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日本の食文化と地域経済を支えてきた漁業業界は、近年、後継者不足や水産資源の減少といった深刻な課題に直面しています。こうしたなかで注目されているのが、M&Aという手段です。
本記事では、漁業業界のM&A動向や、M&A活用のメリット、具体的な事例、成功のポイントなどについて、詳しく解説します。
漁業業界の概要
漁業は、魚介類・海藻などの捕獲や養殖を行い、食文化と地域経済を支える一次産業です。水産業の一分野として、縄文時代から続く長い歴史を持ちながらも、近代では技術革新が進んでいます。
漁業業界の定義
漁業とは、営利目的で魚介類や海苔などの水産動植物の捕獲や養殖を行う産業です。海面や内水面(湖沼、河川など)で自然繁殖する水産動植物の採捕や、人工的な施設を活用した養殖はもちろん、それらに関わるサービス業務も漁業に該当します。
また、漁業は一次産業に位置づけられ、公共水域を利用して行うため、農業と比べて国の法規制や国際的なルール(例:200海里経済水域の設定)を強く受けるのが特徴です。
なお、水産業には漁業のほか、漁業以外にも卸売業や水産加工業、製塩業なども含まれます。
漁業業界の特色
漁業は、主に以下の3つに分類されます。
- 沿岸漁業
- 沖合漁業
- 遠洋漁業
それぞれの漁業の特色について見ていきましょう。
沿岸漁業
沿岸漁業とは、主に沿岸部や近海で行われる漁業を指します。定置網漁や地引き網漁業、釣り、採貝・採藻など、漁法が多岐に渡り、獲れる魚介類も多種多様です。経営主体は、個人または協同組合経営が大多数を占めています。
沖合漁業
沖合漁業は、漁港から2~3日で戻れる場所で行われる漁業です。自国の排他的経済水域内で行われるものを指して沖合漁業とすることもあります。巻き網漁が主流であり、アジやサバ、イワシ、イカなどが獲れるのが特徴です。
遠洋漁業
遠洋漁業とは、太平洋や大西洋、インド洋など、世界中の海で行われる漁業です。自国の排他的経済水域外で行うものを指すこともあります。代表的な漁法として、延縄漁業やカツオ一本釣り漁業が挙げられ、マグロやカツオなどが主な漁獲対象です。
漁業業界のM&A動向・市場規模
漁業産出額は、2019年から2020年にかけて一気に減少しました。主な要因としては、海洋環境の変化による漁獲量減少、およびコロナウイルスの流行による価格低下が挙げられます。
しかし、翌年2021年からは輸出需要の増加や、輸入水産物価格の高騰により価格が上昇し、回復傾向に転じています。2023年には16,577億円となりました。
生産量は、1984年に1,282万トンを記録した後に減少し、2023年には約383万トン、2024年には概算で363万トンとなっています。内訳は、海面漁業の漁獲量は278万7,100トン、海面養殖業の収獲量は80万1,200トン、河川や湖沼で行う内水面漁業・養殖業の生産量は4万6,502トンです。
日本の食用魚介類自給率は、年々低下しており、最新の2023年度では54%となっています。つまり、国内消費される魚介類のうち約半分は輸入品が占めている状況です。この背景には、国内生産量の減少や輸入量の増加、さらに消費量そのものの減少があります。
「魚食大国」と呼ばれてきた日本ですが、近年は国内水産資源の減少や食生活の変化により、国民が食べる魚介類の自給率が落ち込んでいるのが実情です。日本の漁業・養殖業は長期的な減少傾向が続いていますが、水産資源の持続的管理や養殖技術の高度化など、課題克服に向けた取り組みが進められています。
漁業でM&Aを活用するメリット
漁業業界では、資源管理の厳格化や後継者不足などの独自課題を抱えています。そのなかで、M&Aは以下のようなメリットがあり、持続可能な経営を目指すうえで有効な選択肢となっています。
業界独自のノウハウや漁場を迅速に獲得できる
漁業業界では、漁場アクセス権や漁協との関係、世代を超えた漁法・養殖技術などの無形資産が事業価値に影響します。M&Aを活用すれば、これらのノウハウや人的ネットワーク、設備をゼロから構築する必要がなく、短期間で獲得可能です。新規参入が難しい漁業分野において、早期の収益化やリスク軽減が期待できるでしょう。
販路拡大につながる
漁業業界の企業を買収すれば、買い手は相手企業が有する地元に根付いた販売網や顧客基盤を取り込むことが可能です。これを自社の物流・営業ネットワークと組み合わせることで、販路を大きく広げられます。
一方、売り手は大手企業の流通基盤を活用することで、売上拡大や収益力の安定化が見込めます。従業員や生産者との関係を維持しつつ、地域経済に貢献できる点も大きなメリットです。
サプライチェーンを一体化できる
飲食業や水産加工業などを展開する買い手が漁業会社を買収すれば、漁獲から加工・流通・販売までを自社で一貫して管理できます。これにより、原料調達の安定化や中間コストの削減、品質管理の徹底が可能となり、競争力の向上につながるでしょう。
さらに、「自社漁場で獲れた魚を使った商品」といった差別化施策も実現し、ブランド強化や新商品開発の基盤を築けます。
後継者問題を解決して事業継続が可能となる
漁業業界は、後継者難などの経営リスクが顕著です。
水産庁によると、日本の漁業就業者数は一貫して減少傾向にあり、令和2年には13万5,660人と、前年から6.3%減少しています。また、新規漁業就業者数も減少しており、令和2年は1,707人と2年連続で1,700人台となっているのが現状です。
M&Aによる事業承継を実施すれば、親族や従業員から後継者を見つけられない場合でも事業を存続でき、長年培った独自技術や地域ブランドを次世代に残せます。さらに、経営者の個人保証リスクからの解放、退職後の生活資金確保にも直結するため、「生活防衛」という側面からも大きなメリットがあるのです。
漁業のM&A事例
マルハニチロ株式会社と有限会社海晴丸
2024年11月、マルハニチロ株式会社は、有限会社海晴丸を株式取得によって子会社化しました。
有限会社海晴丸は、静岡県沼津市でマダイやブリの養殖事業を展開する企業です。日本最東端の養殖場を活かし、高水温などの環境変化の影響を受けにくい地域で操業しています。加えて、首都圏に近い立地を活かした鮮度の高い養殖魚の安定供給や、輸送距離短縮による温室効果ガスおよび物流コストの削減が期待されています。
この買収におけるマルハニチロ株式会社の狙いは、養殖事業の強化と持続可能な「食」の提供です。
株式会社アライアンスシーフーズとAGROBEST社
ヨコレイグループの水産商社・株式会社アライアンスシーフーズは、2017年7月、マレーシアの海老養殖大手AGROBEST社と包括業務提携契約を締結し、総額25億円規模の資金提供と販路拡大支援を実施しました。このM&Aは、ヨコレイグループ側の垂直統合型ビジネスモデル構築と、海老の安定調達を目的とした国際連携です。
AGROBEST社は約500池の養殖施設を保有し、年間5,000tの生産能力を持っています。将来的には30,000tへの増強を目指しており、養殖餌料用サプリメントの共同研究にも着手する予定です。
株式会社極洋とKOCAMAN社
2024年3月、株式会社極洋は、子会社のKyokuyo Europe B.V.を通じて、トルコの水産物買付・冷凍食品メーカーであるKOCAMAN社を孫会社化しました。手法としては、第三者割当増資および既存株主からの株式取得が用いられています。
KOCAMAN社は40年以上の歴史を持ち、エビやサケマスなどの冷凍食品を製造・輸出しています。この買収における極洋の狙いは、欧州市場での食品生産・販売事業を強化し、海外拠点の拡充による競争力と事業多角化を推進することです。
NTTグリーン&フード株式会社と海幸ゆきのや合同会社
2024年8月、NTTグリーン&フード株式会社は、関西電力株式会社から、海幸ゆきのや合同会社の全持分を取得し、完全子会社化しました。
静岡県磐田市に拠点を置く海幸ゆきのやは、環境負荷低減やSDGsに配慮した完全閉鎖循環式の陸上養殖で「幸えび」を生産している企業です。この買収により、NTTグリーン&フード株式会社は、国内最大級の養殖エビ事業者となりました。IoTやAIを活用したスマート養殖化とサステナブル・シーフードの提供をさらに強化していく方針です。
漁業におけるM&A成功のポイント・注意点
漁業業界でのM&Aを成功させるには、以下の点を踏まえて慎重に検討することが重要です。
漁業権・許認可の移転条件を確認する
漁業事業の価値は、漁業権などの許認可に左右されます。これらは、土地や建物のように自由に売買できるものではなく、地域漁協との信頼関係や行政の判断が不可欠です。
M&Aを検討する際は、漁業権の移転が可能かどうか、どのような条件が求められるのかを事前に確認しましょう。
地域コミュニティ・従業員との信頼関係を重視する
漁業は地域密着型産業であり、地元漁協や市場、熟練の漁師など、コミュニティとの協調が不可欠です。
M&Aによる経営体制変更は、従業員の不安や反発を生むことがあります。そのため、目的と方針を丁寧に説明し、現場スタッフの生活や働き方に配慮した調整が求められます。
地域関係者や従業員との合意形成が、円滑な承継の鍵となるでしょう。
過去数年分のデータを参照して事業価値評価を行う
漁業の事業価値を見極めるには、過去数年分の漁獲実績や漁法の記録を整理し、デューデリジェンスで精査することが欠かせません。
特に漁業は環境や気候変動に影響されやすいので、漁獲量は年ごとに大きく変動する可能性があります。そのため、単年の数値に依存せず、長期的な傾向や再現性を踏まえて評価することが肝心です。
こうした分析が、買い手・売り手双方が納得できる公正な価値算定につながります。
漁業における今後のM&Aの課題と展望
漁業業界では、サプライチェーンの統合や販路拡大、地域ブランドの承継など、M&Aによって大きな成長機会を得られます。持続可能性や地域社会との共生を重視しながら漁業の経営基盤を強化する手段として、M&Aは今後ますます活用されるでしょう。
一方で、事業価値を大きく左右する漁業権や許認可は自由に売買できず、地域漁協や行政との調整が不可欠です。また、漁獲量は環境や気候に左右されやすく、長期的なデータを踏まえた評価が欠かせません。
M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、中小M&Aガイドラインを遵守し、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
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よくある質問
- 漁業業界でM&Aが増えている理由は何ですか?
- 後継者不足や漁業資源の減少により、事業承継や基盤強化の手段としてM&Aが注目されています。
- 漁業業界のM&Aにはどのようなメリットがありますか?
- 漁場やノウハウの迅速な獲得、販路拡大、サプライチェーンの一体化、事業継続の実現などが挙げられます。
- 漁業のM&Aで特に注意すべき点は?
- 漁業権や許認可の承継要件、地域との関係性、漁獲データなど、業界特有のリスクに配慮が必要です。
- 漁業業界でM&Aが活用されやすいのはどのような場面ですか?
- 事業承継の必要がある中小企業や、販路・設備の拡張を目的とした成長戦略の場面で活用されています。
- 漁業のM&Aを成功させるためには何が必要ですか?
- 法制度や地域社会との調整を踏まえ、漁獲実績などの実データに基づいた慎重な事業評価が重要です。

