ペット(ペット産業)業界のM&A動向 市場規模や買収・売却事例について解説

ペット(ペット産業)業界市場規模や買収・売却事例について解説のメインビジュアルイメージ

更新日

  • #業種別M&A動向
  • #ペット(ペット産業)業界 M&A

ペット業界は、年々市場規模が大きくなっている業界の1つです。コロナ禍を経ても拡大を続ける背景には、飼育頭数の減少を補う付加価値商品の需要増が挙げられます。一方、動物福祉や人材不足など、解決すべき問題も山積しているのが実情です。

当記事では、ペット業界の市場動向やM&A事例をもとに、業界の未来を考察します。M&A事例には異業種参入や技術ノウハウの継承など、多様なスキームが存在し、企業間のシナジーも重要視されます。ペット業界でM&Aを検討されている方は、最後までご覧ください。

ペット(ペット産業)業界の定義

ペット業界は「生体・サービス」「ペットフード」「ペット用品」の3つに分類されます。

「生体・サービス」とは、ペットの生体販売、ペット保険、ペットシッター、老犬ホームなどのサービスを行う分野です。「ペットフード」とは、その名の通りペットの食料を製造、販売を行う分野のことを指します。「ペット用品」とは、ペットシートや猫砂、シャンプーなど、食品以外のペット用品の製造、販売を行う分野となります。

ペット(ペット産業)業界の特色

ペット業界の特色

近年、ペット業界は既存のサービスに加え、旅行や外出でペットの世話ができない飼い主と預かり手をマッチングするサービスや、ペットシッター、老犬ホームなど、新しい事業が増えてきています。また、匂いの残らない技術を持ち合わせた企業が、猫砂やペットシャンプーのようなケア用品へ参入するケースも見られます。

これらのように、もともとペット専業ではない企業が、ペット業界に商機を見出して参入するケースが増加していることは、ペット業界の1つの特色です。「ペットは家族でありともに過ごす」という価値観が一般的になってきており、社会におけるペット業界の必要性はさらに高まると予想されます。

市場の規模

株式会社矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査を実施(2024年)」

※引用:株式会社矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査を実施(2024年)」

2024年に行われた株式会社矢野経済研究所の「ペットビジネスに関する調査」によると、ペット業界の総市場規模は2023年度で約1兆8,629億円です。前年度から4.5%拡大しました。2019年度から徐々に拡大傾向を見せており、2024年度以降も伸びると予測されています。

ここからは、3つの分類に分けてペット業界の市場規模を解説します。

生体+サービス

株式会社矢野経済研究所の「ペットビジネスに関する調査(2024年)」によると、生体+サービス分野の市場規模は、2023年度において約8,441億円です。

一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」によれば、2024年における犬の飼育頭数は減少傾向にあり、猫の飼育頭数はほぼ横ばいです。犬の新規飼育頭数はここ数年は微増減を繰り返し、猫の新規飼育頭数は減少が続いています。

その一方で、犬や猫の診療料金は値上がりするなど、ペットに関するサービスの単価が上昇しています。2023年における日本獣医師会の「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査」によれば、2015年と2021年の診療料金(中央値)を比較すると、初診料は1,386円から1,500円に、再診料は726円から750円に上がっています。

このことから、生体の販売数よりもペットに関連するサービスが市場の変動に影響していると言えるでしょう。

ペットフード

ペットの飼育頭数は横ばいから減少傾向にあるものの、ペットフードの市場規模は上昇を続けています。株式会社矢野経済研究所の「ペットビジネスに関する調査(2024年)」によると、2023年度のペットフードの市場規模は約6,920億円です。

ペットフードの市場規模が拡大傾向にあるのは、ペットの健康を意識する飼い主が増え、プレミアムフードが人気となっている点が一因として考えられます。また、ペットフードの値上げによる購入金額の上昇が市場の拡大を招いていると見られます。

ペット用品

株式会社矢野経済研究所の「ペットビジネスに関する調査(2024年)」によると、2023年度のペット用品の市場規模は約3,269億円です。ほかの分類と同様、ペット用品市場も拡大を続けています。

一般社団法人日本ペット用品工業会の「2022年度 ペット用品産業実態調査」においては、犬用品・猫用品ともにトイレタリーが大部分を占め、その次に衛生用品が多くなっています。

市場の動向

近年、ペット業界の市場は総じて拡大傾向にあります。ここからは、ペット業界の市場に影響を及ぼす要素とともに、市場の動向について解説します。

高付加価値ペットフードの需要増加

ペット業界の市場拡大の背景には、ペットに対する健康志向の高まりから、付加価値の高いペットフードの需要が増加している点が挙げられます。高付加価値ペットフードは、一般のフードと比較して基本的に高単価です。ペットの飼育頭数が減少している状況でも、ペットフードの価格自体が高まることで、市場拡大を誘引しているのでしょう。

主食だけでなく、おやつや栄養補助食品にもプレミアムタイプのフードが登場しており、購入額を伸ばす要因になったと考えられます。各社は高付加価値ペットフードの開発に力を入れており、「ペット用の柿の種」など、人間が食べるものと変わらない商品も登場しています。

ペット向け商品・サービスの拡大

ペット業界では既存の商品・サービスを細分化・多様化することで、飼い主のニーズに対応しています。たとえば、インテリアになじむ猫用の爪とぎや、ペットが食べやすい角度を追求した食器など、既存の商品をブラッシュアップしたアイテムの開発が進んでいます。ペットに特化した歯ブラシなど、ペットのケアアイテムも数多く展開され、市場の拡大を図っています。

また、消臭機能付きの床材など、ペットと人間が家族として快適に共存するためのアイテムも登場しており、今後の需要の高まりが期待できるでしょう。

ペット保険の加入増加

近年、ペット保険の加入件数は増加しています。オリックス生命や第一生命ホールディングスなど、大手生命保険会社もペット保険業界に参入しています。

JA共済総合研究所の「ペット保険の現況(後編) ―ペット飼育の現況とペット保険の契約実績等―」によれば、日本におけるペット保険の加入率は、2017年は9.1%でしたが、2022年には18.6%と飛躍的に上昇しました。保険契約件数は2017年から2022年の間に約148.8万件から295.6万件、収入保険料も581億円から1,098億円に増加しています。

欧米諸国に比べると日本の保険加入率はいまだ低いものの、今後もペット保険を取り巻く市場はブルーオーシャンとして拡大が期待できるでしょう。

ペットテックの急成長

ペットテックとは、ITを活用したペット向けのサービスです。近年、ペットテックが急速に普及し、市場が急成長しています。ペットテックが主に活用されているのは、ペットケア分野です。ペットテックはペットの行動パターンをモニターし、飼い主が異変を察知して病院に連れて行くなどペットの健康維持に役立てられています。

また、ペットテックは里親探しや譲渡会の開催にも利用できるため、捨てられた動物の保護に有効な手段として注目を集めています。

新興ビジネスの登場

ペット業界では、新興ビジネスによる市場拡大も盛んです。特に、飼い主とペットが一緒に楽しめるサービスが人気です。

たとえば、ペットが同行できるバスツアーやペット同伴で航空機に搭乗できるサービスなど、ペットと旅行を楽しみたい人の需要に応えるサービスが次々に登場しています。JR東日本でも、ペットをキャリーバッグやケージから出して電車に乗せる実験を行いました。

今後の課題

ペット業界は将来性が期待できる分野である一方、さまざまな課題も抱えています。ここからは、ペット業界が解決すべき今後の課題について説明します。

動物福祉

ペット業界は、犬や猫などさまざまな動物の生体を扱う分野です。生体を商品として扱う中で、動物が適切な福祉を受けられないことに、世間から厳しい目が向けられています。

たとえば、ペットをある程度安定して供給するには繁殖が必要です。繁殖の環境次第では、親となる個体は動物としての生存権を侵害されるケースもあります。ペットショップなどで売られる動物たちも、売れ残ると劣悪な環境での生活を強いられる可能性があります。

ペットショップでの生体販売は、人間とペットによい出会いを提供する場です。生体販売が決して悪いわけではありませんが、動物の命を扱う以上、福祉を考慮した販売や飼育のあり方を常に見直すことが求められるでしょう。

人材確保

ペット業界の市場拡大が進む一方で、市場拡大に見合った人材の確保が難しい点に課題があります。ペット業界は生体を扱うという特性上、高い専門知識やスキルが求められる仕事です。ただ動物を売るだけでなく、飼い主への飼育のアドバイスなども行う必要があり、要求に見合った人材を確保するのは簡単ではありません。

さらに、動物の生体を扱う仕事には、「きつい・汚い・危険」といった3Kのイメージを持つ人もいます。質の高い人材を十分に確保するには、福利厚生や労働環境の改善が必要になるでしょう。

品質維持

ペット業界は慢性的な人材不足に陥る中、サービスの品質維持にも課題を抱えています。たとえば、人が足りないためにペットショップの店内やケージの清掃が行き届かないことは、衛生上の問題というサービスの品質低下を招きます。

また、生体販売後に必要なアフターケアや接客がずさんになることも少なくありません。近年、動物福祉に対する関心が高まっており、ペット業界でのサービス品質低下が消費者の不安を招くこともあります。課題の解決には「コンプライアンスに適切に対応する」「従業員の教育を徹底する」などの対策が求められるでしょう。

ペット業界のM&A動向

ペット業界では、売上拡大などを目的にM&Aが行われるケースがあります。ここからは、ペット業界におけるM&Aの動向について解説します。

大手企業による中小企業の買収

ペット業界のM&Aとして主流なのは、大手企業が同業の中小企業を買収するパターンです。特にペット業界の場合、完全子会社化だけでなく、買収企業側が店舗を譲り受けるケースも多く見られます。

店舗を譲り受けると、事業エリアの拡大や自社にないノウハウの獲得を通し、競争力強化を図ることが可能です。

異業種による新規参入

ペット業界のM&Aの特徴は、異業種による新規参入が多い点です。ペット業界への参入が多い異業種としては、保険会社やスーパーなどの小売業者が挙げられます。

保険会社による買収の場合、ペットショップを代理店化することで自社の保険販売につなげられます。小売業では、自社の販売ノウハウをペットショップ業界で生かし、事業の拡大を狙うケースが多く見られます。このように、買収側と売却側の双方の強みを発揮できることは異業種同士のM&Aによるメリットの1つです。

ペット業界のM&A事例

ペット業界では、これまでさまざまな課題の解決に向けてM&Aが行われてきました。ここからは、実際のM&Aの事例を紹介しますので、M&Aを検討している場合は参考にしてください。

アース製薬株式会社によるジョンソントレーディング株式会社の子会社化

アース製薬株式会社は、2017年にペット用品製造販売・園芸用品製造を展開するジョンソントレーディング株式会社を子会社化しました。アース製薬株式会社は、それまでは家庭用殺虫剤・家庭用品の取り扱いのみで、ペット関連事業は行っていませんでした。

一方で、ジョンソントレーディング株式会社は、ペット用品分野と家庭用園芸用品分野の製造販売を行っています。M&Aにより、アース製薬株式会社ではペット用品と家庭用園芸用品分野の成長を図っています。

アニコムホールディングス株式会社による株式会社シムネットの子会社化

アニコムホールディングス株式会社は、2019年に株式会社シムネットを子会社化しました。アニコムホールディングス及びグループ子会社はペット保険を展開しており、遺伝子検査事業もスタートしています。

株式会社シムネットは、ペットに関するインターネットサービスの企画開発・運営を行っており、子会社ではブリーダーマッチングサイトの運営やペット保険の代理業などを行っています。特にマッチングサービスの分野において強みを発揮しているのが特徴です。このM&Aにより、アニコムホールディングス株式会社の事業拡大が図られました。

SBIインシュアランスグループ株式会社による日本アニマル倶楽部株式会社の子会社化

SBIインシュアランスグループ株式会社は、2020年に傘下のSBI少短保険ホールディングス株式会社を通じ、日本アニマル倶楽部株式会社を子会社化しました。

SBIインシュランスグループ株式会社では、インターネットを活用した非対面を中心にペット保険を販売していました。一方、日本アニマル倶楽部株式会社は、ペットショップなどリアルショップでの対面販売に強みを持っています。

両社は販売チャネルの面で補完関係にあり、SBIインシュランスグループは日本アニマル倶楽部株式会社とM&Aを成立させ、ネットとリアルを融合させた顧客アプローチの多様化を図りました。

株式会社リックコーポレーションによる株式会社ジョーカーの子会社化

株式会社リックコーポレーションでは、2015年に株式会社ジョーカーの株式を取得し、子会社化しました。株式会社リックコーポレーションはトリミング部門において高い専門性と収益性を持っており、株式会社ジョーカーでは関東を中心にペットの専門店を展開しています。

M&Aによって異なる分野に強みを持つお互いのノウハウを活用することで、業績や企業価値の向上を見込んでいます。

株式会社アミーゴによる株式会社グロップの事業譲受

株式会社アミーゴでは、2020年に株式会社グロップのペットショップ1店舗の譲渡を受けています。株式会社アミーゴはペットショップを経営しており、動物愛護の取り組みを強化したいと考えていました。

株式会社グロップでは、ペットショップ「chouchou」で里親探しを行っていました。需要にマッチしたノウハウを持つ店舗として、株式会社アミーゴは株式会社グロップから譲り受けています。

イオンペット株式会社による株式会社ニチイ学館の事業譲受

イオンペット株式会社は、2022年に株式会社ニチイ学館から一部事業を譲り受ける形でM&Aを成立させました。イオンペット株式会社では、グルーミングサロンや物販、動物病院を展開しています。株式会社ニチイ学館では、ペット事業としてグルーミングサロン「A-LOVE」を経営していました。

イオンペット株式会社は、事業譲受によって「A-LOVE」のグルーミングに関するノウハウを吸収し、グルーミングサロンのサービス向上を図っています。

株式会社アサヒペンによる株式会社ザ・ペットの子会社化

株式会社アサヒペンは、2022年に株式会社ザ・ペットを子会社化しました。株式会社アサヒペンは塗料の製造販売を主軸に事業を展開している企業です。中期ビジョンの中で2022年から10年後の連結売上高250億円達成を目標としており、そのために新規事業にも積極的に取り組む方針を立てました。

株式会社アサヒペンは新規事業としてペット業界に着目し、ペットフード・ペット用品販売のノウハウを持つザ・ペットを子会社として選んでいます。

ペット業界でM&Aを行う際の注意点

M&Aの効果を最大限に生かすには、次のような点に注意してM&Aを進めましょう。

売却側買収側双方の注意点

ペット業界のM&Aは他業種からの参入が多く、買収側と売却側で背景や企業文化が大きく異なります。また、特殊な知識や技能が求められるため、事業承継やノウハウの共有に時間かかる場合もあります。お互いの特徴や文化の違いを理解するほか、事業承継にかかる時間やシナジー効果を得られるまでの時期も考慮した上で、M&Aを検討するようにしましょう。

売却側の注意点

買収側の企業がペットを扱う企業として信頼に足るかどうかを見極める必要があります。コンプライアンス意識だけでなく、M&A後の展望を丁寧にヒアリングし、責任を持って事業を運営できるかを判断しましょう。また、M&Aによって企業の方針や従業員の就業環境が変化すると、従業員の離職を招く恐れがあります。M&A後の方針を明確に伝える場を持つなど、従業員の不安を和らげる対策を取る企業は信頼性が高いと言えます。

買収側の注意点

人材が慢性的に不足するペット業界では、後継者を確保できないと貴重な技術やノウハウが失われる可能性があります。M&Aで手に入れた技術やノウハウの保全も考慮に入れ、対応策を講じましょう。

まとめ

ペット業界のM&Aは今後も拡大が見込まれます。しかし、高付加価値商品や保険などのニーズが増す一方で、動物福祉や衛生管理、人材育成の課題も依然として残っています。
戦略的なM&Aはこれらの課題解決に大きく寄与し得る反面、企業統合後の対応次第では十分な成果を得られないリスクも存在します。こうした点を踏まえ、買収側も売却側も、事前の情報収集と社員・顧客への丁寧な説明が求められるでしょう。

M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
着手金・月額報酬・企業評価レポート作成がすべて無料、秘密厳守にてご対応しております。
以下より、お気軽にお問い合わせください。


よくある質問

  • ペット業界の市場規模はどれくらいですか?
  • 2023年度の市場規模は約1兆8,629億円です。
  • ペット業界の主要な課題は何ですか?
  • 動物福祉や人材不足、サービスの品質維持などが課題です。
  • ペット業界の市場動向は?
  • 高付加価値ペットフードの需要増加、ペット向け商品・サービスの拡大、ペット保険の加入増加、ペットテックの急成長などが見られます。

ご納得いただくまで費用はいただきません。
まずはお気軽にご相談ください。

監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

立教大学経済学部卒業後、2007年国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。2021年当社入社後は、広報責任者としてグループ広報業務全体を管掌。

一般社団法人金融財政事情研究会認定 M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者


M&A関連記事

M&Aへの疑問

M&Aへの疑問のイメージ

M&Aに関する疑問に市場統計や弊社実績情報から、分かりやすくお答えします。

業種別M&A動向

業種別M&A動向のイメージ

日本国内におけるM&Aの件数は近年増加傾向にあります。その背景には、企業を取り巻く環境の変化があります。

M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由

創業以来、報酬体系の算出に「株価レーマン方式」を採用しております。
また、譲渡企業・譲受企業のお客さまそれぞれから頂戴する報酬率(手数料率)は
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」となっております。