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デリバリー業界は、近年急速に成長しており、M&Aの対象としても注目されています。
本記事では、デリバリー業界の基礎知識をまとめたうえで、同業界のM&Aについて、動向や事例、メリット、成功のポイントなどについて解説します。
M&Aの前に押さえておきたいデリバリー業界の情報
M&Aについて触れる前に、デリバリー業界の定義や代表的な企業、業界ならではの特色といった、基礎的な知識について押さえておきましょう。
デリバリー業界の定義
デリバリー(フードデリバリー)とは、顧客が購入した飲食店の商品を指定場所まで届けるサービスのことです。
日本では、以前より出前寿司や宅配ピザなど、飲食店自身が電話注文を受け、料理を作り、配達する形が主流でした。しかし、現在はインターネットやスマートフォンの普及により、Uber EatsなどのWebサイトやアプリから注文する形が一般的です。
代表的な企業
デリバリー業界で代表的な企業は以下のとおりです。
- ・Uber(Uber Technologies, Inc.)
- ・Wolt Japan 株式会社
- ・株式会社 出前館
- ・menu株式会社
デリバリー業界業界の特色
デリバリー業界で事業を行うには、主に「デリバリー代行サービスに加盟する」もしくは「自社でデリバリーサービスを展開する」の2つの方法があります。それぞれの特徴は以下のとおりです。
方法 | 特徴 |
---|---|
デリバリー代行サービスに加盟する |
|
自社でデリバリーサービスを展開する |
|
デリバリー業界業界の市場規模・動向
エヌピーディー・ジャパン株式会社の調査によると、2023年1月から12月のデリバリー業界の市場規模は8622億円に達しました。この数字は前年同期比で11%増加しており、コロナ前と比較しても106%の増加です。
市場は成長傾向にあるものの、2019年から2020年にかけてのコロナウイルスの影響を受けた急激な伸び率と比べると、現在は落ち着きを見せており、正常化しつつあるといえるでしょう。
また、ICT総研の「2021年 フードデリバリーサービス利用動向調査」によると、デリバリーサービスの利用者数では出前館がトップで428人、次いでUber Eatsが426人と僅差で続いています。3位にはドミノ・ピザが387人でランクインしており、デリバリー業界は多様なプレイヤーが競い合う市場となっています。今後もさらなる成長が見込まれるでしょう。

デリバリー業界のM&A事例
デリバリー業界では、近年多くのM&Aが行われています。以下に、代表的な事例を紹介します。
新出光とポケットフーズ
2021年12月、株式会社新出光はポケットフーズ株式会社の全株式を取得し、完全子会社化しました。
買い手となった新出光は石油事業を展開する企業です。売り手となったポケットフーズは九州を中心に宅配ピザ事業「ピザポケット」を運営しています。
新出光はこのM&Aにより、非石油事業の成長戦略を推進し、出店強化や食と暮らし事業の拡大を図るとしています。
ナッシュ株式会社とマルハニチロ株式会社および株式会社マイナビ
2022年4月、ナッシュ株式会社は、マルハニチロ株式会社および株式会社マイナビと資本業務提携契約を締結したと発表しました。
ナッシュは「社会全体を健康に」の企業理念のもと、専属シェフ監修による食事宅配サービス「nosh」を提供しています。マルハニチロは水産物をはじめ、さまざまな食品を取り扱う大手食品会社です。また、マイナビは総合情報サービス企業です。
ナッシュは両社との資本業務提携により、需要増加に対応するため新たに自社製造工場を建設し、ビジネス拡大を図るとしています。
オイシックス・ラ・大地株式会社とシダックス株式会社
2024年1月、オイシックス・ラ・大地株式会社は、シダックス株式会社を子会社化しました。
買い手となったオイシックス・ラ・大地株式会社は食品宅配専門スーパー「Oisix」等、有機野菜、無添加食品、ミールキット等の通信販売を行う企業です。売り手となったシダックスグループは企業や学校、病院、レストラン等へ食事提供業務を行うフードサービス事業や、車両運行サービス事業、社会サービス事業等を展開する総合サービス企業です。
このM&Aは、シダックスがMBOで株式を非公開化したうえで第三者割当増資を行い、オイシックスが66%を出資する形で実施されました。オイシックス・ラ・大地株はこの子会社化をとおして、人材不足や原材料費高騰といった、業界の抱える課題の解決を期待しています。
ヤマエグループホールディングス株式会社と日本ピザハット・コーポレーション株式会社
2022年8月、ヤマエグループホールディングス株式会社は、日本ピザハット・コーポレーション株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。
買い手となったヤマエグループホールディングスは持株会社として食品や住宅・不動産関連の卸売業等を行う食品商社です。売り手となった日本ピザハット・コーポレーション株式会社は日本国内のピザハットのフランチャイザー(加盟店本部)として約500店舗を展開しています。
ヤマエグループホールディングス株式会社は、M&Aによりグループとして新たにBtoC事業に挑戦し、サプライチェーン全体の発展を目指すとしています。
米セブンイレブンとSkipcart社
2022年8月、株式会社セブン&アイ・ホールディングス傘下の米セブンイレブンが、米Skipcart社を買収していたことが分かりました。
セブン&アイ・ホールディングスはコンビニエンスストア事業、スーパーストア事業、百貨店事業、専門店事業、金融関連事業等を展開しています。Skipcart社はセブンイレブンやレストランチェーン等の料理や商品を平均30分で届ける宅配サービスを展開する会社です。
Skipcart社の運営責任者は、以前に米セブンイレブンの宅配注文用モバイルアプリ「7NOW」に携わっていました。米セブンイレブンは商品数の多さや配達の利便性から高い支持を受けている7NOWを成長の柱とし、7NOWの売上高構成比を高める計画をしています。
デリバリー業界でM&Aを活用するメリット
デリバリー業界におけるM&Aの活用には、主に以下のようなメリットがあります。
- ・デリバリーを利用する顧客を獲得できる
- ・デリバリー事業を低コストで始められる
- ・配達員などの人材を確保できる
それぞれ見ていきましょう。
デリバリーを利用する顧客を獲得できる
デリバリー業を展開する企業を買収すれば、デリバリーサービスを通じて顧客確保の機会を広げることができます。
デリバリーサービスは、店舗の規模や立地に関係無く売上を上げられるため、効率的なビジネス展開が可能です。また、買い手側が既に飲食店等を経営している場合には、デリバリーサービスをきっかけとして実店舗を知ってもらう機会にもつながります。
デリバリー事業を低コストで始められる
デリバリー業を買収し、「ゴーストレストラン」の手法を活用することで、飲食業を始める際の開業費用や初期費用の削減につながります。
ゴーストレストランとは、店舗を持たずにデリバリーサービスに出店する形の飲食店のことです。実店舗を持つ場合に必要となる店舗の外観や内装、食器等にかかる費用が不要なため、コストを抑えて飲食事業に参入できます。また、家賃や人件費も最低限に抑えられるため、実店舗を構えた場合に比べてランニングコストも抑えることが可能です。
配達員などの人材を確保できる
労働力人口の減少が少子化により深刻化しているなかで、人材の確保は大きな課題です。デリバリー業界では需要が伸びているため、配達員の確保が求められます。
M&Aを実施すれば、相手企業の配達員を自社に取り込むことで、人材の確保が可能です。これにより、安定したサービス提供が期待できます。
デリバリー業界におけるM&A成功のポイント
デリバリー業界でM&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、売却側企業が「食品衛生法に基づく営業許可」や「特定貨物自動車運送業としての運輸支局長への届出」など、必要な法律やルールを守っているかを確認することが重要です。
また、デリバリー業界は価格競争が激しいため、顧客数が収益の重要な源泉です。適切な価格戦略を策定し、顧客満足度とリピート購買率を保つことが求められます。顧客の満足度およびリピート率は、提供する飲食物だけでなく従業員の質にも影響されます。
さらに、従業員の定着率や社内教育、人事制度についても評価が必要です。これらの要素を総合的に評価し、適切な戦略を立てることが求められます。
デリバリー業界における今後のM&Aの課題と展望
日本国内のフードデリバリー業界では、Uber Eatsと出前館の大手2社に人気が集中しています。デリバリーサービスに新たに加盟する場合は、これら2社との差別化が必要です。差別化の一環として、30分以内の配送を目指す「クイックコマース」など、価格競争だけでなく時間短縮のサービス競争に注力する企業も増加しています。
また、デリバリー業界では、フードデリバリーだけではなく、日用品などの配達も注目されています。このような状況の中、既にデリバリー業を展開していた企業による取扱い商材の多角化や、異業種によるデリバリー市場への参入を目的とした同業種・異業種間でのM&Aが実施されている状況です。
競争力向上が求められるデリバリー業界において、今後M&Aはより活発化していくでしょう。企業はこれらの課題に対応しながら、持続可能な成長を目指す必要があります。
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