タクシー業界のM&A動向 運転手不足と燃料費高騰を背景に進む再編と主要M&A事例を解説

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タクシー業界のM&A動向について

タクシー業界は、利用者の移動を支える社会インフラとして重要な役割を担ってきましたが、長期的な需要縮小や自家用車の普及、人口減少の影響に加え、近年は新型コロナウイルス禍による営業収入の急減や燃料費高騰など、厳しい経営環境にさらされています。その一方で、需要は徐々に回復しつつあり、配車アプリの普及やキャッシュレス決済の浸透、インバウンド需要への対応など、ビジネスモデルの転換も求められています。さらに、法人タクシーの運転者数の減少と平均年齢60歳超という高齢化、長時間労働などを背景に、運転手不足が深刻化している状況です。こうした課題を踏まえ、経営基盤の強化や供給力の確保、地域交通の維持を目的とするM&Aが注目されています。

本記事では、「M&Aとは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、タクシー業界の特徴から市場の動向、M&Aを活用するメリット、M&A事例、M&Aを成功させるためのポイントなどを紹介します。

タクシー業界の概要

タクシー業界は、中小・零細事業者が大多数を占めます。M&Aを見ていく前に、まずは業界の特徴について理解しておくことが重要です。

ここでは、タクシー業界の定義と特色について解説します。

タクシー業界の定義

タクシー業とは、10人以下の旅客を自動車で輸送する事業です。2022年度末時点で、車両数規模10両までの事業者が全体の71.5%を占めており、中小・零細事業者が多いのが特徴です。現在はIT化が進み、業界全体の利便性が向上傾向にあります。例えば、スマートフォンアプリからの予約や、現金やクレジットカード以外の決済方法も利用できるようになりました。

タクシー業界の特色

タクシー業界全体の特徴として、労働集約型の産業であることが挙げられ、営業費用の70%以上を人件費が占めています。また、燃料費が約6%を占めるため、原油価格の変動により経営が左右されやすい傾向にあります。

タクシー業は大きく法人タクシー、個人タクシー、福祉タクシーの3つの種類に分けることができ、それぞれの特徴は下表のとおりです。

種類 概要
法人タクシー 法人が車両を用意し、タクシー運転手を雇用する営業形態
個人タクシー 個人でタクシー事業の許可を得て開業する営業形態
福祉タクシー 障がい者等の運送に業務の範囲を限定して許可を得る営業形態

近年では、Uber taxiなどの配車アプリとの連携や、コロナ禍の終息に伴い増加するインバウンド需要への対応として、外国語対応の需要が増加中です。特に、訪日外国人客を狙った「白タク」の横行が問題化しています。白タクとは、国土交通省の許可を得ていない自家用車(白ナンバー)で客を乗せ、運賃を受け取る違法なタクシー営業行為のことです。

正規のタクシー事業者は、白タクに外国人客を奪われる事態に直面しており、業界全体で白タクの取締・摘発の必要性が高まっています。このような課題に対応しつつ、サービスの質を向上させていくことが求められています。

タクシー業界の現状とM&A動向

タクシー業界は需要の回復を見せる一方で、運転者不足と高齢化が深刻な課題です。さらに燃料費高騰なども背景となり、事業基盤を強化するためのM&Aが増えてきました。

タクシー業界の現状

ここでは、需要と人材の観点からタクシー業界の現状と市場動向について見ていきましょう。

需要は一時落ち込んだものの、徐々に回復傾向

タクシー業界は、自家用車の普及や鉄道・バスなど都市交通の整備、人口減少の影響を受け、需要が長期的な縮小傾向にありました。営業収入は令和2年に新型コロナウイルス禍で大幅に減少しましたが、その後は徐々に回復軌道に乗り、令和5年度には1兆3,900億円となっています。

タクシー輸送人員と営業収入
画像出典:Taxi_Today_2025

車両台数の推移を見ると、規制緩和以降は供給過剰が進行し、多くの地域で需要に対して車両数が上回っている現状です。特に「法人タクシー」は平成22年度の222,522台をピークに減少し、令和5年度には168,836台まで縮小しています。

一方で「個人タクシー」も同様に減少しており、全体としてタクシー供給量の適正化が進んでいることがわかります。

運転手不足と高齢化が課題

タクシー業界が抱える大きな課題の一つが、運転者不足と高齢化です。法人タクシーの運転者数は長期的に減少を続け、令和5年度は217,161人まで落ち込んでいます。平均年齢は60.2歳と高く、若手の参入が進まないなかで退職が増える構造となっており、安定したサービス提供に影響が出ている状況です。

運転者数の推移(法人)
画像出典:Taxi_Today_2025

また、多くの企業で労働環境の改善も求められています。月間労働時間は令和6年6月時点で191時間と、他産業(175時間)より依然として高い水準です。

長時間労働や収入の不安定さは新規人材の確保を阻む要因となっています。国交省が示す「働き方改革アクションプラン」でも、労働時間の適正化や処遇改善を最重点課題として掲げています。

タクシー業界のM&Aの現状・動向

タクシー業界では、運転手不足の深刻化や燃料費高騰などを背景に、事業基盤を強化するためのM&Aが増えてきました。

特に近年の事例では、営業所の相互譲渡や、地方交通を維持するためのタクシーとバス事業の統合、同一エリア内での経営統合による効率化などが見られます。これは、地域の交通インフラを維持しながら経営効率を高めることが目的です。

さらに、保有台数を一気に増やすことで供給力を強化したい大手による買収も多く見られ、ドライバー確保と配車力の向上を図る動きがあります。全体として、供給力の確保・経営体力の補強・地域交通の維持を目的に、今後もM&Aは重要な選択肢となる見込みです。

タクシー業界でM&Aを活用するメリット

タクシー業界M&Aを活用する主なメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

順番に見ていきましょう。

増車が可能になる

タクシー業界でM&Aを行う大きなメリットの一つに、増車できることが挙げられます。タクシー業では業界の安定を図るために規制が設けられており、各社の都合と自主的な判断による保有台数の増加は認められません。

そこで、既存のタクシー会社とM&Aを実施すれば、相手企業の有する許認可を引き継ぐことができ、自社のタクシー台数の増車が可能です。M&A後に自社の資本として活用し経営の強化を図るためには、相手企業が何台タクシーを保有しているのか、また手入れは行き届いているか、エンジンやブレーキの動作に問題は無いかなどをあらかじめ確認しておくことが重要です。

人材不足を解消できる

タクシー事業の運転手の有効求人倍率は全産業平均と比較して3倍近く高く、人材不足が深刻化しています。特に現在直面している課題としては「2024年問題」があり、時間外労働の上限規制や割増賃金の適用が業績に与える影響も少なくありません。

そこで、M&Aを実施すれば、相手企業の人材を自社に取り込めるため、即戦力となるドライバーの確保が可能です。早期にユーザーの需要に応える環境を整備することで、収益性の向上も見込めます。

事業の継続が可能になる

タクシー業界では、燃料費を始めとする物価高や市場競争の激しさから、業績が悪化している企業も少なくありません。特に、中小零細企業はタクシー事業で生き残りが厳しく、廃業が増加している状況にあります。

M&Aを実施して大手企業の傘下に入れば、相手企業のブランド力や経営資源を活用しながら事業継続が可能となります。これにより、従業員の雇用の確保や地域の重要な交通手段としての企業価値を維持できるでしょう。M&Aは、タクシー業界において事業の継続性を高め、地域社会への貢献を持続させる有効な手段です。

タクシー業界のM&A事例

タクシー業界では、さまざまな背景や目的を持つM&Aが実施されています。

ここでは実例を通じて、具体的な課題解決と成長戦略を見ていきましょう。

飛鳥交通グループと日本交通株式会社

2022年3月、飛鳥交通グループと日本交通株式会社は、相互の営業所の譲渡譲受を行いました。具体的には、飛鳥交通多摩株式会社国立営業所を日本交通グループの日本交通立川株式会社へ、日本交通立川南多摩営業所を飛鳥交通多摩株式会社へと譲渡譲受しています。
飛鳥交通多摩の国立営業所は、2018年4月より日本交通立川と業務提携していました。この譲渡譲受は、両社間で営業する区域を整理し、より効率的な運営体制を築くことを目的としたものです。

因の島運輸株式会社とアサヒタクシー株式会社

2022年4月、因の島運輸株式会社は、島内および広島・福山・尾道との長距離バス路線と貸切バス事業を、アサヒタクシー株式会社(以下、アサヒタクシー)が新設する子会社に譲渡しました。
この背景には、自家用車の普及や島内の過疎化、車両の老朽化、さらには新型コロナによる旅行客の減少により、事業継続が困難になったことがあります。一方、アサヒタクシーは既存のタクシー事業との融合を視野に入れて事業譲受に踏み切りました。
この事例は、地方の公共交通を維持しつつ、事業の効率化を図る取り組みとして注目されています。

三重名鉄タクシー株式会社と安全タクシーグループ

2022年6月、安全タクシーグループは、三重名鉄タクシー株式会社を子会社化しました。これにより、安全タクシーグループのタクシー保有台数は85台増えて160台となり、従業員も240人体制に拡充されました。
このM&Aの背景には、両社の営業エリアの人口規模が似ていたことや、連携による事業展開のイメージが明確だったことがあります。さらに、安全タクシーグループは九州外への展開も目指しており、その戦略の一環ともいえる子会社化といえます。

文化交通株式会社と大阪バス株式会社

2022年6月、中部日本放送株式会社は、連結子会社である文化交通株式会社(以下、文化交通)の全株式を、大阪バス株式会社(以下、大阪バス)に譲渡することを決定しました。この決定は、タクシー事業の拡大に実績のある大阪バスから、経営譲受を持ちかけたことがきっかけとなっています。
文化交通側は経営強化や従業員の雇用安定化、さらには今後の事業拡大について慎重に検討を重ねた結果、全株式を譲渡し、文化交通を大阪バスの経営に委ねることとなりました。この事例は、中部日本放送がグループ内のタクシー事業を、専門性の高い企業に譲渡することで、経営資源の最適化を図ったケースです。

第一交通産業株式会社と苫小牧観光ハイヤー株式会社

2022年7月、第一交通産業株式会社(以下、第一交通産業)の連結子会社である第一交通サービス株式会社(以下、第一交通サービス)は、苫小牧観光ハイヤー株式会社の発行済み株式のすべてを取得しました。第一交通産業はハイヤー・タクシー事業を行なっている企業で、第一交通サービスも同じくタクシー事業を展開しています。
このM&Aにより、グループ全体の保有台数を8,127台に拡充し、ユーザーの需要により適切に応えられる環境の構築を目指すとしています。この事例は、大手企業による地方企業の買収を通じた事業拡大の典型的なケースです。

つばめタクシー株式会社と長電タクシー株式会社

2023年6月、つばめタクシー株式会社と長電タクシー株式会社は経営統合を実施しました。両社共に長野市内においてタクシー事業を展開していましたが、新型コロナウイルスの流行と燃料費の高騰で経営状況が悪化していました。
この経営統合により、配車の効率化や経費削減を図り、経営基盤を整備していくとしています。地方都市における同業者同士の統合事例として、今後の展開が注目されています。

日本交通株式会社と大バス太平タクシー株式会社、大バス米運タクシー株式会社

日本交通株式会社は、大阪バスグループの大バス太平タクシー株式会社と大バス米運タクシー株式会社の全発行済株式を、2025年3月31日付で取得しました。取得した2社は、日本交通の関西エリア子会社である日本交通グループ関西として運営が引き継がれています。

このM&Aにより、日本交通グループ関西は大阪府・兵庫県エリアで合計1,679台の体制となり、大幅に規模が拡大しました。今後は供給力の拡充を通じて、お客様満足度の向上と快適な移動空間の提供に努め、各社の企業風土を融合させることで、安全・安心で信頼されるモビリティサービスの実現を目指しています。

タクシー業界におけるM&A成功のポイント・注意点

タクシー業界でのM&A成功するためのポイントは以下のとおりです。

事前に経営実態をリサーチする

タクシー会社の買収では、事前に相手企業の実態を細かく把握しておくことが重要です。主にチェックすべき項目は、保有タクシー台数、ドライバーの人数・年齢構成・運転技術、配車拠点の数と所在地、車両の管理・整備状況などが挙げられます。

これらは買収後の運行効率や収益性に直結するため、丁寧な確認が欠かせません。また、近年はキャッシュレス決済やアプリ配車への対応が利用者満足度に影響するため、システム面での対応状況もチェックポイントとなります。

管理・運営体制の統合を丁寧に行う

買収後は、両社の体制をどのように統合するかが成否を左右します。特にタクシー業界では、日常業務に直結する部分の調整が重要です。例えば、配車システムの統一、営業エリアや拠点配置の整理、ドライバーの教育方針や接客品質の標準化などが挙げられます。

また、保有台数の最適化や、どの車両を優先的に稼働させるかといった運用計画も、早い段階で決めておきましょう。こうした統合作業がスムーズに行われることで、利用者へのサービス低下を防ぎつつ、収益改善につなげられます。

業界ならではのM&A相場について理解する

タクシー業界のM&Aでは、保有車両台数が企業価値の重要な指標となります。台数がそのまま供給力や売上規模に直結するため、他業界と比べても車両台数の影響が大きい点が特徴です。

そのため、買収側・売却側の双方が、同規模の取引事例や地域の相場感を把握し、適正な価格で取引が進められているかを丁寧に確認しましょう。台数・ドライバー数・拠点数といった評価軸を理解したうえで交渉に臨むことで、納得度の高いM&Aにつながります。

タクシー業界における今後のM&Aの課題と展望

タクシー業界は、需要の低下やドライバー不足により、単独での事業拡大が困難です。そのため、地域の主要タクシー会社が小規模事業者を買収するケースや、経営統合するケースが増えています。

さらに、配車アプリ開発会社などDXを推進する企業との業務提携や、各種レジャー施設やテーマパークと連携した定期配車など、異業種との連携による差別化の創出も、タクシー業界で生き残るためには重要な要素となっています。

激化するタクシー業界で事業を継続するためにも、今後もM&Aは増加していく見込みです。企業は自社の強みを活かしつつ、新たな価値創造につながるM&Aを積極的に検討する必要があるでしょう。同時に、利用者ニーズの変化や技術革新にも柔軟に対応し、持続可能な事業モデルを構築していくことが重要です。

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よくある質問

  • タクシー業界はどのような役割を担う業界ですか?
  • タクシー業界は、利用者の移動を支える社会インフラを担う業界であり、都市部から地方まで地域の足としての役割を果たしています。規制と自由化のバランスが重要で、事業者には多様な形態と責任が求められます。
  • タクシー業とはどのように定義されますか?
  • タクシー業とは、10人以下の旅客を自動車で輸送する事業を指します。2022年度末時点では、車両数10両までの事業者が全体の71.5%を占めており、中小・零細事業者が多いのが特徴です。
  • タクシー業界の需要はどのように推移していますか?
  • 自家用車の普及や都市交通の整備、人口減少などにより長期的には需要縮小傾向にありましたが、令和2年のコロナ禍で営業収入が大きく落ち込んだ後、徐々に回復し、令和5年度には1兆3,900億円まで戻っています。
  • タクシー業界が直面している主な課題は何ですか?
  • 法人タクシーの運転者数の減少と平均年齢60.2歳という高齢化、月間労働時間が他産業より長い労働環境、燃料費の高騰、白タクの横行による需要の流出などが大きな課題です。
  • なぜタクシー業界でM&Aが増えているのですか?
  • 運転手不足や燃料費高騰で単独の事業運営が難しくなる中、営業所の相互譲渡や経営統合、地方交通維持を目的としたバス事業との統合などを通じて、供給力の確保や経営効率化、事業継続を図るためにM&Aが活用されているためです。
  • タクシー業界でM&Aを行う主なメリットは何ですか?
  • 既存のタクシー会社を買収することで、保有台数や許認可を引き継ぎ増車が可能になるほか、即戦力となるドライバーを確保でき、人手不足解消や供給力強化につながります。また、大手傘下に入ることでブランド力や経営資源を活用しながら事業継続がしやすくなります。
  • タクシー業界のM&Aを成功させるためのポイントは何ですか?
  • 保有台数やドライバー数・年齢構成、配車拠点や車両の整備状況などの経営実態を事前にリサーチすることに加え、買収後の配車システム統一やエリア・拠点整理、運営体制の統合方針を明確にし、業界特有のM&A相場や評価軸(台数・ドライバー数・拠点数)を理解したうえで交渉することが重要です。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

2007年、立教大学経済学部経営学科卒業後、国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。

一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者



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