医療法人・病院業界のM&A動向 診療報酬抑制と人材不足が進める統合・再編と主要事例を解説

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医療法人・病院業界のM&A動向について

医療法人・病院業界では、高齢化による医療需要が増加していますが、その一方で経営環境は大きく悪化しています。診療報酬のマイナス改定が続くなか、新型コロナウイルスの補助金によって一時的に持ち直した経常利益率も、補助金の縮小により2023年度には大きく低下しました。

さらに、人材不足や運営コストの上昇も重なり、経営基盤の強化や地域医療の維持を目的とした企業再編が活発になっています。

本記事では、「M&Aとは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、医療法人・病院業界の現状、M&Aの特徴、具体的な事例、成功のポイントなどを詳しく紹介します。

医療法人・病院業界の概要

医療法人・病院業界に属する医療機関は、法律上の区分や機能、役割などによって分類され、それぞれが異なる特徴を持ちます。

はじめに、この業界の定義と特徴を見ていきましょう。

医療法人・病院業界の定義

医療業とは、医師や歯科医師等が患者に対して医療行為を行う事業所、およびこれに直接関連するサービスを提供する事業のことを指します。主に病院、一般診療所、歯科診療所、助産・看護業などに分類されるのが特徴です。

医療法(第一章 総則 第一条の五)では、「病院」と「診療所(医院・クリニックなどとも)」の区別について、入院させることができる患者の数で定めています。20人以上受け入れ可能な入院施設を備えている医療機関であれば「病院」、19人以下しか受け入れられない場合は「診療所」です。

受け入れ可能な患者数 区分
20人以上 病院
19人以下 診療所

医療法人・病院業界の特色

病院や診療所の組織は、医療部門と事務部門に大別できます。医療部門には、医師をはじめとして、看護師・理学療法士・薬剤師・放射線技師など、専門的な職種が含まれます。一方の事務部門には、経営企画・人事・経理などの職種が設置されているのが一般的です。

病院の収入は、患者が会計窓口で支払う自己負担金と、保険者から支払われる診療報酬の2つに分類できます。診療報酬は全国一律の価格で定められており、診療報酬点数表を用いて1点=10円で計算されることが原則です。

診療報酬の内訳をさらに見ると、「基本診療料」と「特掲(とっけい)診療料」から成り立っています。基本診療料は、初診料・再診料・入院料など基本的な診療行為や検査、入院サービスの費用を指し、診療の際に必ず発生する料金です。特掲診療料は、検査・投薬・処置・往診など、基本診療料以外の診療行為にかかる費用を指します。

医療法人・病院業界の現状とM&A動向

ここでは、医療法人・病院業界の現状とM&A動向について見ていきましょう。

医療法人・病院業界の現状

医療法人・病院業界は、人口減少と高齢化の進行により医療需要そのものは底堅く推移していますが、一方で経営環境は厳しさを増しています。診療報酬のマイナス改定が続く中、コロナ禍で補助金により一時的に改善した経常利益率は、補助金縮小に伴って2023年度に大きく低下しました。

事業利益率の推移(コロナ補助金影響を除く)
画像出典:医療機関を取り巻く状況について

補助金を除いた利益率では一般病院が赤字となるなど、収益基盤の脆弱さが浮き彫りとなっています。また、医療の高度化に伴って現場のマンパワー需要はむしろ増加しており、従業者数は年々上昇しているものの、人材確保難は依然として続いている状況です。

医療法人・病院業界のM&A動向

医療法人のM&Aを行う際は、業界特有の制約や組織構造について理解することが重要です。ここでは、この業界におけるM&Aの特徴として、以下の3点を紹介します。

医療法人と株式会社の組織構造の違い

医療法人は非営利性を前提とした特殊法人であり、営利を目的とする株式会社とは仕組みが異なります。

最大の違いは、医療法によって組織運営が細かく規定されている点です。例えば理事長は医師または歯科医師に限られ、議決権を持つ理事の選任にも一定の制約があります。

また、株式会社のように「株式=所有権」が明確に結びつく構造ではなく、財産権と法人運営は必ずしも一致しません。さらに、事業の承継・再編には行政(都道府県)からの認可が不可欠で、承認手続きが伴う点も特徴です。

こうした制度上の制約から、医療法人のM&Aは一般企業とは異なるプロセスや配慮が必要となります。

医療法人・病院業界で採られるM&Aの手法

医療法人は「持分あり」と「持分なし」で財産権の扱いが大きく異なり、選べる事業承継スキームも変わります。

持分あり法人では出資者に財産権が認められます。そのため、M&Aの手法は、持分移転(相続・贈与・譲渡)による親族内承継や、払戻し+再出資、認定医療法人制度の活用などさまざまです。

一方、持分なし法人では財産権が存在しないため、退職金を活用した承継、または事業譲渡・合併が主な手法となります。医療法人は営利法人と異なり法人格そのものの売買ができず、理事長要件や行政認可も必要となることが大きな特徴です。

こうした持分の有無による制約を踏まえて、適切な手法を選ぶことがM&A成功の鍵となります。

医療法人・病院業界のM&Aの現状・動向

医療法人・病院業界では、M&Aを活用した統合・再編の動きが見られます。

その背景には、医師不足や人件費の高騰、診療報酬改定の影響などにより経営基盤の弱い法人が増えたことなどが挙げられます。コロナ禍で一時的に改善した収益も、補助金縮小に伴い再び悪化しており、補助金を除くと赤字という一般病院も少なくありません。

地域医療を維持するために大手医療法人やグループが小規模病院を吸収するケースも多く、事業継続の手段としてM&Aが活用されていることが伺えます。

医療法人・病院業界でM&Aを活用するメリット

病院業界でM&Aを活用することにより、さまざまなメリットが得られます。ここでは、人材確保、開業手続きの簡略化、病床数の拡大という3つの観点から、それらの強みを解説します。

それぞれ見ていきましょう。

医師や看護師をそのまま引き継げるため、人材不足解消に役立つ

M&Aを利用することで、売り手側の医療法人に所属する人材を引き継ぐことができます。実務経験豊富な医師や看護師、事務関係のスタッフの入職が期待できるなど、人材不足解消に役立つでしょう。

また、後継者についても、既存の人材から選ぶよりも、外部からふさわしい人材を招聘(しょうへい)できる可能性があります。

開業の手間が省け、新規参入がしやすくなる

医療法人や病院を新設する際は、国や自治体によるさまざまな規制があり、認可も必要です。M&Aによって医療法人や病院を買収することで、開業の許認可を得るプロセスの手間などを省略できます。これにより、スムーズに新規参入や事業拡大につなげやすくなります。

病床数の問題をクリアできる

M&Aを行い、医療法人の事業規模を拡大することによって、病床の増加が難しい地域でも病床数を増やすことができます。

病床数は各自治体の医療計画に基づいて決められており、上限に達している地域では、自力での病床規模の拡大が難しい状況にあります。既に開院している病院を買収することで、こうした規制を回避し、病床数を増やすことが可能です。

医療法人・病院業界のM&A事例

ここまで、医療法人・病院業界のM&Aの特徴や現状について解説しました。では、実際どのようにM&Aが行われているのでしょうか。

ここでは、医療法人・病院業界のM&Aをいくつか紹介します。

株式会社CHCPホスピタルパートナーズと医療法人平和会、平和病院

ヘルスケア分野での経営支援を行う、地域ヘルスケア連携基盤(以下、CHCP)は2020年7月、グループ会社の株式会社CHCPホスピタルパートナーズを通じ、医療法人平和会(以下平和会)と平和病院を買収しました。
CHCP、平和会、および平和会の経営支援を行う医療法人北斗会の三者は、地域に根ざした医療提供体制の構築を目指しています。CHCPグループは、ヘルスケア分野で幅広いサービスを提供しており、経営の効率化を進める取り組みの一環として、M&Aも行っています。

医療法人社団博洋会と医療法人社団竜山会

医療法人社団博洋会(以下、博洋会)は2021年6月、石川県金沢市で運営する藤井病院について、同市で病院運営を行う医療法人社団竜山会と事業譲渡契約を締結しました。
藤井病院が提供してきた医療機能を引継ぎ、脳神経外科を中心とした医療・介護サービスを提供し、サービスの拡充や地域医療・介護への貢献を目指します。
博洋会は診療報酬の不正請求により、保険医療機関の指定取消処分を受けており、病院運営の引継ぎ先を探していた背景もあります。

株式会社東芝と医療法人社団緑野会

株式会社東芝(以下、東芝)は、カマチグループ所属の医療法人社団緑野会へ、東芝病院の譲渡を行いました。本件譲渡価額は約275億円です。
カマチグループは1974年に設立された医療法人で、24時間365日体制のER救急センターなどの運営に尽力していました。運営施設は当時で病院26施設、診療所12施設、専門学校7校を数えます。
東芝は1945年創設の東芝病院を運営していましたが、東芝病院と東芝自体の経営不調により、譲渡する運びとなりました。

NTT東日本と東北医科薬科大学

2016年9月、NTT東日本は東北医科薬科大学へ、NTT東日本東北病院の事業譲渡を実施しました。NTT東日本東北病院は1979年に開院後、1980年8月以降は保険医療機関に指定され、東日本大震災の被災時には救急医療を行いました。
東北医科薬科大学は、1939年に設立された東北薬学専門学校を母体としています。2016年には、東日本大震災の復興と医療人材の教育を目的として、医学部が新設されると共に、現在の「東北医科薬科大学」へと名称を変更しました。
NTT東日本は、東北地域の医師不足の解消や、地域医療・救急医療への貢献を目的として、今回の事業譲渡を実施しました。現在、NTT東日本東北病院は、東北医科薬科大学の附属病院となっています。

ヘルスケアアクセラレーターグループと医療法人川崎病院

2022年6月、ヘルスケアアクセラレーターグループ(以下、HAグループ)は、病院・介護老人施設を運営する、医療法人川崎病院を承継しました。HAグループは、次世代型の病院・介護施設運営を目指し、全国各地に拠点を置く医療法人グループです。
医療法人川崎病院は、千葉県夷隅郡大多喜町にある総合病院です。後継者不在により、一時は閉院も考えましたが、地域医療を守る責務から第三者への承継を決意し、今回の事業承継を実施しました。

医療法人沖縄徳洲会と医療法人湯池会

2018年8月、医療法人沖縄徳洲会(以下、沖縄徳洲会)は、医療法人湯池会(以下、湯池会)の吸収合併を行い、湯池会に所属する北谷病院を取得しました。北谷病院は沖縄県中頭郡北谷町で、内科・外科・整形外科・泌尿器科の医療サービスを提供する病院です。
沖縄徳洲会と湯池会の合併は、北谷病院のスタッフの高齢化と後継者不足の解消、および、北谷病院とその近くに移転した中部徳洲会病院との連携強化を目指して行われました。

医療法人(財団)岡谷会と社会医療法人健生会、社会医療法人平和会

医療法人(財団)岡谷会(以下、岡谷会)は、同じ奈良民主医療機関連合会に属する社会医療法人健生会(以下、健生会)および社会医療法人平和会と合併しました。合併後は社会医療法人健生会となっています。この合併は、経営基盤や医療・介護サービス機能を強化していくことを目的としたものです。
合併後は、岡谷会におけるすべての権利義務が健生会に承継されました。病院、診療所をはじめ、すべての医療、介護、福祉等の事業は合併後もそのまま継続しています。

医療法人・病院業界におけるM&A成功のポイント・注意点

病院業界でM&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。ここでは、許認可の引継ぎ、従業員のフォロー、専門家への相談という3つの観点から解説します。

許認可の引継ぎについて確認しておく

病院や医療法人の経営権を移すためには、監督官庁の認可が必要です。社団法人の場合、全社員の同意が得られたとき、他の社団法人と合併が可能となります。

一方、財団法人の場合、寄附行為に合併できる旨の定めがあれば、理事・監事・評議員の「3分の2以上の同意」によって、他の財団法人と合併が可能です。財団法人のケースでは、理事等の3分の2以上の同意だけでなく、寄附行為に別段の定めがある場合は、その方法で経営権の引き渡しが認められています。

個人の医院・診療所を売買する場合、行政機関等の特別な認可は必要無く、経営する医師の独断で売買を決定できます。

医師や看護師の離職を防ぐためにフォローする

M&A後の給与や労働環境などについて、従業員に対して丁寧に説明し、理解を得ておくことが重要です。M&Aをきっかけに、優秀な人材が離職してしまう可能性もあるため注意が必要です。

病院などの医療施設では人手不足が深刻な問題となっており、特に医師や看護師など、資格が必要となる人材を集めることは容易ではありません。M&A後も引き続き働いてもらえるよう、しっかりとしたフォローが求められます。

専門家に相談する

医療業界や病院のM&Aに実績のある仲介業者に相談することも、重要なポイントです。

医療業界に精通した業者かどうかは、これまでに手がけたM&Aの事例について質問するなどして、判断しましょう。また、医療法や行政手続きの知識を持つ業者であるかどうかも、事前に確認しておくと良いかもしれません。

医療法人・病院業界における今後のM&Aの課題と展望

医療法人・病院業界では医師の高齢化や人材不足が進む中、単独での経営継続が難しい法人は増加すると予想されており、グループ化や統合の必要性はさらに高まるでしょう。一方、大手医療グループによる設備投資・IT化の推進、地域連携の強化など、統合後の運営改善に成功する事例も見られます。

今後は、医療機能の再編と持続可能な地域医療体制を実現する手段として、M&Aがより実務的・戦略的に活用されていくでしょう。

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よくある質問

  • 医療法人・病院業界はどのような役割を持つ産業ですか?
  • 医療法人・病院業界は、病院や診療所などの医療機関が医療行為と関連サービスを提供し、国民の生命と健康を守る役割を担う産業です。
  • 病院と診療所の違いは何ですか?
  • 医療法により、入院患者を20人以上受け入れられる医療機関が病院、19人以下の場合は診療所と定義されています。
  • 医療法人の経営環境が厳しくなっている理由は何ですか?
  • 診療報酬のマイナス改定が続き、補助金縮小で経常利益率が低下していることに加え、人材不足や運営コスト上昇が重なり、経営基盤が弱体化しているためです。
  • なぜ医療法人・病院業界でM&Aが増えているのでしょうか?
  • 経営が脆弱な法人が増え、単独での体制維持が難しくなる中、地域医療を維持しつつ経営基盤を強化する手段として統合・再編が選ばれているためです。
  • 医療法人のM&Aが一般企業と異なる点は何ですか?
  • 医療法人は非営利性を前提とし、理事長要件や理事構成、持分の扱い、行政認可など制度上の制約が多く、株式会社のM&Aとは手続きや検討事項が大きく異なります。
  • 医療法人・病院業界でM&Aを活用するメリットは何ですか?
  • 医師や看護師などの医療スタッフをそのまま引き継げる、人材不足解消につながる、新規開設に必要な許認可手続きを省略できる、病床規制が厳しい地域でも病床数を確保しやすくなるなどのメリットがあります。
  • 医療法人のM&Aを成功させるための重要なポイントは何ですか?
  • 許認可条件の確認やガバナンス要件への理解、職員の離職防止のための丁寧な情報共有、医療法人に精通した専門家への相談が重要です。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社企業情報部 部長本山 拓哉
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長
本山 拓哉

大手証券会社にて、上場・未上場企業オーナーの資産運用及び事業承継・M&A支援に従事。
2016年から当社に参画し、現在ヘルスケア業界を中心に多数のM&A成約実績を有する。

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