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障害福祉サービス業界は、高齢化や障がい者支援の拡充に伴い、今後も成長が見込まれる分野です。一方で、人材不足や経営効率化という課題も抱えています。こうした状況下で、M&Aは業界の課題解決と成長戦略の両面で、重要な役割を果たす可能性があります。
障害福祉サービス業界の特徴や動向を踏まえつつ、M&Aの事例やメリット、成功のポイントを解説するのが本記事です。M&Aに踏み切るか否かの判断材料としたい方は、最後までご覧ください。
M&Aの前に押さえておきたい障害福祉サービス業界の情報
障害福祉サービス業界は、障がいのある方の生活を支える重要な役割を担っています。M&Aを希望・検討する前に、業界の定義や特色、主要企業などの基本情報を押さえておきましょう。
障害福祉サービス業界の定義
障害福祉サービスとは、障がいがあり支援を必要としている方が、地域や社会のなかで自立した生活を送れるよう、サポートやサービスを提供する事業を指します。
サービスは大きく2種類に分けられ、日常生活に必要な介護の支援を提供する「介護給付」と、就労支援などの訓練を対象とする「訓練等給付」があります。
分類 | 内容 | |
---|---|---|
介護給付 | 【訪問系】 | ・居宅介護 ・重度訪問介護 ・同行援護 ・行動援護 ・重度障害者等包括支援 |
【日中活動系】 | ・療養介護 ・生活介護 ・短期入所(ショートステイ) |
|
【施設系】 | ・施設入所支援 | |
訓練等給付 | 【居住訓練系】 | ・自立生活援助 ・共同生活援助 |
【訓練系・就労系】 | ・自立訓練(機能訓練・生活訓練) ・就労移行支援 ・就労継続支援(A型) ・就労継続支援(B型) ・就労定着支援 |
なお、障害福祉サービスの対象者は、以下のように定められています。
- ・身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)のある18歳以上の人
- ・18歳未満で身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)のある障害児
- ・障害者総合支援法で指定されている難病を抱えた人
代表的な企業
障害福祉サービス業界で代表的な企業は、以下のとおりです。
- ・株式会社LITALICO
- ・デコボコベース株式会社
- ・セルフ・エー株式会社
- ・LOGZGROUP株式会社
- ・株式会社manaby
これらの企業は、革新的なアプローチや幅広いサービス提供により、業界内で注目を集めています。
障害福祉サービス業界の特色
障害福祉サービスの業態は多岐にわたり、関わる職種もさまざまです。下表に主なサポート内容と、それらに関連する施設や職種の例を示します。
サポート内容 | 施設の例 | 関与する職種の例 |
---|---|---|
暮らしを支える | ・グループホーム ・障害者支援施設 ・福祉ホーム ・生活介護事業所 ・自立訓練事業所 など |
・障害者支援施設職員 ・生活支援員 ・障害児者居宅介護従業者(ホームヘルパー) ・ガイドヘルパー など |
自立や就労を促す | ・就労移行支援事業所 ・就労継続支援A型事業所 ・就労継続支援B型事業所 ・障害者就業生活支援センター ・共同作業所 など |
・相談支援専門員 ・身体障害者相談員 ・知的障害者相談員 ・コミュニティソーシャルワーカー など |
子供を支える | ・障害児入所施設 ・放課後等デイサービス事業所 ・児童心理治療施設 ・児童発達支援センター など |
・特別支援学校教諭 ・身体障害者福祉司 ・児童指導員 など |
利用者が障害福祉サービスを受けるためには、「障害者福祉サービス受給者証」の交付を受けなくてはなりません。この受給者証を有する利用者へ障害福祉サービスを提供した場合、事業者に対して「障害福祉等サービス報酬」が支払われます。
上記報酬は、提供するサービスごとに設定されており、サービスの提供体制や利用者の状況等に応じて加算・減算される仕組みです。
このような報酬体系は、サービスの質の向上や適切な運営を促す役割を果たしています。
障害福祉サービス業界のM&A動向・市場規模
障害福祉サービス業界の市場規模は、障がい者数の増加に伴い、拡大傾向にあります。
令和5年版 障害者白書によると、日本国内の障がい者の総数は、身体障がい者が約436万人、知的障がい者は約109万4,000人、精神障がい者は約614万8,000人です。国民のおよそ9.2%が、何らかの障がいを有していることを意味します。
上記に伴い、障害福祉サービスの需要も高まっています。需要の増加を反映して、障害福祉サービス等の予算も継続的に増加中です。平成19年度(2007年度)から令和2年度(2020年度)までの13年間で見ると、予算は約3倍にまで増加しました。

引用:障害福祉分野の最近の動向|厚生労働省

引用:障害福祉分野の最近の動向|厚生労働省
障がい者施設の利用者は、今後も全国的に増加が見込まれており、障がい者施設の増設が必要とされています。この状況は、M&Aの機会を増やす可能性があります。新規参入や事業拡大を目指す企業にとって、既存の施設や事業を買収することは、迅速に市場シェアを獲得する有効な手段となり得るからです。
一方で、業界全体として人材不足の課題は深刻です。給与水準を上げるなど、従業員の待遇改善が求められています。M&Aを通じて経営資源を統合し、効率化を図ることで、課題の一部を解決できる可能性があります。また、規模の拡大により、より良い待遇を提供できる選択肢も広がるはずです。
障害福祉サービス業界は、成長が見込まれる一方で課題も抱えており、M&Aはこれらの課題解決と成長戦略の両面で重要な役割を果たす可能性を含んでいます。
障害福祉サービス業界のM&A事例
障害福祉サービス業界では、事業拡大や経営基盤強化を目的としたM&Aが増加しています。ここでは、近年の代表的な事例を紹介します。
株式会社クオリスと株式会社ふれあいタウン
株式会社クオリスと株式会社ふれあいタウンは2024年、株式会社クオリスを存続会社とする吸収合併を実施しました。
両社は、株式会社QLSホールディングスの子会社として、介護・障害福祉サービス事業を展開しています。この合併により、経営資源の融合を通じて事業の効率化・合理化を行い、グループ全体の経営基盤の強化を目指しています。
株式会社エルサーブと株式会社AK
2023年、株式会社エルサーブは株式会社AKが運営する事業のうち、障がい者グループホーム事業である「g-port」を譲り受けました。
エルサーブは主に保育事業を展開する企業でしたが、この譲受により、障害福祉サービス事業へ本格的に参入しています。一方のAKは、経営不振により事業の継続が困難と判断し、譲渡先を探していました。
エルサーブは、同業の優位性を活かしたサービスの質の向上、およびサービスの提供による社会への貢献を目的として、今回の譲受を実施しています。
社会福祉法人閑谷福祉会と社会福祉法人浜っ子
社会福祉法人閑谷福祉会は2021年、社会福祉法人浜っ子より、障害福祉サービス事業を譲り受けました。
引き継いだ事業は、共同生活援助「グループホームひなせ」、生活介護・就労継続支援B型「閑谷ワークセンター・ひなせ」、居宅介護等「ヘルパーステーションそら」の3件です。
閑谷福祉会は今後も利用者に対し、変わらずサービスを提供していくとしています。
株式会社土屋と東京・愛知の2団体
2022年、重度障がい者向けに訪問介護事業を展開する株式会社土屋は、有限会社ヒカリエンタープライズの事業譲受、および有限会社コスモスの子会社化を実施しました。
このM&Aは、訪問介護事業だけでなく、総合的な福祉サービスの提供に向けた体制強化を図ることを目的としています。
ひらいルミナルとヒーライトねっと
社会福祉法人ひらいルミナルは2021年4月、特定非営利活動法人ヒーライトねっとから、全事業の権利義務を承継しました。
ひらいルミナルは、介護サービス包括型共同生活援助事業、自立生活援助事業、自立訓練(生活訓練)事業等の障害者福祉サービス事業を行う法人です。
ヒーライトねっとが運営していた相談支援事業や精神障害者支援事業は、ひらいルミナルに承継され、運営は継続されます。ひらいルミナルは、NPO法人の強みを活かした、制度に縛られない柔軟な福祉・地域活動や地域貢献活動等に取り組んでいく予定です。
障害福祉サービス業界でM&Aを活用するメリット
障害福祉サービス業界でのM&Aには、事業拡大や経営効率化以外にも、さまざまなメリットがあります。ここでは、主要なメリットを紹介します。
経験値の高い人材を確保できる
M&Aによって、障害福祉サービスの事業・団体および法人ごと買収すれば、経験値の高い人材を継続して雇用することが可能です。障害者施設を新たに開設し、従業員の教育を行うよりも、コストが抑えられるというメリットがあります。
障害福祉サービス業界では、需要の高まりや労働環境の見直しのなか、人材不足問題に直面しているのが現状です。そのため、早期に即戦力となり得る人材の確保は、大きな利点となります。
M&Aを通じて経験豊富な人材を獲得することは、サービスの質の維持向上にも寄与するでしょう。
施設や設備を引き継いで利用できる
M&Aにより施設・設備をそのまま引き継ぐことで、初期投資を抑えられます。施設や事業所を新規開設する場合、拠点となる土地の入手や施設の建設等、サービス開始までにさまざまな費用や労力が必要となります。
M&Aを実施すれば、施設や設備を一括で取得できるため、迅速にサービス提供を開始することが可能です。また、自社が既に障害福祉サービス業を行っている場合にも、未進出エリアへ展開しやすくなるというメリットがあります。これにより、地理的な事業拡大を効率的に進めることができます。
障害福祉サービス業界におけるM&A成功のポイント
障害福祉サービス業界のM&Aは、一般的な企業のM&Aとは異なる特徴があります。ここでは、成功に導くための重要なポイントを紹介します。
業界ならではの手続きに注意する
障害福祉サービス業界では、一般社団法人やNPO法人も事業を行っているため、手続きの特徴について理解しておくことが大切です。
例えば、法人譲渡で株式会社を獲得する場合は、株式を売買譲渡で取得します。一方、一般社団法人・NPO法人等を獲得する場合は、売買取引ではなく理事の選任等を行い、理事の入替を行うことが必要です。
また、事業譲渡により事業を取得する際には、旧事業所の廃止と新事業所の指定申請手続き(新規申請)を同時に行わなければなりません。
スムーズかつ正確に手続きを進めるためにも、障害福祉サービス業界ならではの特徴や条件を、しっかり把握しておくことが重要です。
対価の設定に気を付ける
社会福祉法人の場合、法人外への対価性の無い支出は法的に制限されています。対価の設定はM&Aのスキームに依存するため、各スキームごとに注意点を確認する必要があります。
【合併の場合】
- ・社会福祉法人同士の合併しか認められていません
- ・持分の概念が無いため、対価の支払いは発生しませんが、合併後の資産・負債の適切な評価が重要です
【事業譲渡の場合】
- ・社会福祉法人でも、事業譲渡自体は実施可能です
- ・譲渡する際は、事業価値を適切に見積もり、それに見合った対価を設定することが肝要です
- ・適正な対価設定を行うことで、法人外への対価性の無い支出を防げます
その他、譲渡する理事等に対して退職金を支払う場合があります。この際にも、適切な対価を設定し、法的な問題が生じないように注意しましょう。
行政機関と連携する
障害福祉サービス業界のM&Aでは、行政機関と事前に連携しながら、各承認や手続き等を実施することが重要です。
特に、社会福祉法人を相手にM&Aを行う場合、民間の借入業務に関する手続きから所轄の行政機関への申請など、他業界のM&Aよりも実施項目が多くなる傾向です。
厚生労働省は、社会福祉法人の合併や事業譲渡等に関する実施ポイントや留意点を「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」にまとめています。
あらかじめ上記のガイドラインを読み込み、行政と連携しながら手続きを進めることで、スムーズなM&Aの進行が可能となり、買収後の安定的な経営にもつながります。
障害福祉サービス業界における今後のM&Aの課題と展望
障害福祉サービス業界は、今後も成長することが予測されています。身体障がい者や知的障がい者に加え、精神障がい者や発達障がい者の利用ケースも増えており、障害者施設の利用者数は継続して増加するでしょう。
ニーズが高まる一方で、障害福祉サービス業界では人材不足が大きな課題となっています。待遇面の不満や肉体的な負担の大きさ等を理由に退職者も多く、従業員の長期雇用が困難な状態です。
このような状況下で、近年では事業継続のためのM&Aも増えています。労働環境の整備と人材不足、需要の高まりへの対応に迫られるなか、M&Aは障害福祉サービス業界の課題を解決するための有効な手段の一つになり得ると考えられます。
M&Aを通じて経営資源を統合し、効率化を図ることで、サービスの質の向上と従業員の待遇改善を同時に実現できるでしょう。
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