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- #水産業界 M&A
業界の定義
水産業界とは、有用な水産資源を人間の生活ために開発し、それを利用する業界全体のことをいう。漁業だけを水産業とは言わず、採捕を主とする漁業とその育成、繁殖を主とする水産養殖業、水産原料の加工を主とする水産製造加工業、水産商品の取引を主とする水産流通業を含む。
船で運ばれてきた魚を冷凍保管して、需要に応じて全国に出荷する形態の企業も存在し、倉庫業・冷凍業・運輸業の水産流通業で生産されている。経済発展にともない水産業は食用と、魚肥や飼料などの非食用も生産されるようになっている。
業界の特色

水産庁によると、平成30年の生鮮魚介類の国内消費量は576万トン。国民1人あたり年間24.4kg消費している。日本人がよく食べている魚は、サケ841g、マグロ647g、ブリ543g、エビ452g、イカ387g、サンマ381g、アジ313gである。
2001年度をピークに生鮮魚介類の消費量は減少しており、種類もイカ・エビからサケ・マグロ・ブリなど切り身販売される魚に人気が交代している。これは供給側の流通技術や冷蔵技術の発達に加え、需要者の調理の簡便化志向の高まりがある。
輸出入に焦点をあてると、日本はカニ・タラ類・イカ・エビ調理品を中心に年間1兆7,910億円を輸入しており、ナマコ調整品・マグロやカジキ類・ブリなど3,031億円を輸出している。輸入相手国は、チリ・ノルウェー・台湾・中国・韓国・ベトナム・インドネシアなどがあげられ、輸出相手国は、香港・中国・アメリカで60%を占めている。
水産業について学ぶために日本全国に、46校の水産高等学校・19校の水産系大学や水産大学校・17校の漁業学校がある。大学校では研究開発や水産関連産業の中核を担う人材育成を担っている。
年間漁業海上作業に30日以上従事した15歳以上を「漁業就業者」と呼んでおり、15万3490人が従事している。1人あたりの平均漁獲量は28.1トン。平均所得は540万円となっている。
市場の規模
農林水産省が毎年発行している「農林水産基本データ」によると、平成30年の一個人経営体の漁船漁業のみの漁労収入は840万円で3.7%減少であった。また、一会社経営体の漁労収入は3億3,196万円で5.0%減少している。漁船漁業以外の養殖・加工・保管・流通に関しての数値は開示されていない。
漁労収入の個人経営体の年間売上は840万円に対して経費(油費・減価償却費・販売手数料・漁具費など)は591万円で差引収入は249万円と16.3%減少している。会社経営体の漁労収入は、3億1,396万円に対して漁労支出は3億5,962万円で漁労利益は2,767万円の赤字(損失)であった。
売上上位を見てみると、マルハニチロ株式会社の売上高が8,848億円、日本水産株式会社が6,371億円、株式会社極洋が2,226億円であった。マルハニチロ株式会社は、1880年創業で遠洋漁業・捕鯨・水産加工大手のマルハ(旧大洋漁業)と1906年創業で北洋漁業・水産加工大手のニチロ(旧日魯漁業)が2014年にM&Aで誕生した会社である。M&A成立直後は「あけぼの」「マルハ」「アクリ」の3ブランドが併用されていたが、2019年に「マルハニチロ」に統一された。
日本水産は「にっぽんすいさん」と読み、「ニッスイ」ブランドは冷凍食品の代名詞と思われがちだが、活用されずに捨てられていた未利用資源で「すりみ」を開発したのが水産加工では戦後特筆すべき商品である。
課題と展望
世界の漁業・養殖業の生産量は、1987年の1億トンから2017年には2億559万トンに増加している。一方、日本は1984年の1,282万トンをピークに2017年には431万トンまで減少している。日本は1972年から1984年まで世界一の漁獲量を誇る水産業大国であったが、1977年に排他的経済水域が設定され、それまで主流であった遠洋漁業ができなくなったのが衰退理由の一つとしてあげられている。
水産業は漁業に関しては海上において、流通加工に関しては市場(いちば)において、ライバル意識より仲間意識の方が強いプレーヤーが多い傾向にあり、かつ閉鎖的で封建的なところが多い。その結果、なかなか内部からの技術革新が進まず、外部からの市場参入を拒む傾向が強い業界となっている。
そうなると内部にイノベーターは生まれず、今後は近畿大学による完全養殖クロマグロや、岡山理科大学の陸で採れる魚の開発など、水産業の枠で捉えられない産学協同や民間の技術革新によるベンチャービジネスに期待する傾向になっている。
水産業界のM&A動向
水産業界大手3社のM&Aをリストアップした。
2020年、マルハニチロ株式会社は大都魚類株式会社に対してTOB(株式公開買付け)を実施し完全子会社化のM&Aを成立させた。マルハニチロは既に50.32%の株式を保有しており、大都魚類は上場廃止となる。買付総額は25億9,000万円。大都魚類はマルハニチロの漁獲物や水産加工品を販売しているが、国内の漁業生産量減少・魚介類消費量低下により経営が悪化していた。
2019年、株式会社極洋は、高知県にて水産物の養殖事業を行っている有限会社クロシオ水産の株式70%を取得して子会社化。M&Aを成立させた。クロシオ水産は、高知県宿毛湾にて真鯛・カンパチ・ヒラマサ・シマアジなどの養殖を行い、ブリヒラなど新しい魚種の養殖にも成功している。極洋は、自社グループで養殖から生鮮加工や販売までの一貫体制を構築することが狙い。
2016年、マルハニチロ株式会社は、マレーシア・パハン州・ペカンでエビを養殖するAGROBEST(M)SDN.BDHの全株式を、中国・福建省・福州市の恒水股吩有限公司に譲渡してM&A成立。AGROBESTは、東南アジア全域のエビ養殖地に発生した病害により経営悪化。回復の見込みがないと判断してM&Aに踏み切った。
2015年、日本水産株式会社は、インドネシアでエビ養殖事業を行っていた100%子会社NIPPONSUISANINDONESIA(ニッスイインドネシア)の全株式を、取引関係のあるロシアのPreobrazhenskayaBaseofTrawlingFleetに譲渡しM&A成立。ニッスイインドネシアは2011年に発生した東南アジア全域のエビ養殖地に発生した病害の影響で、2012年より事業を休止していた。
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