酒造業界のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

酒造昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介のメインビジュアルイメージ

更新日

  • #業種別M&A動向
  • #酒造業界 M&A

後継者不在や経営難に直面する酒造業界では、伝統や技術を守りながら次世代へつなぐ手段としてM&Aの活用が進んでいます。販路拡大や海外展開を目的とした異業種からの参入も増加傾向にあり、業界再編が加速中です。

本記事では、酒造業界における近年のM&A動向や、具体的なM&A事例を紹介します。

酒造業界の概要

酒造業界は、清酒や日本酒を中心に、多くの小規模酒蔵が支えています。伝統的な分野ですが、免許制度による新規参入の難しさや経営基盤の脆弱さといった課題も抱えています。

酒造業界の定義

清酒酒造、日本酒業界とは、1953年に公布された現在の酒造法において、アルコール分1%以上の飲料や粉末の製造を行う企業を指すと規定されています。

清酒・日本酒はいずれも米を原材料としていますが、日本酒は国内産の米のみを原材料とし、清酒は海外産も含めた米を原材料とする点が、両者の異なる点です。

ビールやウイスキーなどの洋酒は少数の大企業による寡占的な生産・販売が進み続けています。それに対し、江戸期以前からの清酒・日本酒は、大企業だけでなく多くの小企業が製造している点が現産業構造の特徴です。小規模な酒蔵が地域の特色を生かした清酒・日本酒を製造し、清酒・日本酒文化を地方から下支えしています。

反面、経済的基盤が脆弱な酒蔵が多いことが課題です。また後述の酒類の製造免許の関係で新規参入業者が市場に参加することが難しいことなどから、新たな改革が業界全体に望まれています。

酒造業界の特色

清酒、日本酒を製造するのに必要な酒蔵を設立するためには、「酒類製造免許(酒造免許)」を取得しなければなりません。しかし現在、一部の例外を除き、新規で酒造免許を取得することは認められていない状況です。

ただし、国外での日本酒ブームの高まりに乗じて酒税法の一部が改正され、2022年より輸出目的に限定した場合のみ、新たに酒類酒造免許を取得できるようになりました。

酒造業界のM&A動向・市場規模

酒類の課税移出数量は1999年にピークを迎えて以降、年によりある程度の増減はあるものの、全体として減少傾向にあります。

また、酒類の消費量に関しては、2022年の成人一人当たりの種類消費数量は75.4Lとなっており、ピーク時の1992年(101.8L)から約73%にまで減少しています。

酒類課税数量の推移
画像出典:酒レポート 令和6年6月

その背景には、低価格を好む志向の定着やライフスタイルの変化、健康意識の高まりなどによる嗜好の多様化があると考えられます。こうした傾向は清酒・日本酒だけにとどまりません。海外でもワインなどの消費量が落ち込みつつあることから、世界的にアルコールの消費量が減りつつある状況です。

また、製造方法別製造場数の推移を見ると、いずれも減少傾向にあり、特に吟醸酒、本醸造酒の減少幅が目立ちます。これは、和食に代わり洋食が食卓に上がる頻度が増えたことや、燗酒を嗜む人が減ったことなどがおもな原因であると考えられるでしょう。

このように、国内における酒需要が長期的に減少しているなかで、各酒造は多様化するニーズに向けた新たな製品の創出や新たな市場への進出、また経営改革や組織構造の転換が求められています。

酒造でM&Aを活用するメリット

日本酒業界でM&Aを活用する主なメリットは以下のとおりです。

一つずつ見ていきましょう。

ブランドを引き継げる

日本酒業界のM&Aでは、取引相手となる酒造が築いてきた文化や歴史を理解することが非常に重要なポイントとなります。

M&Aにより酒造事業を継承する際には、廃業を避けるために売り手の酒蔵と買い手企業の間で条件交渉を行うだけでなく、酒造の抱く「酒造りへの想い」の共有が大切です。

M&Aを活用し、酒造りを継承できれば、酒造りの伝統や価値観が継承され、酒蔵の再生と持続可能な発展が期待できます。

酒造免許を承継できる

酒蔵のM&Aにおける買収側メリットの一つは、酒造業免許の取得です。酒造免許は工場(酒蔵)に紐づいているため、M&Aで酒蔵を手に入れると、免許も同時に取得できます。

特に地酒の新規免許取得は、現状の酒税法では原則として認められていないため、この方法で新たに酒造りに参入する買い手が多く見られます。

また、日本国内における酒類に関する規制や免許などは多々ありますが、特にインターネットを通じて酒を販売するためには酒類小売業免許と通信販売酒類小売業免許を取得しておかなければなりません。

また、免許を取得した場合でも、年間3,000kl以上の酒類を販売する国内メーカーの酒を通販で取扱うことは禁じられています。

ですが、この規制が制定された1989年以前に交付された酒類小売業免許(いわゆる「ゾンビ免許」)を取得している場合は、3,000kl以上の販売数量のメーカーであっても通販で酒類を扱うことが可能となります。

通販事業の拡大を目指している異業種は、この「ゾンビ免許」を目的にM&Aを実施するケースもあり、M&A戦略の一部として活用されるシーンが増えています。

ただし、酒造免許は法人や施設ごとに発行される「許認可」であり、単純に資産だけを買い取る「事業譲渡」のようなスキームでは承継できない点には注意が必要です。免許を維持したまま引き継ぐには、法人格を残したまま株式を100%譲渡する形を取らなくてはいけません。そのうえで、買い手側に欠格要件が無いことが前提条件となります。スキーム設計を誤ると免許の失効につながるリスクがあるため、M&Aを行う際には十分な法的確認と専門家の関与が求められます。

地域資源や観光資源との連携による地域活性化

M&Aによって、地域の特産品や観光資源と連携した新たな事業展開が可能です。

例えば、買収先の酒蔵が持つ地域ブランドや歴史的建造物、蔵見学ツアーなどを活用し、観光業や地元飲食店と連携したイベントや体験型プログラムを展開すれば、地域全体の活性化や新たな顧客層の獲得につなげることができます。

酒造のM&A事例

酒造業界では、伝統ある酒蔵の承継や海外展開、異業種との連携など、さまざまな目的でM&Aが活用されています。ここでは、販路拡大やブランド再生、地域文化の継承などを実現した代表的な事例を紹介します。

株式会社Agnaviと株式会社日本政策金融公庫

2024年1月、株式会社Agnaviは、株式会社日本政策金融公庫と「農林水産物・食品輸出基盤強化資金」を活用した融資契約を締結し、総額8.5千万円の資金を調達したと発表しました。

神奈川県茅ヶ崎市に本社を持つAgnaviは、日本酒ブランド「ICHI-GO-CAN®」と「Canpai®」などを展開する会社です。日本酒の消費拡大を目指し、農林水産省の「輸出事業計画」の認定も受けています。この資金調達は、海外市場での成長を加速し、事業の更なる発展を目的としたものです。

男山ホールディングス株式会社と男山株式会社

2023年5月、男山ホールディングス株式会社は、子会社である男山株式会社の不動産事業を、会社分割により引き継ぐことを発表しました。

この組織再編により、男山株式会社は日本酒製造業に専念し、その他の事業は男山ホールディングスが担当することとなりました。

今回の組織再編により、グループ会社各社の役割をより明確化し、それぞれの企業価値の向上を目指します。

株式会社老田酒造と株式会社タオイ酒造

2017年、株式会社老田酒造は、株式会社ジャパン・フード&リカー・アライアンス(JFLA)が設立した子会社、株式会社タオイ酒造に、事業を譲渡しました。

老田酒造は、岐阜県高山市で江戸時代中期から酒類を製造している会社です。「鬼ころし」などが親しまれていますが、経営赤字に苦しむ状況が続いていました。事業譲渡で得た対価で負債を返済して会社を清算しますが、これまで酒類の製造に関わっていた従業員はタオイ酒造へ移り、引き続き酒類の製造に携わります。

このM&Aにより、地域の歴史的な酒造りが守られることになりました。

菱友醸造株式会社と磐栄運送株式会社

2017年4月、磐栄運送株式会社は、自己破産した菱友醸造株式会社の酒造事業を承継することを発表しました。

菱友醸造は、長野県下諏訪町にある酒蔵です。一方の磐栄運送は福島県に拠点をおく運送会社ですが、かねてより菱友醸造との取引をしていました。地元で愛されるブランドを無くすまいと名乗りをあげ、事業承継に踏み切った事例です。

株式会社リオン・ドールコーポレーションと株式会社ヨシムラ・フードHD

2021年5月、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、自社グループ傘下の栄川酒造を、スーパー経営の株式会社リオン・ドールコーポレーションに譲渡したことを発表しました。

この譲渡は、リオン・ドールコーポレーションがウイスキー市場への新規進出を目的として行われたものです。栄川酒造が第三者割当増資を行い、リオン・ドール側がそれを引き受ける形での実施となりました。

買い手側のリオン・ドールコーポレーションは、福島県、栃木県、新潟県において67店舗のスーパーを経営しており、M&Aを機に栄川酒造の日本酒とウイスキーを販売することで更なる売上の増加を目指します。

マルコメ株式会社と千代の亀酒造株式会社

2024年6月、マルコメ株式会社は、江戸時代から瀬戸内で清酒を醸造してきた千代の亀酒造株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。このM&Aは、千代の亀酒造の販路拡大を目的としたものです。歴史ある酒蔵の伝統やブランド力を活かすことで、より広い市場での販売展開や事業成長が見込まれます。

宝酒造インターナショナル株式会社とカーゲラー社

2024年11月、宝酒造インターナショナル株式会社は、独Kagerer & Co. GmbH(カーゲラー社)の出資持分のうち90%を取得しました。

宝酒造インターナショナルは北米・欧州における日本食材卸の拠点拡大を推進しています。このM&Aの狙いは、カーゲラー社が持つ強固な事業基盤や欧州各国への取引ネットワークを活用することで、ドイツ全域および東欧・北欧などの新規市場開拓を加速させることです。

日本食の世界的な需要拡大を背景に、和酒や日本食材の販売強化とネットワークの拡充を通じて、グループ全体の企業価値向上と日本食文化のさらなる普及を目指します。

関連記事
当社でお手伝いした外食・食品業界のM&A成功事例

酒造におけるM&A成功のポイント・注意点

酒造業界におけるM&Aを成功させるには、作り手の想いや伝統、無形資産を丁寧に引き継ぐ姿勢と共に、酒税法や許認可に関する法的確認を徹底し、関係者との信頼関係を築きながら慎重に進めることが重要です。

作り手の想い・伝統をしっかりと受け継ぐ

日本酒造りは、地域の風土や歴史と密接に結びついています。そのため、M&Aにおいては単なる経営権の移転にとどまらず、長年培われたブランドや醸造技術、作り手の想いをどのように継承するかが重要です。買い手企業には、酒造りへの理解と敬意が求められ、従業員や地域住民との信頼関係を大切にしながら承継を進める姿勢が欠かせません。特に後継者難や経営難を背景とするM&Aでは、廃業を回避し、伝統を次世代へつなぐ持続可能な選択肢としての意義が一層高まります。M&A後のPMIにおいても、組織文化や職人の技術、地域との関係性といった無形資産を丁寧に引き継ぐことが不可欠です。事前に承継計画を策定し、関係者との信頼関係を築きながら移行を進めることが、成功のカギとなります。

関連記事
M&AにおけるPMIとは?
重要性や実施項目、プロセス、成功させるためのポイントを解説

許認可・法規制の確認を行う

日本酒業界でM&Aを実施する際には、関係する酒税をはじめとする法令や、規制などの遵守と許認可の確認が極めて重要です。

そのため、M&A実施に際しては徹底したデューデリジェンスの実施が必要不可欠となります。

具体的には、酒造法や酒類業組合法など、酒類製造・販売に関する法令・規制を守っていることや、現在酒造が有している許認可が有効なものであること、そしてM&A後もその有効性が継続されることを確認しておかなければなりません。

M&Aに先立っては、法務・財務・事業の各側面におけるデューデリジェンス(精査)を実施し、免許や法令遵守状況、将来的なリスクなどを丁寧に確認する必要があります

特に、酒造免許や販売免許を引き継ぐ際には名義変更手続きが必要なため、チェック内容には漏れの無いように注意することが大切です。

関連記事
デューデリジェンス(Due Diligence)とは?
目的や具体的な手順と注意点を解説

酒造における今後のM&Aの課題と展望

酒造業界では、後継者不足や経営基盤の脆弱化を背景に、M&Aの重要性が高まっています。M&Aは、伝統や技術、ブランドを守りながら、販路拡大や新規事業展開を実現できる有効な手段です。一方で、酒造免許や販売免許に関する法的手続きの複雑さや、伝統・地域性の継承、従業員や地域社会との信頼関係の維持といった課題もあります。

今後は、専門家の支援を受けながら、法令遵守と許認可の適切な承継、地域資源を活かした観光や体験事業との連携などを通じて、持続可能な成長モデルの構築が必要です。M&Aによって新たな価値を創出し、地域と共に発展していく酒造業界の未来が期待されます。

関連記事
当社がお手伝いした外食・食品業界のM&A成功事例

M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、中小M&Aガイドラインを遵守し、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
着手金・月額報酬がすべて無料、簡易の企業価値算定(レポート)も無料で作成。秘密厳守にてご対応しております。
以下より、お気軽にお問い合わせください。

弊社の「中小M&Aガイドラインへの取り組み」に関してはこちらをご確認ください



よくある質問

  • 酒造業界でM&Aが進んでいる理由は何ですか?
  • 後継者不足や経営難を背景に、伝統や技術の継承と事業存続を目的としてM&Aが活発になっています。
  • 酒造業界におけるM&Aの主なメリットは何ですか?
  • ブランド・免許の承継、地域活性化への貢献、新市場開拓などのメリットがあります。
  • 酒造業界のM&A時に注意すべき法規制は何ですか?
  • 酒造免許や酒税法に関わる法的確認が必須で、適切なスキーム設計や名義変更が求められます。

ご納得いただくまで費用はいただきません。
まずはお気軽にご相談ください。

監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社企業情報部 部長桑原 正樹
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長
桑原 正樹

大手証券会社入社後、未上場企業・オーナー経営者の資産運用コンサルティングに従事。
2015年に当社入社後はM&Aアドバイザリーとして事業承継に関わる数多くの仲介実績を有する。

詳細プロフィールはこちら


M&Aを流れから学ぶ
(解説記事&用語集)

M&A関連記事

M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由

創業以来、売り手・買い手双方のお客様から頂戴する手数料は同一で、
実際の株式の取引額をそのまま報酬基準とする「株価レーマン方式」を採用しております。
弊社の頂戴する成功報酬の報酬率(手数料率)は、
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」を誇っております。