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タクシー業界は、近年のIT化や外国人観光客の増加により、大きな変革期を迎えており、M&Aの活用が注目されています。
ここでは、タクシー業界におけるM&Aの動向や市場規模、具体的な事例を紹介します。M&Aを成功させるためのポイントや今後の課題と展望についても見ていきましょう。
M&Aの前に押さえておきたいタクシー業界の情報
M&Aを検討する前に、業界の定義や特色、代表的な企業などの基本情報を押さえておく必要があります。
タクシー業界の定義
タクシー業とは、10人以下の旅客を自動車で輸送する事業です。2022年度末時点で、車両数規模10両までの事業者が全体の71.3%を占めており、中小・零細事業者が多いのが特徴です。現在はIT化が進み、業界全体の利便性が向上傾向にあります。例えば、スマートフォンアプリからの予約や、現金やクレジットカード以外の決済方法も利用できるようになりました。
代表的な企業
タクシー業界で代表的な企業は、以下のとおりです。
- ・大和自動車交通株式会社
- ・日本交通株式会社
- ・帝都自動車交通株式会社
- ・国際自動車株式会社
これらの企業は、長年の実績と信頼性で業界をリードしています。
タクシー業界の特色
タクシー業界全体の特徴として、労働集約型の産業であることが挙げられ、原価構成の70%を人件費が占めています。また、燃料油脂費が5%近くを占めるため、原油価格の変動により経営が左右されやすい傾向にあります。
タクシー業は大きく法人タクシー、個人タクシー、福祉タクシーの3つの種類に分けることができ、それぞれの特徴は下表のとおりです。
種類 | 概要 |
---|---|
法人タクシー | 法人が車両を用意し、タクシー運転手を雇用する営業形態 |
個人タクシー | 個人でタクシー事業の許可を得て開業する営業形態 |
福祉タクシー | 障がい者等の運送に業務の範囲を限定して許可を得る営業形態 |
近年では、Uber taxiなどの配車アプリとの連携や、コロナ禍の終息に伴い増加するインバウンド需要への対応として、外国語対応の需要が増加中です。特に、訪日外国人客を狙った「白タク」の横行が問題化しています。白タクとは、国土交通省の許可を得ていない自家用車(白ナンバー)で客を乗せ、運賃を受け取る違法なタクシー営業行為のことです。
正規のタクシー事業者は、白タクに外国人客を奪われる事態に直面しており、業界全体で白タクの取締・摘発の必要性が高まっています。このような課題に対応しつつ、サービスの質を向上させていくことが求められています。
タクシー業界のM&A動向・市場規模
タクシー業界は近年、厳しい経営環境に直面しています。2023年度の倒産件数は33件に達し、2011年度の36件に迫る勢いです。倒産の背景には、継続する燃料費の高騰や、2020年のコロナウイルスの流行による利用客の減少などによる業績悪化があります。
直近では需要が徐々に回復傾向にあるものの、ドライバーの高齢化や不足により経営が困難になっている企業も少なくありません。

参考:「タクシー業」の倒産動向
特に注目すべき点は、全産業の平均年齢が43.4歳であるのに対し、タクシー運転手の平均年齢は60.7歳となっており、高齢化が深刻化している現状です。この状況は、業界全体の持続可能性に大きな課題を投げかけています。

引用:統計からみるハイヤー・タクシー運転者の仕事 _ 自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト
タクシー業界のM&A事例
タクシー業界では、経営環境の変化に対応するため、さまざまなM&A事例が見られます。以下に、近年注目された代表的な事例をいくつかご紹介します。
飛鳥交通グループと日本交通株式会社
2022年3月、飛鳥交通グループと日本交通株式会社は、相互の営業所の譲渡譲受を行いました。具体的には、飛鳥交通多摩株式会社国立営業所を日本交通グループの日本交通立川株式会社へ、日本交通立川南多摩営業所を飛鳥交通多摩株式会社へと譲渡譲受しています。
飛鳥交通多摩の国立営業所は、2018年4月より日本交通立川と業務提携していました。この譲渡譲受は、両社間で営業する区域を整理し、より効率的な運営体制を築くことを目的としたものです。
因の島運輸株式会社とアサヒタクシー株式会社
2022年4月、因の島運輸株式会社は、島内および広島・福山・尾道との長距離バス路線と貸切バス事業を、アサヒタクシー株式会社が新設する子会社に譲渡しました。
この背景には、自家用車の普及や島内の過疎化、車両の老朽化、さらには新型コロナによる旅行客の減少により、事業継続が困難になったことがあります。一方、アサヒタクシーは既存のタクシー事業との融合を視野に入れて事業譲受に踏み切りました。
この事例は、地方の公共交通を維持しつつ、事業の効率化を図る取り組みとして注目されています。
三重名鉄タクシー株式会社と安全タクシーグループ
2022年6月、安全タクシーグループは、三重名鉄タクシー株式会社を子会社化しました。これにより、安全タクシーグループのタクシー保有台数は85台増えて160台となり、従業員も240人体制に拡充されました。
このM&Aの背景には、両社の営業エリアの人口規模が似ていたことや、連携による事業展開のイメージが明確だったことがあります。さらに、安全タクシーグループは九州外への展開も目指しており、その戦略の一環ともいえる子会社化といえます。
文化交通株式会社と大阪バス株式会社
2022年6月、中部日本放送株式会社は、連結子会社である文化交通株式会社の全株式を、大阪バス株式会社に譲渡することを決定しました。この決定は、タクシー事業の拡大に実績のある大阪バスから、経営譲受を持ちかけたことがきっかけとなっています。
文化交通側は経営強化や従業員の雇用安定化、さらには今後の事業拡大について慎重に検討を重ねた結果、全株式を譲渡し、文化交通を大阪バスの経営に委ねることとなりました。この事例は、中部日本放送がグループ内のタクシー事業を、専門性の高い企業に譲渡することで、経営資源の最適化を図ったケースです。
第一交通産業株式会社と苫小牧観光ハイヤー株式会社
2022年7月、第一交通産業株式会社の連結子会社である第一交通サービス株式会社は、苫小牧観光ハイヤー株式会社の発行済み株式のすべてを取得しました。第一交通産業はハイヤー・タクシー事業を行なっている企業で、第一交通サービスも同じくタクシー事業を展開しています。
このM&Aにより、グループ全体の保有台数を8,127台に拡充し、ユーザーの需要により適切に応えられる環境の構築を目指すとしています。この事例は、大手企業による地方企業の買収を通じた事業拡大の典型的なケースです。
つばめタクシー株式会社と長電タクシー株式会社
2023年6月、つばめタクシー株式会社と長電タクシー株式会社は経営統合を実施しました。両社共に長野市内においてタクシー事業を展開していましたが、新型コロナウイルスの流行と燃料費の高騰で経営状況が悪化していました。
この経営統合により、配車の効率化や経費削減を図り、経営基盤を整備していくとしています。地方都市における同業者同士の統合事例として、今後の展開が注目されています。
タクシー業界でM&Aを活用するメリット
タクシー業界M&Aを活用する主なメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
- ・増車が可能になる
- ・人手不足を解消できる
- ・事業の継続が可能になる
順番に見ていきましょう。
増車が可能になる
タクシー業界でM&Aを行う大きなメリットの一つに、増車できることが挙げられます。タクシー業では業界の安定を図るために規制が設けられており、各社の都合と自主的な判断による保有台数の増加は認められません。
そこで、既存のタクシー会社とM&Aを実施すれば、相手企業の有する許認可を引き継ぐことができ、自社のタクシー台数の増車が可能です。M&A後に自社の資本として活用し経営の強化を図るためには、相手企業が何台タクシーを保有しているのか、また手入れは行き届いているか、エンジンやブレーキの動作に問題は無いかなどをあらかじめ確認しておくことが重要です。
人材不足を解消できる
タクシー事業の運転手の有効求人倍率は全産業平均と比較して3倍近く高く、人材不足が深刻化しています。特に現在直面している課題としては「2024年問題」があり、時間外労働の上限規制や割増賃金の適用が業績に与える影響も少なくありません。
そこで、M&Aを実施すれば、相手企業の人材を自社に取り込めるため、即戦力となるドライバーの確保が可能です。早期にユーザーの需要に応える環境を整備することで、収益性の向上も見込めます。
事業の継続が可能になる
タクシー業界では、燃料費を始めとする物価高や市場競争の激しさから、業績が悪化している企業も少なくありません。特に、中小零細企業はタクシー事業で生き残りが厳しく、廃業が増加している状況にあります。
M&Aを実施して大手企業の傘下に入れば、相手企業のブランド力や経営資源を活用しながら事業継続が可能となります。これにより、従業員の雇用の確保や地域の重要な交通手段としての企業価値を維持できるでしょう。M&Aは、タクシー業界において事業の継続性を高め、地域社会への貢献を持続させる有効な手段です。
タクシー業界におけるM&A成功のポイント
タクシー業界でM&Aを成功させるためには、相手企業に関する綿密なリサーチが不可欠です。確認しておきたい主なポイントとしては、以下が挙げられます。
- ・タクシーの保有台数
- ・ドライバーの数と運転技術
- ・配車拠点の数と所在地
- ・タクシー車両の管理状況
特に、タクシー台数とドライバー数、配車拠点の多さは収益に直結するため、確認する必要があります。また、近年ではキャッシュレス決済やアプリを通じた予約サービスへのニーズも高まっているため、各種決済方法や予約・配車アプリへの対応もチェックしておくことが重要です。
タクシー業界のM&A相場には特徴があり、対象企業の保有台数が株式価格において重要な指標となります。買収する場合も売却する場合も、業界全体としての相場価格を把握したうえで、適正な価格で取引が行われているかを確認することが大切です。
タクシー業界における今後のM&Aの課題と展望
タクシー業界は、需要の低下やドライバー不足により、単独での事業拡大が困難です。そのため、地域の主要タクシー会社が小規模事業者を買収するケースや、経営統合するケースが増えています。
さらに、配車アプリ開発会社などDXを推進する企業との業務提携や、各種レジャー施設やテーマパークと連携した定期配車など、異業種との連携による差別化の創出も、タクシー業界で生き残るためには重要な要素となっています。
激化するタクシー業界で事業を継続するためにも、今後もM&Aは増加していく見込みです。企業は自社の強みを活かしつつ、新たな価値創造につながるM&Aを積極的に検討する必要があるでしょう。同時に、利用者ニーズの変化や技術革新にも柔軟に対応し、持続可能な事業モデルを構築していくことが重要です。
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