バー・居酒屋業界のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

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バー・居酒屋業界では、消費者ニーズの変化や人手不足、事業承継問題などを背景に、M&A(企業の合併・買収)の実施が活発です。既存ブランドの信頼や顧客基盤を活かした展開、地域密着型店舗の買収による事業強化など、業界再編を見据えた戦略的な動きが広がっています。本記事では、最新のM&A動向や代表的な事例、実施時のポイントについて詳しく解説します。

バー・居酒屋業界の概要

バーや居酒屋は、アルコールを中心に料理や空間づくりで個性を競う業態です。時代の変化に合わせ、形態やサービスも多様化しています。

バー・居酒屋業界の定義

バーとは、カクテルやワイン、ビールなど、アルコールをメインに提供する飲食店のことです。一人で寛ぐ場所やデートに適した雰囲気などが楽しめます。近年では、音楽やアートのイベントを開催するバーも増え、単なるアルコール飲料を楽しむ空間にとどまらず、楽しみ方が多様化しています。

居酒屋も、アルコールと共に、それに合う料理を提供する形態の飲食店と定義する飲食店です。バーと比べると料理のバリエーションも広く、おつまみからご飯もの、さらにはデザートまで、実に幅広いメニューを楽しむことができます。

バーや居酒屋業界では激しい競争が常に行われており、オーナーはお酒や料理、価格設定や雰囲気作りに工夫を凝らし、来店客が楽しめるための空間を提供しています。

バー・居酒屋業界の特色

バーはカウンターバーやショットバーとも呼ばれ、カクテルなどの酒類を提供する店舗です。バーテンダーがカウンター越しに酒類の提供以外にも接客などを行います。顧客には固定客が多く、ボトルキープを行う店からホテルのメインバーのようなオーセンティックなバーまでさまざまです。

一方の、居酒屋業界は、かつては軒先に赤ちょうちんを出し、日本酒やビール、焼き鳥、おでんなどが提案メニューでしたが、1980年代にチェーン店タイプの居酒屋が登場して以降、イメージから大きく変わりました。

チェーン店タイプの居酒屋では、明るい店舗と接客、多様なメニューといったこれまでとは異なるサービスが提供された結果、学生や若い会社員、女性を中心に受け入れられ、全国的にチェーン居酒屋ブームが広がりました。

その後1990年代に入ると内装や雰囲気にこだわったダイニングタイプの居酒屋が広がり、近年では特定の食材やお酒、食べ方にこだわった専門店タイプの居酒屋が注目を集めています。

バー・居酒屋業界の動向・市場規模

2024年のパブレストラン・居酒屋業態は、新型コロナウイルス禍からの回復傾向が続き、売上高・客数・客単価、共に前年を上回る推移となりました。

パブレストラン・居酒屋業態 売上高・店舗数・客数・客単価推移
参考:外食産業市場動向調査 令和6年(2024年)年間結果報告

2024年の売上高は全四半期で前年を上回っており、特に第1四半期の伸びが際立ちました。売上や客数の増加は、価格改定や外食需要の回復が主な要因とされています。客数についても全体的に増加傾向にあります。原材料費の高騰を背景に、客単価も全体的に上昇しました。

店舗数はコロナ禍前の水準に戻っていないものの、第4四半期には前年比でプラスとなり、下げ止まりの兆しが見られます。

バー・居酒屋業界でM&Aを活用するメリット

一つずつ見ていきましょう。

提供するメニューの幅が広がる

居酒屋やバー業界でM&Aを行うと、買収先企業は提供するアルコールや料理などのラインナップを拡充できます。

例えば、ビアホールがカクテルバーを買収することでアルコールメニューの増加や質の高いアルコールの仕入れが可能になったり、食事に強みを持つ居酒屋を買収して食事需要を取り込んだりすることができるでしょう。

また、経営規模を拡大することで一括仕入れが可能となり、スケールメリットを活かした仕入コストの削減につながるほか、相手企業の有する独自の仕入ルートの活用によるメニュー・サービスの質の向上なども期待できます。

バーテンダー・スタッフや設備を獲得できる

M&Aを活用すると、バーテンダーや調理スタッフ、接客スタッフなど優秀な人材や設備の承継ができるため、市場競争力の向上が望めます。

特に、バーや居酒屋の顧客は、バーテンダーや接客スタッフの人柄やサービスの良さに惹かれてリピーターになるケースがあります。そのため、優秀かつ有名な人材を獲得することは、利用客獲得に苦戦しているバー・居酒屋業界において大きなメリットになるといえるでしょう。

さらに、キッチンやビアサーバーなどの設備については、売り手の設備を上手に活用することで、設備投資コストを抑えながらサービスの拡充を図ることが可能です。

ブランド力・顧客基盤の強化が期待できる

M&Aを活用すれば、既存ブランドが持つ信頼性や知名度、地域に根ざした顧客基盤を一挙に獲得することが可能です。例えば、地域で長年にわたり親しまれてきたバーや居酒屋を買収することで、その店舗に通う固定客やブランドイメージを引き継ぎながら、自社ブランドとの相乗効果を期待できるでしょう。これにより、新規出店に比べて短期間で市場シェアの拡大が実現でき、競合との差別化や新たな顧客層の取り込みも容易になります。さらに、複数のブランドを運営することでクロスマーケティングが可能となり、ブランド間でのノウハウ共有も図れます。

バー・居酒屋業界のM&A事例

バー・居酒屋業界では、業態拡充や地域密着、国際展開を目的としたM&Aが多く実施されており、各社の成長戦略において重要な手段となっています。ここでは、代表的な事例をいくつか見ていきましょう。

チムニー株式会社とシーズライフ株式会社

2023年2月14日、チムニー株式会社は、連結子会社のシーズライフ株式会社を完全子会社化すると決定しました。チムニーは「はなの舞」や「さかなや道場」などの居酒屋チェーンを展開する会社です。一方のシーズライフは焼肉業態「焼肉牛星」を運営しています。2019年の子会社化以降、両社はブランドや店舗開発で連携してきており、その成果をより一体化することで、メニュー企画や店舗運営の迅速化を図ります。この統合により、チムニーグループは焼肉業態の拡充とブランドの統合による運営効率の向上を実現し、顧客ニーズに素早く対応できる体制を整えました。

株式会社レインズインターナショナルと株式会社アトム北海道

2020年3月、株式会社レインズインターナショナルは、子会社である株式会社アトム北海道の全株式を取得し、完全子会社化したことを発表しました。

レインズインターナショナルは、飲食店の経営やフランチャイズチェーン加盟店の募集などを行う会社です。一方のアトム北海道は、北海道で飲食店チェーンを運営する会社です。

今回の買収により、レインズインターナショナルは地域拠点を強化し、市場の拡大を目指します。

株式会社ダイナックホールディングスとRESTAURANT SUNTORY U.S.A., INC.

2020年3月、株式会社ダイナックホールディングスは、RESTAURANT SUNTORY U.S.A., INC.の株式51%を取得し、子会社化したことを発表しました。

ダイナックホールディングスは、パブレストラン・バー・居酒屋を中心に、多様な飲食店を運営しており、多彩な飲食業態の創造に取り組んでいます。一方のSUNTORY U.S.A.,INCは、ハワイで高級和食レストラン「燦鳥」を運営する会社です。

今回の買収によってダイナックは、国際市場でのプレゼンスを今以上に拡大させていくことを目指します。

株式会社海帆と株式会社SSS

2022年7月、株式会社海帆は、株式会社SSSを子会社化したことを発表しました。

海帆は、さまざまな形態の飲食チェーンや居酒屋などを運営しています。売り手となったSSSも、居酒屋を運営する会社です。株式譲渡による買収規模は6億3,000万円となりました。

今回のM&Aでは、両社が有するノウハウや経営資源の融合により、コストの削減や、オペレーションの合理化を図り、企業価値の向上を目指します。

株式会社鳥貴族ホールディングスとダイキチシステム株式会社

2023年1月、株式会社鳥貴族ホールディングスは、ダイキチシステム株式会社を子会社化しました。

鳥貴族ホールディングスは、「焼鳥屋 鳥貴族」をはじめさまざまな業態の居酒屋チェーンなどを手がけています。一方のダイキチシステムは、「やきとり大吉」のフランチャイズ店舗を経営する会社です。

鳥貴族ホールディングスはダイキチシステム株式会社を傘下に迎えることで、国内市場でのシェアの強化およびグループ全体の経営力向上を図ります。

株式会社ジェイグループホールディングスと株式会社エッジオブクリフ&コムレイド他2社

2024年12月、株式会社ジェイグループホールディングスは、次の3社の株式を取得し、子会社化することを決議しました。

  • 株式会社エッジオブクリフ&コムレイド
  • 株式会社EOCクラシコ
  • 株式会社EOCブレイン

買い手となったジェイクグループホールディングスは、居酒屋やレストラン、カフェなど、幅広い飲食事業を展開する会社です。一方、売り手となった3社は、「東京ブッチャーズ」「ブッチャーブラザーズ」「森のブッチャーズ」「egg baby café」など、関東を中心にバルやレストラン、カフェ業態を展開しています。ジェイクグループはこのM&Aによって、売り手企業のノウハウやブランドをグループに取り込み、さらなる成長と収益力の強化を目指します。

株式会社丸七とエコー商事株式会社

2024年4月、株式会社丸七は、エコー商事株式会社から「ジャンボおしどり寿司」の営業権を譲り受けました。丸七は、神奈川県内で11店舗の寿司・海鮮居酒屋を運営しています。一方、ジャンボおしどり寿司は、神奈川県内に5店舗を構える地域密着型の寿司ブランドとして、長年にわたって営業してきました。丸七は自社の「地域密着型」かつ「寿司・海鮮を主力とする」事業方針と、ジャンボおしどり寿司の業態・ブランドに親和性があると判断し、このM&Aに踏み切っています。今後は既存店舗との相乗効果を発揮し、地域に根差した寿司・海鮮業態の強化と顧客基盤の拡大を目指します。

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バー・居酒屋業界におけるM&A成功のポイント・注意点

バー・居酒屋業界でM&Aを成功させるには、労務管理や契約関係のリスクを見落とさず、統合後の運営体制や制度整備まで含めた丁寧な準備と対応が求められます。

従業員の労働状況を確認する

M&Aを検討する際には、買収先企業の従業員の労働環境について事前に十分な確認を行うことが重要です。飲食業界では、長時間労働や未払い残業といった問題が慢性化しているケースも多く、M&A後に過去の労務トラブルが発覚すると、訴訟や離職といったリスクを招く可能性があります。そのため、勤怠記録や雇用契約、過去の労務トラブルの履歴を確認する「労務デューデリジェンス」が欠かせません。また、統合後には評価制度や就業ルールの違いを丁寧に調整し、労働環境の格差を是正することが求められます。こうしたPMIにおける制度統一の取り組みが、従業員の定着や早期の戦力化につながります。

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賃貸借契約・店舗契約の契約状況を把握しておく

店舗の賃貸借契約や取引先との契約状況の確認も、居酒屋やバー業界でM&Aを行う際にはチェックすべきポイントの一つです。

例えば、買収後に店舗をそのまま継承することを期待してM&Aに踏み切った結果、実施前に売り手側の賃貸借契約が切れてしまうようなケースが考えられます。

また反対に、店舗の移転を視野に入れていたにも関わらず、契約条項に途中解約が含まれていたため、元の店舗での営業をせざるを得ない可能性も考えられます。

特に、定期賃貸借契約をしていた場合は契約期間が明確に定められており、原則として途中契約が認められていません。したがって、売り手企業がどのような条項で契約しているのか、また変更は受け入れられるかなどを、契約書を詳細に読み込んで事前に確認しておくことが大切です。

バー・居酒屋業界における今後のM&Aの課題と展望

バー・居酒屋業界におけるM&Aは今後も活発に行われる見込みです。デジタル技術の導入や業務効率化、ノンアルコールや健康志向メニューの充実、地域密着型店舗の買収などにより、幅広い顧客層への対応や事業基盤の強化が期待されています。

一方で、いくつかの課題も浮き彫りになっています。例えば、健康志向の高まりやノンアルコール市場の拡大、若年層の飲酒離れといった消費者ニーズの変化に柔軟に対応できるかが大きなポイントです。さらに、ブランドや企業文化の統合、従業員の離職、簿外債務や偶発債務の引き継ぎといった、M&Aに特有のリスクにも注意が求められます。

今後のM&Aを成功させるためには、徹底したデューデリジェンスやPMI(経営統合)の実施、そして明確な目的設定が重要です。

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よくある質問

  • バー・居酒屋業界でM&Aが活発な背景は?
  • 消費者ニーズの変化や人手不足、事業承継の課題が影響し、M&Aによる業態再編が進んでいます。
  • M&Aを活用することで得られる主なメリットは?
  • メニューの多様化、人材や設備の獲得、ブランドと顧客基盤の承継が可能になります。
  • M&A時に気をつけるべき労務リスクは?
  • 長時間労働や未払い残業などの過去の労務トラブルが将来的なリスクになり得ます。
  • 店舗の契約面で注意すべきポイントは?
  • 賃貸借契約の条項確認が不可欠で、契約切れや途中解約制限などを事前に精査する必要があります。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社企業情報部 部長桑原 正樹
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長
桑原 正樹

大手証券会社入社後、未上場企業・オーナー経営者の資産運用コンサルティングに従事。
2015年に当社入社後はM&Aアドバイザリーとして事業承継に関わる数多くの仲介実績を有する。

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