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福祉用具レンタル業界のM&A動向について
福祉用具レンタル業界は、日本の高齢化に伴い急速に成長している分野です。
公益財団法人テクノエイド協会が運営する「福祉用具情報システム(TAIS)」の登録状況によれば、令和7年11月14日現在、登録されている品数は18,958件、企業数は918社となっています。一方で、介護報酬改定による貸与単価の抑制や人件費の高騰により、多くの事業者が収益確保の難しさに直面しているのが現状です。
こうした環境を背景に、営業所の統合や事業領域の拡大を目指すM&Aが注目されており、業界全体の構造再編が加速しています。
本記事では、「M&Aとは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、福祉用具レンタル業界の定義や特色、市場動向について解説します。M&Aの事例についても見ていきましょう。
福祉用具レンタル業界の概要
まずは、業界の定義や特色、代表的な企業など、福祉用具レンタル業界の基本的な情報を確認していきましょう。
福祉用具レンタル業界の定義
福祉用具レンタル業とは、心身の機能の低下により日常生活に支障のある高齢者や障がい者に向けて、機能訓練のための用具を貸与する事業です。ただレンタルするだけでなく、用具の選定や設置、調整などのサービスも実施します。対象となる用具の種類は厚生労働省によって定められており、福祉用具貸与事業者として認定されるには、特定の基準を満たす必要があります。
福祉用具レンタル業界の特色
福祉用具レンタル業を営むには、都道府県または市町村に事業者指定申請を行い「指定福祉用具貸与事業者」の許可を受ける必要があります。
指定福祉用貸与事業者となるためには、人員配置要件や、運営に関する基準を満たさなければなりません。
人員配置基準を満たすためには、福祉用具専門相談員を常勤換算方法で2人以上、管理者が常勤専従で1人以上設置が求められます。運営に関する基準としては、利用者や家族に対する説明および内容提示のための運営規定や、重要事項等の書類の用意、福祉用具貸与提供拒否の禁止などが挙げられます。
福祉用具レンタル業界の現状とM&A動向
ここでは、福祉用具レンタル業界の現状とM&A動向について、詳しく解説します。
福祉用具レンタル業界の現状
福祉用具レンタル業界の現状は、高齢化を背景に需要は拡大していますが、収益構造の厳しさという問題に直面しています。
高齢化を背景に需要は拡大
公益財団法人テクノエイド協会が運営している「福祉用具情報システム(TAIS)」の登録状況によると、高齢人口の増加に伴い、福祉用具レンタル業を行う企業数・商品数は共に増加傾向にあります。
令和7年11月14日現在、登録されている品数は18,958件、企業数は918社となっており、貸与の受給者数もこの20年間で5倍に増加しました。
特に、要介護1と要支援者は増加中であり、高齢化社会における福祉用具の重要性が高まっています。
介護報酬改定・人件費高騰による利益構造の変化が懸念
福祉用具貸与事業は、収益構造の厳しさという問題に直面しています。
介護報酬改定によって福祉用具の貸与単価は抑制傾向にあり、利益率の低下が懸念材料です。物価や人件費の高騰も重なり、レンタル事業は「薄利多売」の色合いが一段と強まっています。
令和6年度の制度改定では、固定用スロープや歩行器、杖など一部品目に貸与・販売の選択制が導入されました。これにより、従来レンタルが中心だった領域で販売へのシフトが進む可能性があり、貸与収入源のリスクが生まれています。
また、モニタリングの明確化が義務付けられたことで、現場業務の負担増加も避けられない状況が続いています。
一方で、日本全体では高齢化の進展により福祉用具のニーズ自体は増え続けている状況です。しかし、介護保険の給付抑制という政策方向性のもと、「需要は増えるのに、財政は縮む」というギャップは今後さらに広がる見込みです。
このような状況を踏まえ、持続可能な収益モデルの構築が、レンタル事業者にとっての急務となっています。
福祉用具レンタル業界のM&A動向
福祉用具レンタル業界では、高齢化により貸与ニーズが増えている一方、介護報酬の抑制や人件費高騰によって、多くの事業者が収益確保の難しさを抱えています。さらに、貸与・販売の選択制導入やモニタリングの義務化など制度変更も相次ぎ、小規模事業者ほど負担が増大しているのが現状です。
こうした状況を受け、営業所の統合による商圏拡大、シルバーサービス全体の強化、地域包括ケアを見据えたサービス連携など、事業基盤を強化するためのM&Aが活発化しています。利用者対応力や相談員の確保を目的とした再編も進んでおり、今後も構造的な需要増と制度環境の変化を背景に、企業間の吸収・統合は続く見通しです。
福祉用具レンタル業界でM&Aを活用するメリット
福祉用具レンタル業界でM&Aを行う主なメリットとしては、以下が挙げられます。
それぞれ見ていきましょう。
事業領域拡大が見込める
福祉用具レンタル業界でM&Aを実施するメリットの一つは、事業領域拡大が見込める点です。
現在、高齢人口の増加と共に、自立的に活動を行うアクティブシニアから、支援を必要とする方々まで、高齢者層の幅は大きく広がっており、ニーズも多様化しています。M&Aによる事業領域の拡大は、多様化するニーズに対応していくうえでの有効な施策です。
また、介護報酬改定においては、福祉用具レンタルの介護保険適用可否について議論が重ねられています。高齢者施設の利用者をターゲットとした家具や家電のレンタルや、サポート用品のサブスクリプション展開など、保険適用外領域の拡大も視野に入れM&Aを実施すれば、事業基盤の強化、シェアの拡大にもつながり、事業の継続性は大きく向上するでしょう。
人員補強や設備拡大につながる
M&Aを実施すれば、売り手企業の人材を自社に取り込むことができます。人材不足が叫ばれる介護業界において、人材の確保は大きなメリットです。既存スタッフのノウハウも獲得できるため、新規に福祉用具レンタル事業に参入する場合であっても、スムーズな事業展開も可能です。さらに、設備も合わせて獲得できるため、利用者数の増加に対応できるでしょう。
他地域への参入が可能となる
M&Aを活用すれば、他地域へのスムーズな参入が可能です。福祉用具レンタルは、利用者に合わせた用具の選定や、設置のサポートが求められるため、地域住民からの信頼を得ることが重要です。M&Aで事業展開を狙う地域の売り手企業とマッチングできれば、既に構築された販路を活用し、早期に事業安定を狙えます。
福祉用具レンタル業界のM&A事例
福祉用具レンタル業界では、経営基盤の強化と事業拡大を目指すM&Aが多く実施されています。
ここでは、代表的なM&A事例について詳しく見ていきましょう。
株式会社幸和ライフゼーションと株式会社ヤマシタ
2023年10月、株式会社幸和ライフゼーション(以下、幸和ライフゼーション)は、レンタル事業の一部を、株式会社ヤマシタ(以下、ヤマシタ)に事業譲渡しました。ヤマシタは、幸和ライフゼーションから譲り受けた営業所と自社の当該エリアの既存営業所を統合し、事業エリアの拡大と共にシェア確立につなげていくとしています。
フランスベッドホールディングス株式会社と株式会社ホームケアサービス山口
2021年12月、フランスベッドホールディングス株式会社は、連結子会社であるフランスベッド株式会社を通じて、株式会社ホームケアサービス山口の株式を取得し、連結子会社化しました。シルバーサービス領域の拡充と事業の展開を促進し、グループ全体のバリューチェーンの強化を図る狙いがあります。
株式会社プロトコーポレーションと株式会社ベネッセホールディングス
2021年5月、株式会社プロトコーポレーションは、連結子会社である株式会社プロトメディカルケア(以下、プロトメディカルケア)の全株式を、株式会社ベネッセホールディングスへ譲渡しました。プロトメディカルケアは福祉用具レンタル業を含み、介護・福祉・医療領域でサービス展開を行っていましたが、大きな事業成長につながる成果を挙げるに至らず、株式譲渡に踏み切りました。
株式会社元気な介護グループと株式会社ケアミックス・ジャパン
2022年10月、株式会社元気な介護グループ(以下、元気な介護グループ)は、株式会社ケアミックス・ジャパン(以下、ケアミックス・ジャパン)の全株を取得し、子会社化しました。元気な介護グループは、宮城県仙台市でサービス付き高齢者向け住宅やデイサービスなどの福祉支援施設を運営するケアミックス・ジャパンを取り込むことで、高齢者の自立的な暮らしを支援する介護サービスの提供と、地域包括ケアへの貢献を図るとしています。
株式会社 ベスト・ケアーと株式会社ワイズ
2024年4月、株式会社 ベスト・ケアー(以下、ベストケアー)は、株式会社ワイズ(以下、ワイズ)が運営する鍼灸整骨院3店舗と、通所介護事業所3店舗の事業を譲り受けました。居宅介護支援、福祉用具貸与・販売を行うベストケアーは、ワイズからの事業譲受により、介護分野の事業拡大とヘルスケア領域への参入を目指しています。
株式会社カスケード東京とフォービスライフ株式会社
2022年2月1日、株式会社カスケード東京(以下、カスケード東京)は、各種介護施設を運営するフォービスライフ株式会社(以下、フォービスライフ)の株式を譲り受け、グループ会社としました。
フォービスライフは、江東区、江戸川区、杉並区で居宅介護、訪問介護、デイサービス、グループホーム、介護予防支援事業所の運営に加え、福祉用具の貸与・販売を手がけています。
今回の株式譲受は、フォービスライフがカスケード東京グループと多くのシナジーを生むことができると判断されたことが背景にあります。今後は、カスケード東京グループの介護施設とフォービスライフが連携し、双方の利用者により細かな介護サービスを提供していく方針です。
福祉用具レンタル業界における
M&A成功のポイント・注意点
福祉用具レンタル業界でM&Aを成功させるには、以下のポイントに注意しましょう。
利用者や従業員に不安感を与えない
福祉用具レンタル会社のM&Aでは、利用者や従業員に不安を与えないことが何よりも大切です。
情報が不十分だったり説明が不誠実だと、利用者離れや従業員の離職を招く可能性があります。そのため、M&Aの目的や今後の流れは、対象者の心情に配慮しながら丁寧に説明することが欠かせません。
また、買収後のPMI(経営統合)も重要です。担当相談員の引き継ぎ方法や利用者への周知、配送体制の統合手順などを事前に整理しておく必要があります。PMIが不十分だと、担当変更に伴うクレームや現場の混乱が起きやすく、サービス品質の低下につながる恐れがあるため、注意しましょう。
福祉用具専門相談員を確保する
福祉用具レンタル事業は、専門相談員の人員基準を満たさなければ運営できません。そのため、M&Aでは相談員の確保が重要なチェックポイントになります。
買収後に「実は人員が不足していた」「相談員の負荷が過大だった」という状況が判明すると、追加採用や体制整備が必要になり、想定外のコストにつながるケースがあります。
このような事態を防ぐには、買収前のデューデリジェンス(DD)で、相談員の人数だけでなく、シフト体制や残業状況、離職率、モニタリングの実施状況といった勤務実態まで確認しておくことが不可欠です。こうした事前確認により、買収後のリスクを最小限に抑えられます。
福祉用具レンタル業界における今後のM&Aの課題と展望
福祉用具レンタル業界では、高齢化により需要が拡大し続ける一方、貸与単価の抑制や人件費高騰、貸与・販売の選択制導入など、制度環境の変化によって収益構造の不安定さが増しています。
その反面、在宅介護・通所介護・施設運営との連携強化など、事業領域を広げる余地は大きいです。地域包括ケアを見据えたシナジーを創出できる企業ほど、M&Aによる成長が期待されます。
業界再編が進むなか、経営基盤の強化と人材確保を戦略的に行えるかが、将来の競争力を左右するポイントとなるでしょう。
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よくある質問
- 福祉用具レンタル業界はどのような役割を担う業界ですか?
- 高齢者や障がい者など、心身の機能低下により日常生活に支障がある人に対して、機能訓練や生活支援のための福祉用具を貸与することで、生活の自立とQOL向上を支える重要な役割を担う業界です。
- 福祉用具レンタル業とはどのようなサービス内容ですか?
- 対象者に福祉用具を貸し出すだけでなく、ニーズに合った用具の選定や設置、調整などのサービスも提供します。対象となる用具は厚生労働省が定めており、福祉用具貸与事業者として認定されるには所定の基準を満たす必要があります。
- 福祉用具レンタル業界の需要はどのように推移していますか?
- 高齢化の進展により貸与ニーズは拡大しており、福祉用具情報システム(TAIS)によると令和7年11月14日現在で登録品目は18,958件、企業数は918社、貸与受給者数もこの20年間で約5倍に増加しています。
- 福祉用具レンタル業界が直面している主な課題は何ですか?
- 介護報酬改定による貸与単価の抑制で利益率が低下しているうえ、物価や人件費の高騰、貸与・販売の選択制導入やモニタリング義務化といった制度改定によって現場負担と収益構造の不安定さが増していることが主な課題です。
- なぜ福祉用具レンタル業界でM&Aが活発化しているのですか?
- 高齢化で需要は増える一方、貸与単価抑制や人件費高騰、制度変更による負担増で小規模事業者ほど経営が厳しくなっているためです。営業所の統合や商圏拡大、シルバーサービス全体の強化、相談員の確保など、事業基盤を強化する手段としてM&Aが選ばれています。
- 福祉用具レンタル業界でM&Aを行う主なメリットは何ですか?
- 事業領域の拡大により多様化する高齢者ニーズに対応しやすくなるほか、人員や設備をまとめて確保できるため、介護業界で不足しがちな人材やノウハウを取り込みやすくなります。また、他地域の事業者を譲り受ければ既存の販路や信頼関係を活かしてスムーズに新エリアへ参入できます。
- 福祉用具レンタル業界のM&Aを成功させるためのポイント・注意点は何ですか?
- 利用者や従業員に不安を与えないよう、M&Aの目的や今後の体制を丁寧に説明し、担当相談員の引き継ぎ方法や配送体制の統合を含むPMIの段取りを事前に整理することが重要です。また、福祉用具専門相談員の人員基準や勤務実態をデューデリジェンスで確認し、買収後の人員不足や過重労働リスクを避けることも欠かせません。

