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近年、宗教法人業界でも法人譲渡(M&A)の動きが注目を集めています。経営環境の変化や後継者問題を背景に、M&Aは持続的な運営のための有効な手段となり得ます。
ですが、特有の規制や文化的背景を持つ宗教法人において、M&Aを成功させるには慎重な対応が求められます。本記事では、宗教法人業界におけるM&Aの基本的な概要やメリット、そして成功するためのポイントなどを詳しく解説します。
宗教法人業界の情報
M&Aについて触れる前に、宗教法人業界の定義や、代表的な法人、業界ならではの特色などについて確認していきましょう。
宗教法人業界の定義
宗教法人とは、法人格を取得した宗教団体のことをいいます。営利を目的としない非営利団体であり、公益事業もできる公益法人の一つです。
宗教法人は、大きく分けて以下の2種類に分けられます。
宗教法人の種類 | 概要 |
---|---|
包括宗教法人 | 宗派,教派,教団のように神社,寺院,教会などを傘下に持つ法人 |
単位宗教法人 | 神社,寺院,教会などのように礼拝の施設を備える法人 【被包括宗教法人】 単位宗教法人のうち包括宗教法人の傘下にある宗教法人 【単立宗教法人】 単位宗教法人のうち包括宗教法人の傘下にない宗教法人 |
法人格を取得していなくとも、宗教活動を行うことは自由です。ただし、不動産等を所持する権利主体となるためには、宗教法人になる必要があります。
また、宗教法人は統計上の分類として、神道系、仏教系、キリスト教系、諸系に分けられます。
代表的な宗教法人
宗教法人には、多様な信仰や教義に基づいて設立された多くの種類が存在し、その規模や活動内容もさまざまです。そのなかでも代表的なものが以下の4つです。
- ・神社本庁(神道系)
- ・浄土真宗本願寺系(仏教系)
- ・浄土宗(仏教系)
- ・真宗大谷派(仏教系)
宗教法人業界の特色
宗教法人は、宗教法人法により、国などへ毎年活動実態等を報告することが義務付けられています。
しかし、2004年以降、報告が無い宗教法人が倍増し、問題となっています。宗教法人が税制面で優遇されていることや、「信教の自由」を侵害する等の理由で認証取り消しができないことなどを悪用する形で、ブローカー等が法人格を売買し、脱税に悪用するなどの事例が後を絶たちません。
宗教法人業界の市場規模・動向
戦後、日本国憲法で信教の自由が保障されたことにより、宗教法人は昭和29年には約19.7万法人に急増しています。特に戦後の混乱期においては、多くの宗教団体が法人化を進め、全国的に広がりを見せました。
しかし、その後は宗教法人の統合や解散が進み、1994年度には約18.4万法人をピークに徐々に減少傾向が見られるようになりました。2022年度には宗教法人の数が18万台を割り、17,952法人となり、さらに2023年には179,339法人まで減少しています。
このうち、包括宗教法人は393法人、単位宗教法人は178,946法人を占めており、全体の宗教法人の数は単位宗教法人の増減が大きく影響しています。包括宗教法人の数には大きな変動が見られない一方で、単位宗教法人の数の増減が、宗教法人業界全体の動向を左右する主要な要因となっています。

宗教法人業界で法人譲渡(M&A)を活用するメリット
宗教法人業界におけるM&Aは、組織の持続的な運営や信者の保護において重要な手段となります。M&Aを活用して得られるメリットのなかでも、特に重要なのが以下の2つです。
ハードルの高い新規設立を避けられる
新たに宗教法人を設立する場合、そのプロセスは容易ではありません。まず、宗教団体として最低3年間の活動実績を積み、その後に所轄庁の認可を受ける必要があります。そのため、法人化には少なくとも3年以上が必要です。さらに、現在の宗教法人数が飽和状態にあるため、地域によっては新規設立が難しい場合もあります。
しかし、M&Aを通じて既存の宗教法人を取得する場合、条件が整えば短期間で宗教法人を譲受でき、多額の費用も抑えられます。また、新規設立が難しい環境下では、譲受ニーズが高まるため、譲渡側も有利な条件を提示しやすくなるでしょう。
結果として、譲渡側と譲受側の双方にとって、メリットの大きい取引が実現しやすくなるのです。
後継者問題を解消できる
M&Aの活用による譲渡側のメリットとして、後継者不足という大きな課題が解消できることが挙げられます。
全国に約8万あるお寺のなかで、住職が不在の「空き寺」は約2万、全体の約25%が廃寺の状態です。この問題は、住職という重責を担う後継者の不足から生じており、近年その状況はさらに悪化しています。
しかし、M&Aを通じて事業継承が可能になれば、後継者問題を早期に解決できるだけでなく、廃業を避け、新たな施設の活用方法を見出すことも可能です。
これにより、宗教法人は継続的な運営を確保しつつ、地域社会における新たな役割を担うことができるのです。
宗教法人業界における法人譲渡(M&A)のポイント
宗教法人業界におけるM&Aは、特有の規制や文化的背景を理解したうえで慎重に進める必要があります。これを踏まえ、成功のために押さえるべきポイントは以下の2つです。
単立法人であることを確認する
宗教法人には、包括宗教法人・被包括宗教法人・単立法人の3種類が存在し、それぞれに特有の規制があります。それは、一般の人が後継者として代表役員になれる法人と、そうでない法人があることです。
そのため、「宗教法人を譲り受けたが、代表役員になれなかった」という事態が起こり得ます。このようなことから、譲受を検討する際には、一般の人でも代表になれる単立法人を選ぶことが、リスク回避のために重要です。
なお、単立法人であれば、譲受後の運営もスムーズに進められるでしょう。
債務状況を確認する
宗教法人は基本的に金融機関からの借入が難しいため、個人的にお坊さんや神主さんが借金を抱えているケースが少なくありません。そのため、法人譲渡後にトラブルを避けるためには、隠れた財務リスクが無いかを事前に確認することが重要です。
特に、お坊さんや神主さん、さらには檀家さんとの間で問題が発生しないよう、慎重に調査を行う必要があります。
宗教法人業界における今後の法人譲渡(M&A)の課題と展望
第三者が宗教法人を譲り受ける行為は、かつてと比べれば一般的になりました。その一方で、宗教法人が税制面での優遇措置を受けていることや、「信教の自由」を理由に認証の取り消しが難しいという制度の盲点を突いて、ブローカーが法人格を売買し、脱税の手段として悪用する事例が問題となっています。
また、高齢化が進むなかで、ご高齢の住職や代表者が増加しており、これがM&Aのニーズに影響を与えています。
さらに、霊園や納骨堂ビジネスに参入するために宗教法人を取得したいと考える企業も散見されるようになり、こうした要因から、今後も一定のM&Aニーズが継続するでしょう。
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