電子部品業界 市場規模や買収・売却事例について解説

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電子部品業界は、急速な技術革新とグローバルな市場競争が進むなかで、企業間の競争がますます激化しています。このような環境下で、企業が市場シェアを拡大し、技術力を強化するための重要な戦略の一つが、M&Aです。特に、中小企業の技術を取り込み、大手企業が新たな市場に迅速に参入する動きが活発化しています。

そこで本記事では、電子部品業界の基本情報を押さえたうえで、市場規模やM&A事例、M&Aを活用する際のメリットやポイントなどについて紹介します。

M&Aの前に押さえておきたい電子部品業界の情報

電子部品業界は、技術革新が急速に進む分野で、多くの企業が競争を繰り広げています。

M&Aについて触れる前に、まずは電子部品業界の定義や、代表的な企業、業界ならではの特色について押さえておきましょう。

電子部品業界の定義

電子部品業界とは、自動車やスマートフォンなどに組み込まれている電子部品などを製造している業界のことです。

電子部品とは、電子回路に使用する部品のことを指し、「能動部品」「受動部品」「機構部品」に分類されます。

能動部品とは、入力部と出力部を持っており、与えられた指令によって特定の電力を出力する電子部品のことで、トランジスタ・IC・ダイオードがこれに該当します。

受動部品とは、電力を消費・放出・貯める機能を持つ電子部品を指し、コンデンサ・抵抗・コイルがこれに該当します。

機構部品とは、部品自体に電気的な機能は無く、代表的なものとしてはスイッチ・コネクタ・基板などです。

代表的な企業

電子部品業界には、世界的に知られる大手企業がいくつか存在しており、業界の発展を支えています。そのなかでも代表的な企業が、以下の4社です。

  • ・株式会社日立製作所
  • ・ニデック株式会社
  • ・TDK株式会社
  • ・京セラ株式会社

電子部品業界の特色

日本の電子部品業界は高い技術力が特徴です。海外へのシェアも広げており、現在では世界シェアの30〜40%を確保しています。また、電子部品業界は、モノ作りの根幹である組立メーカーと密接に関わっており、この最終製品メーカーの新製品登場や新技術台頭に大きな影響を受ける業界でもあります。

電子部品業界はこれまで、スマートフォンの普及と共に堅調に成長を遂げることができましたが、昨今は海外の格安スマートフォンの登場と共に生産量と利益率の下降が目立つ状況です。しかしその一方で、自動車の自動運転技術の台頭や、人手不足に対応した工場の自動化によるスマートファクトリー化など「IoT=Internet of Things」に向けた需要が拡大しています。

IoTにより新たな市場が生まれたことを受け、電子部品業界は現在新規市場開拓に取り組んでいます。完成品メーカーに向けた新商品提案営業や、製品設計段階からの組み込み提案など、これまで取引がなかった業界へのアプローチも、その一環といえる取り組みです。

電子部品業界にとっての今後の有望市場と言われているのが、5G無線通信サービスです。スマートフォンのインターネットコンテンツの大容量化に伴う機能向上と共に、自動車における5G無線通信による自動運転では、車載機器の需要の増加が予想されており、大きな需要の増加が期待できます。

電子部品業界の市場規模・動向

電子部品業界の市場規模と動向を考えるうえで、近年のグローバルな変化は重要なポイントです。2020年、新型コロナウイルスの流行により市場全体は一時的に減少しましたが、2021年には279,236億円に達し、前年比で18%の増加を見せました。特に受動部品分野が最も大きな伸び率を記録し、業界全体の成長を牽引しました。

この市場成長の背景には、コロナ禍におけるテレワークの普及に伴うIT機器の需要増加が挙げられます。また、5Gの普及、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展、次世代自動車やIoT(モノのインターネット)の導入も、電子部品の需要を押し上げています。この成長は2022年以降も続く見込みです。

一方で、2021年において日系メーカーは市場シェアを347%維持したものの、車載向け部品の回復の遅れが影響し、一部でシェアの減少が見られました。車載向け部品はこれまで売上高の成長を支えてきた重要な分野であり、今後の回復が業界全体の動向に大きく影響することが予想されます。

電子部品市場規模

出典:令和4年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子デバイス産業およびその関連産業における市場動向及び政策動向調査)

電子部品業界のM&A事例

電子部品業界では、技術力の高い企業を対象としたM&Aが増加しています。ここでは、業界内で注目されたM&Aの具体的な事例を紹介します。

アルコニックスとジュピター工業

2022年4月、アルコニックス株式会社は、ジュピター工業株式会社の全発行済み株式を取得し、連結子会社化しました。

このM&Aは、アルコニックスが自社の事業基盤を強化し、シェア拡大を図る一環として実施されたものです。ジュピター工業の技術と市場へのアクセスを活用することで、製品ラインアップの強化や、新規市場の開拓に寄与することが期待されています。

イリソ電子工業とエスジーディー

2022年1月、イリソ電子工業株式会社は、有限会社エスディージーを完全子会社化しました。

売り手となったエスディージーは、主に金型部品の製造・販売を手がける企業です。イリソ電子工業はこのM&Aにより、射出成形金型を含む生産能力の強化と、体制の整備を目指します。

シキノハイテックとアウトソーシングテクノロジー

2024年1月、株式会社シキノハイテックは、株式会社アウトソーシングテクノロジーから三信電気事業所の一部を譲り受けました。この譲渡の対象には、電子部品や完成品の設計・生産、ならびに無線機器の設計・製造事業が含まれています。

買い手となったシキノハイテックは、この事業譲渡により、事業規模の拡大と技術力の向上を図ることを目指しています。売り手となったアウトソーシングテクノロジー側も、成長戦略の一環としてこの譲渡に合意しました。

Guan Zhi Holdings Limitedと台湾FIRST INTERNATIONAL COMPUTER, INC

2024年10月、株式会社グンゼの100%子会社である香港のGuan Zhi Holdings Limitedは、発行済株式の85.1%および、日本と米国での電子部品タッチパネル事業を、台湾のFIRST INTERNATIONAL COMPUTER, INC(FIC)に譲渡しました。

このM&Aは、グンゼが非コア事業を整理し、より成長が見込まれる分野にリソースを集中させるための戦略的決定として行われました。

買い手となったFICは、電子部品業界での世界的な地位を持つ企業です。この譲渡により、FICは自社の技術と市場シェアをさらに強化することを目指しています。

ロームとラピステクノロジー

2024年4月、ローム株式会社は、100%子会社であるラピステクノロジー株式会社を吸収合併しました。

この合併は、市場の急速な変動に対応し、既存製品の強化と高付加価値製品の開発力を向上させることで、競争力をさらに高めるための経営体制の構築を目的としています。

電子部品業界でM&Aを活用するメリット

電子部品業界でM&Aをを活用する主なメリットとして、以下の3点を紹介します。

  • ・高度化するニーズに対応できる
  • ・スピーディーな海外進出を実現しやすい
  • ・安定的なサプライチェーンを構築できる

それぞれ見ていきましょう。

高度化するニーズに対応できる

電子部品業界では、今後IoTや自動運転の実用化が進むことで、部品の軽量化や薄型化、省エネ化、そして長寿命化といったニーズがますます高度化していくことが考えられます。

さらに、人手不足が業界全体で深刻化する中、生産効率を上げるために、複数の電子部品を組み合わせたモジュール部品の需要が高まる見込みです。

このような複雑化する市場ニーズに応えるためには、先進的な技術力やノウハウを持つ企業とのM&Aが鍵となります。M&Aを通じて、双方の企業が持つ専門知識や経験を融合させることで、新たな技術や製品開発が可能となり、業界内での競争力を強化することができます。

スピーディーな海外進出を実現しやすい

電子部品業界では、精密さが求められる製品の多くで海外企業が6割以上のシェアを占めており、競争が激化しています。こうしたなかで、事業規模をさらに拡大し、競争力を強化するために、多くの電子部品メーカーが海外進出を模索しています。

しかし、新たな市場での基盤を一から築くためには、膨大な時間と労力が求められ、容易ではありません。そのため、既に海外市場での成功を収めている企業や、豊富な海外展開のノウハウを持つ企業と、M&Aを通じて提携することが、スピーディーな海外進出を実現するための有効な手段となります。

このようなパートナーシップにより、迅速かつ効果的に新市場への参入が可能となり、事業拡大を加速させることが期待されます。

安定的なサプライチェーンを構築できる

M&Aを活用することで、安定したサプライチェーンを構築することができます。これは電子部品に関連する事業を展開する企業にとって、極めて重要なメリットです。

電子部品メーカーを含む多様な取引先とのサプライチェーンは、その一部が欠けるだけで製造ラインが停止し、全体の生産活動に重大な影響を与えるリスクがあるため、各企業にとって欠かせない存在です。しかし、近年では自然災害の頻発や国際的な政治情勢の不安定化が顕著であり、サプライチェーンの脆弱性がより一層浮き彫りになっています。

こうした不確実性の高い環境下において、電子部品メーカーとのM&Aは、サプライチェーンを強化し、安定性を確保するための有効な手段です。これにより、企業は供給リスクを低減し、持続的な事業運営を確実にすることが可能になります。

電子部品業界におけるM&A成功のポイント

電子部品業界でM&Aを成功させるためには、技術力の評価や文化の統合、シナジー効果の最大化が欠かせません。以下では、これらを踏まえた成功のためのポイントを詳しく解説します。

経済状況と市場の影響を考慮する

電子部品業界は、経済状況や市場のニーズによって売上が大きく変動します。M&Aを検討する際、その時点では需要が高い製品も、5年後や10年後には同じように需要が続くとは限りません。

そのため、将来の市場動向を予測し、変化に対応できる技術力やノウハウを持っているかどうかを慎重に評価することが重要です。

また、市場のニーズが変わった場合でも、新たな製品やサービスを開発できる柔軟性を持つ企業とのM&Aを検討することが、長期的な成功を収めるための鍵となります。

原材料調達国・調達経路を確認する

電子部品の製造には、レアメタルや希少鉱物が多く使用されており、その多くは発展途上国で採掘されています。しかし、これらの資源が採掘される国々では、政治的な不安定さや紛争が頻発していることが少なくありません。

そのため、M&Aを検討する際には、対象企業がどの国からどのような経路で原材料を調達しているのかを詳しく確認する必要があります。特に、現地の情勢悪化や不法行為、人権侵害、さらには採掘規制が将来的に供給を妨げるリスクが無いかを慎重に評価することが求められます。

これにより、長期的に安定したサプライチェーンを確保し、企業全体のリスクを低減することが可能となります。

規制に該当する物質が使用されていないか確認する

電子部品業界を含む製造業界では、廃棄物や環境への影響に関する法令や規制を遵守することが求められています。特に、世界的に有害物質に対する規制が厳格化されているため、注意が必要です。

もし、売り手企業が規制対象の物質を使用していることに気付かずに取引が成立した場合、買い手企業はその責任を負うことになり、取引先や世間からの信頼を失うリスクもあります。

したがって、事前に綿密な調査を行い、取引先が信頼に値する企業であるかを確認することが不可欠です。

電子部品業界における今後のM&Aの課題と展望

電子部品業界におけるM&Aでは、単に規模拡大を目指すのではなく、自社に不足している技術やノウハウを補完するための企業買収が主流となっています。特に、AI、IoT、自動運転技術など、近年の革新的な技術の登場により、これらを取り入れるためのM&Aは今後も増加する見込みです。

また、中国や韓国の安価な製品に対抗するため、M&Aを通じて海外に製造拠点を移し、生産コストの抑制を図る企業も増えています。

さらに、アジア圏の電子部品メーカーの急速な成長により、業界全体の競争が激化しているため、企業は事業ポートフォリオの再評価を行い、一部事業の売却や資本提携を通じて事業基盤の強化を進めています。

このような動向は、今後も一層活発化するでしょう。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

立教大学経済学部卒業後、2007年国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。2021年当社入社後は、広報責任者としてグループ広報業務全体を管掌。

一般社団法人金融財政事情研究会認定 M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者


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