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整骨院業界には、常に一定の数の事業者が市場に新規参入するため、市場規模は安定しているものの、競争は年々激しくなっています。こうした競争に勝ち残り、事業規模の拡大を目指す整骨院によって近年活用される機会が増えているのが、M&Aです。
そこで本記事では、整骨院業界の市場規模やM&A動向を整理したうえで、実際のM&A事例や活用するメリット、成功のポイントなどについて解説します。
M&Aの前に押さえておきたい整骨院業界の情報
整骨院業界のM&Aについて述べる前に、まず整骨院業界の定義や業界を代表する企業、そして整骨院業界ならではの特色などについて解説します。
整骨院業界の定義
整骨院とは、「柔道整復師」の国家資格を持つ施術師が、手技療法を用いて、骨折や脱臼、打撲や捻挫、挫傷などの外傷を治療する施設のことです。
一般的な医療施設とは違い、整骨院での治療には「保険が適用されるケース」と「そうでない自費診療のケース」があります。
保険適用になるのは外傷のみに限られており、慢性的な肩こりや腰痛、骨盤矯正などの整体施術は保険適用外です。また、慢性痛や後遺症の治療などは鍼灸師が担当しますが、こちらは保険適用となります。
なお、整骨院と混同されやすい施設として整体院があります。こちらは国家資格が無く、誰でも開業が可能ではありますが、あらゆる施術で保険が適用されることはありません。
代表的な企業
次に、全国的にも有名な、整骨院業界を代表する企業について紹介します。整骨院業界を代表する企業は、主に以下の4社です。
- ・株式会社ケイズグループ
- ・株式会社CMC
- ・株式会社KMC
- ・株式会社GENKIDO
整骨院業界の特色
整骨院業界の特色として、公益社団法人に属する柔道整復師と、属さない柔道整復師がいることがあげられます。
公益社団法人に属する柔道整復師は、協会の方針にのっとり柔道整復師としての活動を行い、協会が公的機関との間で取り決めた協定に基づいて保険請求が行われています。
これに対し、公益社団法人に属していない柔道整復師は、個人として公的機関と契約を結び、保険請求を行います。そのため、公益社団法人に属していない柔道整復師の多くは、保険請求代行事業者と会員契約を結んだうえで、経営サポートを受けながら事業を展開しています。
整骨院業界の市場規模・動向
接骨院や鍼灸院、マッサージ院などにおいて、国家資格者によって行われている医療類似行為の売上高は、上表のように、2017年以降ほぼ安定した数字で推移しています。このことから、整骨院には常に一定の需要があるといえるでしょう。

参考:柔道整復・鍼灸・マッサージ市場に関する調査を実施(2022年)
また、整骨院に従事する柔道整復市場を見ても、ほぼ同様の傾向です。2020年にはコロナウイルスの影響を受けていったんは減少したものの、2021年には前年比107%の4,790億円と推計され、ほぼコロナ禍以前の水準に戻ってきています。
施術内容に関しても、コロナ禍の前後で変化が見られます。外出を控えデスクワークの時間が長くなったことにより、頭痛や眼精疲労、肩こりなどを相談する患者が増えており、こうした傾向は今後も続く見込みです。
したがって、リモートワークなどが働き方の一つとして定着すれば、整骨院市場はさらに大きくなるでしょう。
ただし、こうした相談を持ちかける先は整骨院のみに限らず、鍼灸・マッサージのほか、エステや整形外科なども考えられます。健康意識の高まりによって需要が増えるなか、隣接する他業種との差別化の必要にも迫られているといえます。

参考:柔道整復・鍼灸・マッサージ市場に関する調査を実施(2022年)
整骨院のM&A事例
では次に、実際の整骨院のM&A事例を、以下に5例紹介します。
クリーン&クリーンとQOLD
2023年12月、株式会社クリーン&クリーンは、QOLD株式会社の発行する株式を取得しました。
東洋ワークグループ株式会社の特例子会社であるクリーン&クリーンは、障がい者雇用および福祉事業を手がける会社です。一方のQOLDは、宮城県を中心に接骨院や訪問医療マッサージなどを展開しています。同社との連携により、障がいのある人が生活や健康管理面での支援を受けながらより質の高い生活を送れるように、社会福祉事業の拡充を図ることが、このM&Aの狙いです。
ケイズグループと光井JAPAN・太洋メディカル
2022年3月、整骨院最大手の株式会社ケイズグループは、株式会社光井JAPANと、有限会社太洋メディカルの全株式を取得し、完全子会社としたことを発表しました。
光井JAPANは大阪南部を中心に鍼灸整骨院14院を、太洋メディカルは大阪北部を中心に鍼灸整骨院13院を、それぞれ展開している会社です。このM&Aは、激化する整骨院市場でのシェア確立や、顧客ニーズの変容に対応しながらスピーディな事業多角化を実現することを狙いとしたものです。
Welbyとリハサク
2023年8月、株式会社Welbyは、株式会社リハサクに対する出資を行い、リハビリテーション領域でのPHR活用での協業を目的とした資本業務提携契約を締結することに合意したとを発表しました。
Welbyは治療支援を目的としたデジタルサービスの提供を行う会社です。このM&Aは、リハサクが有する整骨院向けCRMや、自宅での運動支援を目的としたコンテンツ配信との融合により、より付加価値の高いサービスの提供を目指すことを狙いとしたものです。
ケイズグループHDとデータマーケティング
2024年5月、株式会社ケイズグループホールディングスは、データマーケティング株式会社の全株式を取得したことを発表しました。
ケイズグループHDは、整骨院事業を中心に、ウェルネス分野において多角的な事業展開を進めています。一方のデータマーケティングは、AIを駆使したマーケティング支援ツール「プロラインフリー」を提供する会社です。このM&Aは、先進的な技術の導入による集客ノウハウの活用やマーケティング戦略の実施により、ブランド価値のさらなる強化を図ることを狙いとしたものです。
GENKIDOとあゆみホールディングス
2022年11月、株式会社GENKIDOは、株式会社あゆみホールディングスと事業譲渡契約を締結したことを発表しました。
あゆみホールディングスは北海道札幌市にて整骨院の店舗を運営しています。この事業譲渡は、GENKIDOによる北海道エリアへの進出と、両者のノウハウを融合させたマーケティングの実施やサービスの向上を図ることを狙いとしたものです。
整骨院業界でM&Aを活用するメリット
整骨院業界でM&Aを活用する主なメリットとして、以下の3点を紹介します。
- ・事業拡大につながる
- ・患者や従業員を引き継げる
- ・経営に集中できる
それぞれ見ていきましょう。
事業拡大につながる
1つ目のメリットは、M&Aにより同業者を買収すれば、事業規模を拡大し、競争力を高めることです。店舗数が増えることにより、顧客基盤の拡大や新規エリアへの参入も容易になるでしょう。利用者の認知度が高まり、ブランド力の強化など、マーケティング面でのメリットも期待できます。
患者や従業員を引き継げる
2つ目のメリットは、M&Aで既存の整骨院を獲得すれば、患者や従業員を、そのまま引き継ぐことができることです。
整骨院に後継者がおらず廃業や倒産をしてしまえば、従業員や患者に大きな影響を与え、地域の雇用やサービスの喪失につながるでしょう。ですが、M&Aを実施すると、雇用契約や治療サービス、患者のデータなどは買い手に引き継がれるため、従業員の雇用を守り、サービスの提供者として患者への責任を果たすことが可能です。
こうした引き継ぎを行えば、従業員の安定や患者の継続的な治療の確保に寄与し、地域社会全体への影響を最小限に抑えることができます。
経営に集中できる
整骨院や鍼灸院のオーナーは、飲食店など、ジャンルの異なる店舗を兼業で経営していることが珍しくありません。そのため、採算の合わない整骨院や鍼灸院をM&Aで譲渡すれば、それ以外の店舗の経営に集中することができます。
また、多店舗展開している場合などは、人材や資金を本業に集中させることで、経営の効率化を図ることも可能です。
このように、選択と集中により経営リソースを集中できる点が、3つ目のメリットです。
整骨院におけるM&A成功のポイント
整骨院業界でM&Aを実施し、成功させるためには、いくつかのポイントを抑える必要があります。そのなかでも特に注意すべきなのが、以下の2点です。
店舗や接骨院がうまく回るか確認する
M&Aの買い手が最も注意すべき点は、オーナー経営者が去った後も整骨院を円滑に運営できるかどうかです。他業種からの参入も多いだけに、従業員任せにしてしまっては、患者離れが進むケースも考えられます。
こうした事態を避けるためには、デューデリジェンスを実施し、提供された資料をもとに状況を詳細に確認しておくことが重要です。
また、既存の従業員が、患者と良好な関係性を築いているかどうかも、十分に確認しましょう。整骨院の患者は、整骨院ではなく、施術者との関係を重視する場合が多いためです。
従業員への配慮を欠かさない
M&Aの目的が人材確保である場合は、従業員の離職を防ぐことが大切です。従業員の理解を得ない形でM&Aを実施してしまうと、成立後の離職を招きかねません。M&Aでは従業員が感情的に反対することもあるため、納得できる待遇や給与体系の提示を含めた、丁寧なコミュニケーションが求められます。
整骨院における今後のM&Aの課題と展望
最後に、整骨院業界のM&Aにおける、今後の課題と展望について解説します。
競争に競り勝ち有識者を獲得できるか
接骨院業界は他業種からの参入も多く、事業者が急激に増加しており、厳しい競争環境に置かれています。
事業規模を拡大するためには国家資格の有資格者が必要ですが、こうした人材を確保するのは簡単ではありません。もちろん、未経験者を育成すれば良いのですが、一人前になるまでには時間も労力もコストもかかります。
このようなことから、整骨院業界では、M&Aで経験やノウハウを積んだ柔道整復師などの有資格者を獲得する動きが強まっています。
自社展開だけでなく他社と協業も視野に入れる
整骨院の事業所数は増加していますが、国内人口の減少によって、将来的に市場が縮小していくことが考えられます。そしてその過程で、競争は今以上に激化していくと思われます。
こうした状況に対処するためには、限られた人材を有効活用すると共に、まったく違う分野の会社や同業他社との協力も有効な方策といえるでしょう。
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