このように非常に厳しい状況に立たされている婚礼・ブライダル業界では、M&Aを活用した業界再編が急速に広がりつつあります。
そこで本記事では、婚礼・ブライダル業界の市場規模や特色などを整理したうえで、M&Aの動向や事例、M&Aを活用するメリットや成功のポイントなどについて解説します。
M&Aの前に押さえておきたい婚礼・ブライダル業界の情報
はじめに、婚礼・ブライダル業界の定義やその特色について見ていきましょう。
婚礼・ブライダル業界の定義
婚礼・ブライダル業界とは、挙式、披露宴の挙行など婚礼のための施設・サービスを主たる事業とする業界です。また、新婚家具、新婚旅行、ブライダルジュエリー、結納式・結納品、結婚情報サービスといった、婚礼に付随するサービスを提供する事業者も含む場合があります。
婚礼会社の経営形態として代表的なのは、ホテル・旅館等やレストラン、専門式場・ハウスウェディングなどです。1990年代における挙式や披露宴などの婚礼はホテルで行うものが主流でしたが、2001年以降は、顧客のニーズに対応できるハウスウェディングの登場により、婚礼スタイルが多様化しています。
こうした多様化の流れはさらに加速しており、近年では結婚式を挙げない「ナシ婚」や、新郎新婦が式場などで挙式や披露宴の様子をインターネット配信し、参加者にはスマートフォンなどを用いたオンラインでゲストとして参加してもらう「オンライン結婚式」といった形態も登場しています。
旧来の挙式スタイルではなく、こうした新しいタイプの挙式スタイルを選択する大きな理由は、挙式にかかる費用を抑えるためです。結婚式を挙げない「ナシ婚」はもちろんのこと、オンラインで行う「オンライン結婚式」も、旧来の挙式と比べ圧倒的に費用を安く抑えることができます。
このような「費用を抑えた挙式スタイル」を支持する若年層が増えていることから、今後は旧来のビジネスモデルだけで収益を維持するのは非常に難しいといえるでしょう。
【ブライダル業界の主な企業】
- ・リクルートホールディングス
- ・ツカダ・グローバルホールディングス
- ・千趣会
- ・テイクアンドギヴ・ニーズ
- ・アイエーグループ
- ・エイチーム
- ・エスクリ
- ・アイ・ケイ・ケイホールディングス
- ・一蔵
- ・IBJ
婚礼・ブライダル業界の特色
婚礼業界の特徴の一つが、閑散期と繁忙期の差が激しい点です。気候的にも過ごしやすい春・秋は、挙式や披露宴などの婚礼が行われることが多く、繁忙期となります。反対に、避けられがちな夏・冬は閑散期といえるでしょう。また、婚礼のほとんどは土日祝日に行われ、平日に行われることはほとんどありません。これらのことから、1年を通して考えた際に、売上のタイミングが非常に少ないビジネスモデルになっています。
固定客やリピーターがいないという点も婚礼業界の特徴です。そのため、新規顧客を常に探し続ける必要があり、広告費やマーケティングコストの増大につながっています。
また、地域による差も出やすい業界といえます。婚礼に関する文化は、地域によって異なる場合があるためです。都市部では、ご祝儀制の婚礼がメインですが、地方では会費制の婚礼もあり、この費用差は売上にも影響します。
婚礼・ブライダル業界のM&A動向・市場規模
婚礼・ブライダル業界は、コロナ禍の影響を大きく受けましたが、現在の市場規模は回復傾向にあります。しかし、長期的に見ると、婚姻数の減少などにより、業界再編を迫られている状況です。


経済産業省が公表した2022年12月の産業動態統計速報では、結婚式場業の売上高と取扱件数は21ヶ月連続増加しています。同年のブライダル関連の市場規模(主要6分野計)は、前年比118.5%の1兆7,577億円となる見込みです。
このように売上高や取扱件数が回復基調にある要因には、主力である挙式披露宴の施行が回復傾向となったことが挙げられるでしょう。一方で、コロナ禍で営業不振となった婚礼会場の閉鎖、営業の委託や譲渡の増加、有望再生物件獲得の激化など、業界再編も加速しています。
厚生労働省の令和4年(2022)の人口動態統計(確定数)によると、2022年の婚姻件数は50万4878組で、令和3年の50万1138組よりも増加しました。しかし以下のグラフのように、長期的にみると減少傾向にあることがわかります。

婚礼・ブライダル業界のM&A事例
次に、婚礼・ブライダル業界のM&A事例を紹介します。
株式会社クラウディアホールディングスと株式会社二条丸八
2023年10月、株式会社クラウディアホールディングスは、株式会社二条丸八の株式を取得し、子会社化することを発表しました。
買い手となったクラウディアホールディングスはウェディングドレスの製造および卸売事業を展開している会社です。一方、売り手となった二条丸八は、和装を中心とする婚礼衣裳の企画から製造販売まで行っています。
今回のM&Aの目的は、二条丸八が有する和装衣裳を展開する技術およびノウハウを、クラウディアホールディングスグループに取り込むことで、更なる収益基盤の強化を目指すと共に、和装衣裳での挙式文化を守っていく役割を担うことです。
また、「総合ブライダル企業」としての存在感をさらに高め、和装を製品のラインナップに加えることで、販売力の強化を目指します。
京越株式会社と株式会社Miria
2009年に創業し、和装EC業界でトップに立つ京越株式会社は、株式会社Miriaのフォトブライダル事業を譲り受けました。
Miriaが運営するフォトブライダル事業「古都photo」は、和装洋装の前撮りやフォトウェディング等のロケーション撮影を行うサービスです。京都祇園に本店を構えており、価格を抑えた設定と高品質なサービスを提供することで、コロナ以降に高まったフォトウェディングへの需要や婚礼の多様化によるニーズに応えています。
今回の事業譲渡により、京越が保有するリソースやノウハウを投入し、和装業界やブライダル業界への進出を果たし、和装EC事業に次ぐ第二、第三の柱の確立を目指します。
株式会社ノバレーゼと株式会社アンドユー
2023年10月、結婚式場の運営などを行う株式会社ノバレーゼは、新郎新婦の両親に向けて留め袖やモーニングを貸し出す「Wearful」事業を、自社の子会社である株式会社アンドユーに譲渡しました。
アンドユーは、参列者用の衣裳レンタルを行う会社で、SNS等を活用した外部顧客の獲得ノウハウが豊富です。
今回の組織再編により、ノバレーゼが新郎新婦向けの衣裳レンタルビジネスに注力し、それ以外の部門を子会社に集約することで、婚礼衣裳部門の収益拡大を目指します。
株式会社IBJと株式会社ノバレーゼ
2023年5月、株式会社IBJと株式会社ノバレーゼは、資本業務提携契約を締結しました。
IBJは、結婚相談所や婚活パーティー、婚活アプリや結婚相談所プラットフォーム等を運営する会社です。IBJのサービスによって創出された結婚カップルを、ノバレーゼが運営する婚礼施設へ送客し、両者のシナジー効果を創出するのが今回の資本業務提携の狙いです。
なお、IBJは7億6,500万円を上限にノバレーゼの株式を取得し、中期経営計画(2021-2027 年)の売上高300億円、営業利益50億円達成を目指します。
株式会社エスクリと株式会社ストーリア
2023年5月、全国で婚礼施設を運営する株式会社エスクリは、自身を存続会社、完全子会社であるストーリアを消滅会社とする吸収合併を実施しました。
ストーリアは結婚式場「パラッツォ ドゥカーレ麻布」を運営しており、エスクリに「パラッツォ ドゥカーレ麻布」を転貸していますが、経営資源の集中と業務効率化を目指し、今回の吸収合併に至っています。
なお、今回の合併は略式合併につき、株主総会は開催されませんでした。
株式会社ジェイグループホールディングスと株式会社ジェイプロジェクトおよび株式会社ジェイブライダル
2023年6月、株式会社ジェイグループホールディングスは、100%連結子会社であった株式会社ジェイプロジェクト、および株式会社ジェイブライダルを吸収合併しています。
株式会社ジェイプロジェクトは飲食店の経営および飲食店経営のコンサルティングを、株式会社ジェイブライダルは結婚式の企画や婚礼衣裳等の賃貸および販売を行っていましたが、昨今の環境の変化を受け、経営効率の改善を図る目的で今回の吸収合併が行われました。
今回の吸収合併により、ジェイグループホールディングスは持株会社と主要事業会社の統合を行い、効率的な経営体制の構築を目指します。
また、合併は略式合併によって行われたため、株主総会は開催されませんでした。
婚礼・ブライダル業界でM&Aを活用するメリット
婚礼・ブライダル業界では、M&Aを活用した組織再編が活発に行われています。そのメリットは、おもに以下の3つです。
人材を確保できる
M&Aを活用する1つ目のメリットは、人材の確保です。少子高齢化により労働力人口は減少しており、業種を問わず人手不足が深刻化しています。M&Aであれば、買収した企業の従業員をそのまま引き継いで、自社グループに招き入れることが可能です。
人材の確保はどの業界でも年々難しくなっており、婚礼・ブライダル業界も例外ではありません。M&Aを活用できれば、ブライダルプランナーやホールスタッフ、アテンダー、ホール・キッチンスタッフ、会場の照明・撮影スタッフなど、ブライダル事業で必要となる人材を確保できます。
事業エリアを拡大しやすい
M&Aを活用する2つ目のメリットは、事業エリアの拡大がしやすいことです。婚礼・ウエディング業界では、少子化による婚姻率の減少や、結婚式自体を行わない「なし婚」等の増加により、顧客の獲得が困難な状況です。
こうした状況では、新規エリアに出店するよりも、M&Aにより既存企業を買収した方が売上の予測が立てやすいでしょう。また、売り手側企業が長年築き上げた販売網や供給網、技術等を引き継いで、リスクを抑えたうえで事業を展開することが可能となります。
後継者問題を解決できる
M&Aを活用する3つ目のメリットは、事業承継問題が解決できることです。下図をご覧ください。
半数近くの中小企業では後継者が見つかっておらず、婚礼・ブライダル業界も例外ではありません。
帝国データーバンクの全国「後継者不在率」動向調査によると、2018年の時点で、ブライダルを含むサービス業のうち、71.6%が後継者不在の状態でした。2023年には58.2%にまで改善しましたが、それでも建設業の60.5%に次いで高い水準です。
しかし、M&Aを実施し、譲受希望企業に自社を譲渡すれば後継者不在の問題を解決し、事業承継を実現することができます。

婚礼・ブライダル業界におけるM&A成功のポイント
婚礼・ブライダル業界におけるM&Aの成功ポイントとして、3点を紹介します。
M&Aの目的を明確にする
まず、自社にとってのM&Aの目的を明確にしましょう。
M&Aは、事業承継や創業者利益の獲得、技術やノウハウの伝承、社風の維持など、さまざまな課題を解決することが可能ですが、そのうちのどれを目的にするかで、理想的な買い手企業は異なります。自社の目的を明確にし、相手探しや交渉を行いましょう。
計画的に準備する
M&Aの事前準備から実施・統合完了までには半年〜2年程度は必要です。万が一準備が不十分のまま実施してしまうと、M&Aが成立するまでの期間が長くなってしまったり、市場のニーズの変化によってM&Aの機会を逃したり、理想の形でのM&Aが難しくなります。
買い手(もしくは売り手)企業とのマッチングやデューデリジェンス(企業監査)、最終条件のすり合わせなどの工程に十分な時間を割けるよう、計画的に準備を進めましょう。
専門家に相談する
M&Aでは単に資産・負債だけでなく、得意先や従業員との契約や、それに伴うさまざまな権利・義務なども承継されます。したがって、民法や会社法、税法や労働基準法などの専門知識が欠かせません。
そのため、M&Aで成功するためには信頼できる専門家を見つけ、アドバイスを受けながら慎重に進めることが非常に重要です。
婚礼・ブライダル業界における今後のM&Aの課題と展望
婚礼・ブライダル業界は、コロナ禍の影響から回復傾向にあるものの、少子化の影響による婚姻数の減少を受け、大幅な再編を迫られている状況です。業界特有のサービス形態に起因するデータ化の遅れや従業スタッフの負担増から、内部のDX推進も必要です。
また、新たな収益を獲得するためには多角化経営を進め、新規分野への参入や新規サービスの開発なども行わなければなりません。
こうした課題解決の手段として、M&Aは非常に有効な手段といえます。M&Aであれば、自社に無い事業への進出や新たなノウハウなどの習得も可能です。今後は、婚礼・ブライダル業界の課題解決の手段としてM&Aが一層進められていくでしょう。
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